ボッチはロールキャベツ系男子?



『タンタンタンっ』


「どうぞ」


 読書をしていたところ扉が叩かれるのを聞こえたので藤村がそれに返事をした。


「し、失礼しまーす」


 放課後の部室にそう言いながら入ってきたのはブレザーを押し上げるおっぱい。


「片岡先生に言われて来てみたんですけど……あっ、ラップが居るーっ!!本当にここの部員だったのねっ!?」


 いや来たのは身振り手振りで戯けた様子をコミカルに披露する河南だった。


「そんなに驚くことじゃないと思うんだが……」


「2年3組の河南杏里沙かわなみありささんだったわよね?私は7組の藤村彩海ふじむらあやみよ、以後よろしく。とにかく先ずは座って」


 俺の左奥から河南にそう声をかけて椅子を引っ張って来たのは藤村だ。


「あっ!ありがとう!ていうか私のこと知ってたんだね」


 そう言うと藤村の斜め前に座って不思議なことに、学年の2輪の高嶺の花が隣り合って座っているという何とも絵になるような光景が出来上がっていた。


「この学校で知らない奴は居ないんじゃないの?」


 仮に居たとしたらそいつは重度の引き篭もりだな。


「そんなことないわ、現に私はあなたの名前なんて知らなかったもの」


 藤村のやつめただ俺を揶揄いたいがために強引に話を腰を強引に折るのかよ。


 呆れた。たぶんコイツ天変地異が起きても俺を弄るのを辞めないんだろうな。


「今完全に河南の話をしてたよな?会話の本質が『相手に自分が思ったことを伝え合うの』なんて説教垂らしてた奴がそのキャッチボールすらも真面にできないなんて大丈夫か?」


「犬のポチにはボールよりも骨のオモチャがお似合いだもの。でもそれが某ゾンビ名作ゲームに出てくるような気持ち悪いゾンビ犬のようだったから仕方ないわ」


「俺はそこまで醜くなった覚えはないんだが?」


「でも気にすることないわ。そんなあなたの存在から目を逸らしたくなる、私の覚悟の弱さが悪いもの」


 そのまま銃も逸らして大人しくしてろ。望み通りにバックリと大きく開いた口から触手も出してかぶり付いたら噛み殺してやるからな。


「それは俺の存在が眩し過ぎるせいでサングラスをかけざるを得なくなったんだろ」


「真実とは常に痛いものだもの。あなたが片岡先生に提出したアンチテーゼのようにね」


「なんでそれを知ってんだよてめえ」


 またあのキャバ嬢だろ絶対そうだろ藤村に俺の黒歴史を暴露しやがってあの痴女。


「……凄い……何だか楽しそうな部活動だねっ!……それにラップってアヤミンに対してだけは、そんな風に何の遠慮もなくぶつかってくれるんだね……」


「えっ?」


 相変わらず感情表現の仕方がコミカルで喜怒哀楽も距離の縮め方が激しい奴だな。隣で「あやみん……?」と呟く藤村を放置して話を進めてみる。


「ああいやなんて言うか!……ほら、ラップっていつも教室で静かに過ごしてるのに、たまに『クククっ』て邪悪な笑み浮かべながらニヤケてたりと挙動が超絶キモいときもあるし」


 やっぱりお前も本音ではそう思ってたんだな俺はもう騙されんぞッ!!


「……いや待て、本気で言ってるのかよそれ……」


 おいおい、マジかよ今まで気づかなかったぞそんなことに。


 まるで厨二病の患者じゃん……あ、死にたい。


 穴があれば今すぐにブラックホールにでも飛び込んで跡形もなく消えたい。


「ふっ、あなたのあの気持ち悪い笑みも声もここだけかと思ってたら教室でもそうだったのね……あなたのそれはドン引きするレベルだから、改めてあなたの課題に関して優先順位を変更すべきかしら」


「っ……河南もそうだが気づいてたんならその場で言ってくれよ」


「えーっと」


「嫌に決まってるでしょ、気持ち悪い姿のときに話しかけたら私までもが病気に感染しそうだもの」


「心の病でも無えから。少し制御が難しくてたまに左手が勝手に疼いたり暴走する時もあるけど俺の人生における立派な指針なんだよ」


 カッコ良くなりたいと思って行動して一体何が悪いと言うのだ。


 失敗することの方が多いかもだけどそれでも俺は誇れる自分になりたいのだ。


「それじゃあまるでラップが二重人格者みたいだねっ」


「それで荒牧くんは次の行動に移るたびに、何かと左人差し指を親指でポッキリ鳴らしたりしてたのね。自分目線ではやけにカッコつけたかのように行ってたようだけれど一応注意しておくとかなり痛々しいわよ?」


「あっははっやっぱりそうだよねっ!補足するとクラスの女子たちも実は結構引いてたりするんだよ?」


 某ダークファンタジー作品の主人公がカッコよかったから無意識に真似てたようだな。でも普段は家でしかやってないはずなのに、学校でもやってたのかよ俺!?


「ンガアアアアァァァッ!!俺をみないでくれッ!!」


 最早右隣の壁の方を向くことでしかこの羞恥で真っ赤な顔を誤魔化せなくなった。


 もういっそ殺してくれ……ていうか冗談抜きに転校を検討すべきかもしれない。


 クッソ〜まさか河南のやつまでが藤村の悪ノリに便乗するとは思わなかった。


 これは今後の戒めのためにもしっかりと反撃しておいた方が身のためだろう。


「っ……このヤリマンめ」


 そう言った瞬間河南は勢いよく立ち上がって顔を赤くしながら言い返してきた。


「はっ!?ヤリマンって何よ私はまだバージ、ぇあっ?──〜〜〜〜っ!!いや違うっ!いやあ違わないけどそうじゃないっ!?っていやもう何でもないからッ!!」


 それは良いことを聞いたな、そして勝手に自爆した河南に内心でほくそ笑む。


 その真っ赤な顔と半開きにした口を両手で必死に隠そうとする姿も可愛い奴だな。


「別に恥ずかしいことではないと思うのだけれど?むしろその歳でまだしょ──」


「スト〜〜〜ップっ!!ちょっと何言ってんのッ!17歳でまだとか恥ずかしいとは思わないの?私の周りの子たちはもう経験済みなのよ!?」


「私は逆に誇っても良いと思うのだけれど。自分の価値が高い証拠になるんだし」


 やっぱり藤村も例外なく俺の『女の子の定義』に括られるタイプの女の子だな。


 まあ個人的に悪い印象を抱いてないのだが。それにその意見には俺も同意だ。


 けどどうやら経験者が多い環境に身を置いてるせいで困惑してるようだな。


「俺も藤村に同意だけど、そんなに恥ずかしいなら勝手に本気でなっちゃえば?」


 そんときは高嶺の花やクラスのマドンナの地位は返上になるだろうがな。


 男女差別の意図は無いがどうしても一般的にそうなれば女性の評価は下がる。


 沢山のを開けられる鍵はマスターキーと形容できるので優秀な証拠だが、逆に1つの鍵穴が沢山の鍵にこじ開けられてると、その鍵穴の性能はだと言えよう。


「はっ!?ラップって実は平気で女性を取って食ったりしてるようなロールキャベツ系男子だったの?それにしてもマジでキモいし有り得ないからッ!!」


 確か草食に見えて実は女好きって意味合いだったよな……珍しい単語覚えてるな。


「全く違うしヤリマン呼ばわりと俺のキモさに相関性がないだろ?それと俺までを勝手にヤリチン認定するなよヤリマン」


「っこ、んのっ!!ラップほんとウザいきもいっ!つーか、マジでありえないっ!」


 ──そういえば俺、河南とこんな風にして本音ぶつけ合ったのは初めてだな。


「はいはい、そこまで。河南さんとの自己紹介に一段落がついたようだし、早速今から移動しましょうか」


「あっ!そうだね!アヤミンありがとう!それじゃあレッツラゴ〜!」


「え、移動って何のことだ?それに何をしに?」


「決まってるでしょ、早速これから河南さんの依頼を達成しに行くのよ」

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