ボッチと覗き



「アサリってほんとモテモテで凄いよね。3人で遊んでてもいつも男にナンパとかされちゃうしウチらは完全についでって感じだからさ」


「仕方ないでしょあんなキラキラ輝いてる子を男子がほっとく訳ないし。ぶっちゃけ芸能人に劣らない程アサリって可愛さレベチだから皆はあんなのに目が無いでしょ」


 人間は常に最高を求めたがるものだから『1番』に目移りするのは自然の摂理だ。


 それが2番手、3番手と玉座から弾かれた途端、見向きもされなくなるなんて現象はあるあるだろう。


 それが例え同じダイヤだとしても1番輝いてるのにしか興味が移らなくなる。 


「確かにウチらじゃ歯が立ちようも無いよね。荒牧くんもそう思わない?」


 なんて際どい質問を俺に訴えかけるんだ。


 これはどう答えるのが正解なんだ?いや分からないからもう正直に言うか。


「……2人とも可愛いと思うけどな」


 思ったより照れ臭いセリフが出てきたから視線を前方へと固定させたまま言った。


「えっ、ぁ……ありがとう」


「っ……へ〜荒牧もなかなかお世辞上手いじゃんっ!」


「それって褒めてるのか?」


 なんか今更照れ臭さで悶えたくもなったけど、とりあえず集中することにした。


「っ……とにかくあなたから何を提案されても嫌なので、ごめんなさいっ!」


「じゃあせめて友達からでも──」


「それもやめた方が良いよ、友達ならもう十分間に合ってるから」


 同意だな。好きな人とヨッ友のポジションを維持し続けても進展の可能性は絶望的だろうし、ただでさえコミュ力が高い河南じゃその土俵での競争相手が多過ぎるぞ。


「……そろそろ決着つきそうな雰囲気ね。それじゃあウチらも教室に戻ろっか」


 俺を掴んでいた腕をやっと解放して歩き出したと思うと、前田がそれを制する。


「あっきーそう急がないのっ!ちゃんと荒牧と……ああごめんね荒牧、アタシたちの気まぐれに巻き込んじゃって」


「っ……いや、あまり気にしなくても良いから……」


 事実俺は適当に昼飯のゴミを捨てにプラスティック袋を持ってる最中だし。


 いやそんなことよりも急な呼び捨ての衝撃の方がデカいんだが。


「どしたのミユ?」


「だからアレよアレ……って荒牧!スマホ貸してっ!」


「え?なんでだ?」


 上岡を引き留めたと思ったら急に何を言い出すんだこの前田は……。


「あ〜ニヒッなるほどね……ほらよっと」


「あっ!?」


 上岡も上岡でヤバいだろ。俺が今度は前田に腕を掴まれて逃げられないのを良いことに、俺のポケットからスマホを抜き取ったと思ったらポチポチし始めた。


「ありがとっ。あ、アタシの連絡先も登録しといてよね〜」


 ……は?


「前田……上岡は俺の携帯で何をしてるの……」


「これはね……もし何かがあった時のための保険、かな?」


 そう言ってからから笑う前田の言動が意味不明なんだが。


 それだけ言うと上岡が俺にスマホを返してくれた。


 するとどうやらメッセージアプリに新たな連絡先が2人分追加されてたようだ。


「ほれ、アタシとあっきーの連絡先よ」


「後でウチらの方でも登録しとくから、ちゃんと返事しといてよね」


「なんで──」


「じゃあまた今度ね荒牧っ!今日のことはウチらの3人での秘密だから!」


 上岡の方からも俺の呼び方が呼び捨てに切り替わってるし。


 まあ俺も最初から呼び捨てがデフォルトで呼んでたから人のこと言えないけど。


「アッハハ……そんじゃ、そう言うことだから。またね荒牧〜」


 やっぱり前田も俺の返事なんて待たずにサッと上岡の背中を追った。


「……嵐のような2人だったな」


 結局2人と連絡先を交換させられたのが謎のままなんだが……。


 保険とやらの意味も掴み損ねたが、まあ気にするだけでも無駄だろう。


 とりあえず元々捨てるつもりだったら袋をゴミ箱へ入れると元の位置へ。



 ※



「へあっ!?ぁ……荒牧くん……もしかして、聞いてたの?」


 すると案の定、ようやく相手の男から解放された河南と遭遇した。


 まあ意図的に接触するためにそのままベンチへ戻ったから驚きはない。


「もしかしなくても、聞こえてしまったんだよ」


 前田と上岡と覗きをしてたことは伏せて冷静に返事をする。


「そ、そう……ぅぁ……気まずいな……ブツブツ……」


 と言うのも遭遇してからの河南の様子が落ち着かない感じだからだ。慌ててる人間を前にしたら人が落ち着くものらしいが、それにしては随分の慌てようだな。


 顔も若干赤いし、さっきまでの告白場面を引きずってるのだろうか。


「河南はモっテモテだな」


「へえっ!?ぃ……いやまあそうだけど……そう言う荒牧くんはどうなの?」


 あれぇ……緊張を解きほぐすつもりで冗談を飛ばしたら、河南のやつ何故か今度は何かしらの強い意志を感じさせられるような真剣な眼差しで見つめてきたんだが。


「もしかして告白されたことあるか、ってことか?」


「っ……うん」


「それってアレか、今時告白されたこともない男子って、みたいな……?」


 内心では哀れとか童貞とか馬鹿にされてる系のやつか?流石に僕泣いちゃうぞ?


 まだ花の高校生活は折り返し地点を迎えてないから大丈夫だろ?なあそうだろ?


 それに告白経験のある奴なんて少ないだろ特に花園では、勝手な推測だけど。


 まあ個人的にはそういうのに縁が無かったから平和なボッチ生活を過ごせたが。


「ち、違うよ違うって!もう、そんなこと思うわけないじゃん……」


 もちろん俺がされる側に回ったことなんて今まで一度も無かったわけなんだが。その分河南は自信からも背筋が常に伸びててカッコいいからモテて仕方ないだろう。


 いつもは放課後に告白されてたようだから河南が告白される場面は初めて直接見たことになったんだが、モテるってのも想像以上に大変な宿命なようだな。


「やっぱりモテるってのも実際は大変そうだな」


「それはきっと私がクラス委員長やってるからだよ。他の子より目立つかもね」


 本心からそう言ってるんだろうが、役職を口実にクラスの1人1人にまで話しかけに回ったことがあるのはボッチの俺からすれば皆勤賞を授けるレベルの偉業だぞ。


「……ラップはモテるのに興味あったりするの?」


「いや全く。むしろ面倒そうだし」


「それは何でなの?」


「だってそうなったら四六時中、人の視線に晒されることになるだろ?おまけにどうでも良いだけじゃなく嫌いな人たちとも向き合わなければならなくなる。さっきの告白のように自分の時間が奪われる出来事も増えるしデメリットがデカいだろ」


 人から寄せられる好意には必ずしも裏の意図があったり、それを受け取る代償に対価を求められたりする場合が多いものだ。家族でもない限りはな。


「本当は自分に悩み事があるんだとしても周りから期待されてるから強くある必要があるし。1度そのヒーローのような仮面を被ったが最後、皆と別れるまで演技し続けなければならなくなる。だから俺には今の気楽な生活を抜け出したくないんだよ」


「あはは、確かにそうかも……悩みがあっても相談しにくいのも当たってるよ」


 ──これはチャンスかもしれないな。


「学年のアイドル様にも悩みってあったんだな」


「そりゃ勿論あるよ!私だって普通に悩み多き乙女なんだから」


 まあ人間に生まれた以上その性からは逃げられないか。人間は考える葦だと形容する科学者も居るし、想像力とは便利な反面自らを縛り付ける鎖にもなりうるようだ。


「そっか……」


 だったらその悩みを解決するのが先決だな。彼女を依頼人として誘うことにした。


「──それじゃあ放課後にボランティア部へ来いよ」

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