ボッチは裏の顔と対面する



「ふっ、ハズレ」


 その目を若干細めた上での渾身のドヤ顔がムカつくな。


 だったら部員が他に居ないのは藤村のその舐め腐った性格が原因だろうな。


 全く相変わらずな奴だな。


「じゃあここは何部なんだよ」


「その答えは私の行動と発言が物語ってるわよ?」


 ただ読書が目的な部活だなんてあるわけないだろ。


「……Do you know Japanese language?」


 英語の習い過ぎで日本語のコミュニケーション能力が退化してんじゃねえの?


 この人さっきから会話が全く上手く成り立ってない気がするんだが。


 そろそろイラついてきたので完璧なネイティブ発音で煽ってやったぜ。


 流石国際文化科の人間ってところだろうな。


 パリピの集団に放り込まれてるだけこともあるな、気が付かないうちに彼女達のパリピ文化に毒されてしまっているらしい。


「私を馬鹿にしてるのかしら、当然でしょ」


 これ以上突っかかってもメリットが無さそうだな、さっさと話を進めようか。


「……はぁ、もう降参だ。さっぱり分からん、答えはなんだ?」


 やっと俺をまともに相手する気になってくれたのか、再び読んでいた本に栞を挟んで閉じると意識をこちらに向けてきた。


「荒牧くん。あなた中学生の頃もまともに女の子と話したことあるのかしら?」


「はん……?」


 ふざけんな。


 世間の評価によれば、現在進行形で俺の人生が少々惨めなものだということは認めるが、流石に異性と話したことがない程に落ちぶれていないぞ。


 ……だが懐かしいな。


 俺が中学時代に最後に同年齢の女子とまともに話したのは。


 ──確か中3の文化祭のときだった。



 ※



「よし今から記念写真撮るぞ皆集まれー!」


 皆で机を教室の後ろ半分に寄せたので、担任の先生が真ん中辺りに机の上に立ってカメラを構えた。


 皆が真ん中にわらわらと集まっていくなか俺は端っこを狙ったので、無事撮影が終了した。


 すると、こんな発言が教室に響いた。


「──2組全員サイコ〜!!」


 だが俺は知っている、その『2組全員』の括りに俺が入っていないことを。


 だがあのときに魔が差したのか寂しさという感情がつい膨れ上がってしまい、それを紛らわせるために隣の女の子に流れで便乗してしまったのだ。


「2組サイコーだよね!!あたし本当にこのクラスで良かったよ!!」


 よし今だ!


「ああ、最高の思い出だったよね」


「えっ?」


 チーン。


「……あ、うん……」


 その子のすぐ隣ではしゃいでた女の子までが俺に白い目を向いてきた。


 辞めてマジで勘弁してくれ俺をそんな冷ややかな視線で見ないでくれ。


 というかもう忘れてくれ俺の存在ごとを記憶の奥底から。


「……そうだよね」


 そんな困ったような表情でお互いに微笑みあってる様見せつけられたら俺の発言で2人の楽しい時間を一瞬だけでも奪ってしまったのが申し訳なくなるだろ。


 その日の夜、俺は自分の行動を振り返って1人反省会をしていた。


「んがああああああああああああああああああああああああ!!!」


 芋虫のように毛布にくるまりながらムンクの叫びをあげ、自分のベッドの上を左右に転がり回っていた。


「なんで俺あのタイミングで話しかけちまったんだよバッカじゃねえのおお!!?あんなこと言わなきゃ良かったああああ今すぐ過去に戻って自分の口にガムテープ貼り付けてええ!!!今すぐ消えてええええええええええああああああああああ!!!」


 ベッドの枕に顔面を打ち付けるようにしたり両足をジタバタさせたりと、とにかく暴れなければ気が済まなかったな。


 ただあまりのうるささに家族に怒られてシュンとなりました。グスン。



 ※



 あれはもはや反省会という名の自己懺悔だが、あの頃は特に自分の行動1つ1つに対して後から査定しては評価を下す工程を踏んでいたのが習慣になっていたからな。


 別に次に向けての対策とか考えてたわけじゃないから無意味だったかも知れないが、アレもボッチとして過ごしてきた性のようなものだ。


 よってあんな風に悶え死にたくなった瞬間は過去に数え切れない程だったのだ。


 まあ人間は誰しもが黒歴史の1つや2つは持ってるものだろうからもう気にしないことにした。俺はただ人並みよりも少しだけ引き出しが多いだけだ。


「う、うん……」


 なんてものを思い出させやがったんだこの人は……。


「ふっ、可哀想な人ね。さぞ辛い思い出でも思い出していたんでしょう?顔が物凄く引き攣っていたわよ」


 やはりこいつはドSだな。


 他人の不幸は蜜の味と言わんばかりに今この状況を楽しんでやがるぞこの女ぁ。


 俺を見下したサディスティックな笑みまで浮かべているのが余計ムカついてどこまでも人の神経を逆撫でするのが上手いな。


「……性格悪いところが出てんぞ」


「構わないわよ。もう今更あなたに対して取り繕っても仕方ないでしょ?私の裏の顔を知ったんだから隠しても意味がないわ」


 確かにこの1年間で聞いた情報を思い出してみても、藤村彩海が実はサディスティックな笑みを浮かべながら人を虐めるのが好きなんて噂は聞いたことない。


 学校の男子たちがこの女の舌打ちしてる場面も目の当たりしたら、どんな反応が広まるのかが少し気になってきたぞ。暴動と化して学級崩壊するだろうか。


「今まではずっと出さないようにしてたってことか。モテるってのも大変だな」


 こいつにカーストだの地位だのに興味があるかは知ったことじゃないが、何かしらの側面で何割かの学校の奴らにアイドル視されてるだろうことはなんとなく知ってるからな。


 実際に藤村ファンクラブが存在するかは俺も知らないが。


 それは仮面を被ってるにも等しい行為だから幾らか疲れるだろうな。


 けど人間は誰しも建前と本音を使い分けているだろうから無理もないか。


 それでも嘘を吐かないだろう藤村との関わりは不思議と不快には思わない。


「そうね。わざわざ余計な反感を買ってもメリットが無いってことよ」


「俺は良いのかよ」


「丁度良い感じのサンドバッグが転がり込んできたんだから利用しない手はないでしょ?」


「……っ……」


 そうやってサディスティックな微笑を浮かべながらクスクス笑う藤村。


 ああ良くわかったよ。なんとなくこうなることは知ってたけど納得いかねえ。


 なんで俺は今日からこいつの悪意を吸収する永久機関に仕立てられなきゃならないんだ……。


「自由意志、そして自ら進んでやること」


 すると藤村は椅子を引いて立ち上がると俺の方へと歩きながら、口を開いて話し始めた。

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