ボッチはボウフラ呼ばわりされる
「えっと、2年3組、荒牧ラファエロです。んと……ってオイ事前説明も一切無しに、急に入部って何のことだよ」
顔を顰めながらも途中まで藤村に言い聞かせるように喋っていたが、あまりにも急過ぎる話の展開に片岡先生に状況の説明を求めた。
「アンタには過去に犯してきた朝の遅刻に欠席に授業中寝てる件も合わせて、今回提出してくれた舐め腐ったレポートの罰としてここで部活に邁進することを命じる。言うことを守ってくれないと内心点を大幅に下げるから君に反論する権利は無いわ」
何サラッととんでもないことを平気で言ってやがるんだこの人は。
一教師にしては少々勝手が過ぎるんじゃないのか。
職権濫用も甚だしいところだろう。
「訴えられろ」
しかも来年に受験生を控えてる身としては逆らいようがなく、やり方も驚くほど陰湿だろ。
さてはお主昔にヤリチンに引っ掛かってしまった時にされた事を自分流にアレンジして、そのまま俺に対して悪知恵を働かせたんじゃないだろうなッ!?
パパやママに「人にされて嫌なことは他人にしてはいけませんよ」と叱られて育って来なかったのか?今すぐにお尻ペンペンされれば良いのにこの悪徳女教師が。
「フッ。と言うわけで見かけ通りから分かると思うけど、折角のイケメンを台無しにする程の腐った狼みたいな目付きと同様に、根性も思考回路も腐敗し切っているわ」
そうですか普段から俺のことをどう見てるのかよく分かったよこのどうしようもないバツイチアラサーめ。
シンプルに禿げろ。
皮膚の穴という穴から全ての毛を抜き取られて人形みたいになっちまえ。それが円形状に脱毛していってくれたらなお良い。
自分でも自分の顔が父親譲りの彫りが深い顔で母親にもイケメンねと言われ育ってきたので分かるが、後者の説明は完全に余計だ。
「……ぃ……」
仮に百歩譲るとしてもそれはあなたの感想だろう。
こう見えて俺は自分の今の性格を気に入ってるんだし矯正する必要性も皆無だと考えている。
別に誰かに危害を加えたり迷惑をかけてるわけでも無いから余計なお世話だと思うんだが。
仮にリア充グループのご機嫌取りポジションにしがみ付くくらいなら一匹狼になった方がマシだ。
リア充たちのご機嫌どりをしながらそのカーストに所属してることだけがアイデンティティなやつには決してなりたく無いものだ。
そんなことをしてもイジられポジションの枠から抜け出せなくなるし、もっと酷いとパシられたりお金をせがまれるから寧ろ幸福度が下がるだけだ。
まあそれでも「孤独でいるのが好きなのに、孤独で居るのが大嫌いだ」という気持ちにも共感できる部分があるんだが、自力で耐性を培うこともできるはずだ。
──これは持論だが、人生で最悪なのは孤独に落ち着くことよりも、関わることで自分は孤独だと感じてしまうような人間と落ち着くことだ。
「そのせいでクラスで見かける限りでも常に孤独で見るに堪えない奴だ。それでこの部で彼の歪んだボッチ体質を更生する。その過程における手段も取り扱い方も全てそちらに一任する。これが私からあなたへの依頼だ、藤村」
俺は物じゃないんだが。
「絶対お断りします」
だろうな。まあお互いに第一印象悪かっただろうから乗り気じゃないのも分かるし彼女の視点から考えてみても陰キャの相手なんて心底面倒臭いだろう。
藤村がそう言うと自分の胸元を両腕で隠すようにして体の正面を俺から垂直に斜めへと傾け始めもした。
……いや何でこっちをそこまで警戒してるのかなこの人は。
「そんな変態の下心が満載な破廉恥な視線を浴びてると貞操の危機を感じます」
断じて見てないぞ、そんな弾力がありそうなDカップなんて。本当だぞ?
むしろ風に靡く艶があるその青髪が珍しくてそれに見惚れていたくらいだからな。
けど目の前のこの女もまたどうせ俺の名前に引っかかりを覚えるような言葉がついてるからって勝手な想像を働かせてるんだろう。
……だが男がチラリズムを好む理由が少し分かった気がするぞ。
あえてそうやって隠されると想像が勝手に空白を補完してくれて、脳内補正を更に補うために辞めたくとも視線が誘導されてしまうのだ。
──チラッチラッ。
「まあそう身構えなくても良い。こいつのリスクヘッジの計算と自己防衛に関してだけは信用出来るからな。少年院に入れられるような真似だけは絶対にしないとこの私の名に誓って断言しておこう。そんなことをする度胸すらも無いボーフラだろうし」
いかにも俺がここで藤村に触れるなんて選択肢が最初から存在しないとはいえもっと表面上だけでも気を使った説明の仕方があると思うんだが。
なんだかさっきから男尊女卑ならぬ男卑女尊が激しい気がするんだが気のせいか?
「いやちゃんと常識的な判断が身についてる賢い人間だと言って欲しいのですが」
それにボーフラって何だよせめてチンピラと揶揄した方がまだマシだったろ。
「──ボウフラ。……なるほど」
そうやって誰かの発言の全体の文から一単語だけに焦点を当てて判断するような真似はやめて頂きたい。
それにニュアンスが微妙に違ったようにも聞こえたが。
絶対に蚊の幼虫の方の意味合いで受け取っただろ今!
……ん?一瞬だけ口元が歪んだように見えたが笑われたんだろうか。
「まあ、片岡先生直々の依頼であれば引き受ける他ありませんね。私にお任せ下さい」
少し嫌そうに言いながらも何処か楽しそうなニュアンスを感じたのは気のせいだろうか?
……いや微笑すら浮かべていないから単なる気の迷いなんだろう。
だがサラッと主張を反転させたのは何か裏がありそうな気がしてならないな。
「へえ……最初は嫌がってたくせに今ではやる気満々じゃない。……その心は?」
「そうね……ただ指導のし甲斐がありそうに感じ始めただけですよ」
確信した。こいつはサディストだな。今後あれこれと無理難題を吹っかけて俺が困っている姿を見ては愉快に思うような輩に違いない。
だが残念ながら俺にこの状況を覆す資格が無いから、もう今後の対策にリソースを割いていくしか無さそうだなこんちくしょう。
「それは良かったわね?さて他に聞きたいことはある?」
俺の方を見てんじゃねえどうせ俺に拒否権は無いんだろうが。
女子と2人きりの部活動だと聞こえは良いがこいつは例外だ。
今後も言葉の暴力で俺が蹂躙されていくだろうことは簡単に思い浮かべられた。
俺はもうすでに憂鬱な気分だよ。
「いいえ」
「ふっ。ありがとう。それじゃあこいつを頼んだぞ、藤村」
そういうと出口に向かって片手を上に振りながら俺の横を通り過ぎていった。
「……なっ……」
バタンっ。
俺に一声をかけることもなく出て行ってしまった。
最初から分かっていた事だが俺の意思は度外視なんだな。
っていやそんなことより俺は今放課後の教室で女子と2人きりな状況に放置されてしまっているんだが!?
どうちよう俺。
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