陰キャの俺がクラスの美少女ギャルにダンスを教えることになったら、たまにポンコツ化して甘えてくる件〜週末のダンスバトル大会で賞金稼ぎするシスコンBBOYは、クラスのマドンナと徐々に心の距離を詰めていく〜
知足湧生
第1話 クラスのマドンナ
人生で大切なものは何かと聞かれたら、俺は迷いなく家族と即答するだろう。
その次に健康、お金、信念と自分の中で優先順位が明確に序列されているからだ。
「え、でも友達は大事じゃないの? 恋人も作ろうとは思わないの? だって例え家族が大事だとは言っても自分から派生する人間関係を作っておかないと将来寂しい思いをするよ?」
かつて俺がまだ中学生の頃に質問攻めでそう訴えかけたヤツが居たんだっけな。
そんなものは要らない、俺にとっては家族が全てなんだ──当時はそう言いかけたが、すんでのところで俺は言葉を飲み込んだ。なぜならこう思わされたからだ。
──たしかにそうかも知れない。
考えたくも無かったがいずれは俺の可愛い妹が俺から兄離れをしたり、人間は不老不死じゃないんだからいつかは必ず俺のお母さんも死ぬ日が来るのだ。
──俺のお父さんのように。
だから自分から友達を作る必要性もあるかも知れないと思った。
でもだからって目の前のヤツにそれを問いかけられたところで、長年に渡って自分の中に深く刻まれた価値観も、大切なものの序列の均衡が崩れることも無かった。
とはいえ彼の意見にも一理あるから試しに乗ってみるのもやぶさかでは無かった。
自分の殻を破る第一歩になるかも知れないしな、と思いながら俺は返事をした。
「じゃあ君が僕の初めての友達になってよ」
するとヤツはニッコリ笑ってこう返してきた。
「もちろんだよ! 僕は
中学2年生でクラス替えを行った入学式の当日以来、ベッタリという訳にもいかなかったが結構な頻度で俺に絡んで来たり、たまに遊びにも出かけたりしてはすっかり仲良くなった。
──そしてそんな彼との奇妙な腐れ縁の友情は、現在進行形も継続してるらしい。
「おっぱいよう、セシル」
「ああ……おはよう、クロワッサン」
そう俺──
あだ名の発明者は俺で、本人もそれを気に入ってるからそう呼ばせて貰ってる。
「どーしたよそんな、うんこを踏んじまった狼みたいな顔しやがって」
「俺の目つきが狼みたいなのは生まれてからなんだよ
まだ教室内に俺たちしか来てないのを良いことにまたそういうこと言いやがって。
「オイオイこんな些細な下ネタで気後れすんなよ。そんなんだからお前の経験人数はいつまで経っても永遠のゼロなんだぞ? 早く称号剥奪しちまいなよ」
「お前が勝手に作った称号だろうが。俺は別に良いんだよ童貞のままで」
すると生意気にもこいつは「チッチッチッ」と人差し指を振りながら言った。
「それは良くないと俺は考えるぞセシルよ。お前が可愛い妹の
「余計なお世話だ、俺はヤリチンになんざ興味ないぞ」
修也が中学時代から変わったことが1つあるとすれば、正真正銘のヤリチンクソ野郎に変貌しちまったことだ。全く、一体誰だよこの可哀想な魂を汚しちゃったのは。
俺も男である以上は女性とそういう行為を交わしたい欲求を否定するつもりは無いが、中学時代にその辺の女の子を泣かせるような罪な男にはなりたくはないものだ。
──俺には妹のルナさえ居ればそれで良いんだよアホンダラ。
「チッチッチッ。良いかよく聞け青二才のバージンよ。男の価値はな、女を抱いた数で決まるんだよ。世の彼女たちのおっぱいの柔らかさも、後ろから抱きしめて首にキスした時の喘ぎようも、ケツを叩いた時にその桃が波打つ現象の眺めも、幸福感を知らないお前には俺の主張を否定する権利も資格もない。全ては童貞の戯言よッ!」
せっかく誰も居ない教室の朝でまったりラノベ読もうと考えていたのに、このパンもどきが登校してきた途端にこれかよ。
俺の優雅でのんびりな至福のモーニングルーティンをぶち破壊しにしやがって。
「お前の主張が正しいのは認めるがその信念を他人に無理に押し付けるなっての」
「まだわかってくれないのかよ……じゃあ例題を出すぞ?」
「まだ何か?」
急な話の転換に警戒してしまう。
とは言えどうせあと数分には終わるだろうから仕方なく付き合ってやるか。
「鍵と鍵穴があるとするじゃん? それで1つの鍵が沢山の鍵穴を開けることが出来れば、それはマスターキーと言えるから優秀な証拠だろ?」
「そうだな」
「でも逆に1つの鍵穴が沢山の鍵にこじ開けられてちゃ、その鍵穴は性能がクソだと言えるだろ? ここも理解できるよな?」
「当たり前だろ?」
すると頭のネジが本格的に外れたのか拳を握りながら喜びを表現し始めた。
「ああそうだその通りなんだよ! つまり1人の男の
「少年院にぶち込まれろ」
真面目に聞いた俺が馬鹿だったか。そう思いながらも馬鹿話で盛り上がったが。
「それで? 昨日ミユ先輩に何処かへ連れ込まれてからお前に何があったんだよ?」
「別に何も大したこと無かったって……」
それからはいつも通りに無難に授業をやり過ごして、帰宅しては妹のルナとゲームで遊んだり、ダンスの練習に励んだり、寝るまでラノベを読んだりする。
例え金曜日であっても平日の過ごし方はそう変わることも無いから、午後6時までは中央公園でブレイクダンスの鍛錬に励んで帰って来たら、妹のルナと大乱闘ゲームで遊んだり、母に代わって一緒に晩飯を作ったりして過ごすものだ。
──高校に入学するまでは、そう思っていたのにな。
「みんなおっはよ〜! もうブルーマンデーから4日が過ぎて眠たいけど、ラスト金曜日頑張って乗り越えて行こうね〜ッ!」
皆が眠そうに教室内へと入ってくる中、明るい声がそんな空気を吹っ飛ばした。
「あっ! ユウキおはよう〜!」
「ユウちんおはよう〜!」
「おはようユウちゃん!」
燃え盛る太陽のような満面の笑みを振り撒いた女の子の名前は、
祖父が韓国人ということもあってハーフらしいが、若干の韓国人風な顔立ちをしながらも容姿端麗の大和撫子だ。
背は俺よりも少し低いくらいだがボッキュンボンな容姿、特に男子たちの間でDカップと噂されているその存在感が恐ろしい双丘もあってメチャクチャ可愛い。
「今日もクラスのマドンナ様はお美しいな、セシル」
「俺もそう思うよ」
クロワッサンの言う通りに彼女はクラスの男子から『クラスのマドンナ』と揶揄されておりその評判は全新入生が、いやきっと学年の垣根を飛び越えて男子たちの間でも高嶺の花と噂されていることだろう。
なぜなら彼女は校内で1、2位を争う程の美貌の持ち主で、『校内の可愛い女子ランキング』の上位に食い込んでいるからだ。噂によればその掲示板も実在するとか。
ただ可愛いだけでなく
──以前まではクロワッサンもその対象だった、非常に微笑ましいことにだが。
「ユウちんおはよう。いつも元気なのは良いけど朝一からそのテンションはキツいから、もう少しだけ抑えて頂戴」
「あっははっ、けどそこがユウキの取り柄だから取り上げたらもう何も残らないじゃんっ。ってなわけでおはよ、ユウキ!」
そこで木下の親友2人が参上。最近では3人で1セットになってきた美少女達だ。
最初に木下にダメ出ししたのが
「ええ、何よそれ流石にちょっと酷くないッ!?」
そう言うとぷっと3人を含め周囲のクラスメイトたちもが吹き出した。
「けどナゴミもアイスもおはよっ!」
それはクロワッサンも然りで、どうやら今日も開口一番に挨拶しに行ったようだ。
「木下さんも松本さんもおはようっ、ナゴミもっ!」
ほんと勇気があるよなアイツ、ヤリチンなだけに周囲からの視線という視線にも耐性がしっかり備わっていることが、陰キャの俺にとってはもはや一種の才能だ。
だがクロワッサンの露骨な差別化に周囲の奴らも『今日も頑張ってるなシュウヤのヤツ』と嫉妬が篭った視線もチラホラあったが基本的に暖かい視線で見守っている。
──これが最近やたらと見かけるようになったウチのクラスでの光景だな。
「うん……おはよう、黒沢くん」
クロワッサン曰く、マドンナの親友でもある小山和実に一目惚れしたらしい。
「今日も可愛いよ、ナゴミ。良かったら明日俺と一緒に水族館へ行こう」
「う〜ん……それはちょっと……」
見かけ通りで本人からは疎まれてしまっているんだがこれが恋の成せるマジックなのか、クロワッサンは彼女に惚れたと自覚して以来女遊びをバッタリ辞めたのだ。
それで今もこうして彼女へ熱烈なアプローチをかけている日々が続いてる。恋は盲目とでも言うが、以前まで持ち合わせていた信念をへし折る程に
「あっははっ、今日もお2人は熱烈だね〜」
「ほらほらナゴミン、ダンス部の土曜日での練習はいつも11時に終わるんだし、明日もどうせ予定通りに部活終わるんだから誘いに乗っちゃいなよ」
「ちょっとアイスそれ違うからっ! ユウキも何サラッと余計な情報までバラしちゃってるのよッ!?」
何せクラスの奴らだけでなく彼女の友人たちまでクロワッサンと自分をくっ付けるノリで満場一致してるから、そんな周囲にダメ出しをしつつも満更でも無さそうだ。
それは俺も一緒だ。今朝でも男はヤリチン至上主義をほざいてたクロワッサンだったが、彼女を視界に入れた瞬間にこれだから俺もさっさとくっ付けよと思っている。
「……ふっ」
願わくば彼の汚れてしまった魂を浄化してくれる救世主になってくれ、頼んだぞ。
そう思いながらラノベ読書を再開させようかと思っていると木下と目が合った。
俺は普段のように手を小さく振るだけで「おはよう」の挨拶を飛ばした。
そして彼女も同様に周囲に悟られないように俺にニッコリと笑ってくれた。
──まるで野原に咲くハイビスカスかのような美しい笑みで、素敵な笑顔だな。
なぜなら中学時代にクロワッサンが問いかけたように彼女との関係を表すならば。
彼女こそが俺の人生で2番目に出来た『友達』でもあり、訳アリで俺が彼女にブレイクダンスの仕方を教えてることから『師匠と弟子』の関係を育んでいる人だ。
訳ありで俺がクラスで1番のギャル美少女でもあるこの子にブレイクダンスを教えることになったのだ。そして今日は金曜日なため放課後になるとダンス部へ向かう。
「……ん?」
普段はその小さな挨拶だけで終わるのが定石だったのに、大事件が起きたのだ。
微笑み終わると彼女は扉の付近で出来上がっていた4人のグループから抜け出してきた。それで……ってオイ、なんでユウキのやつ俺の方向まで走って来てるんだ──
「ニッシーおはようっ!! 今日も私頑張るからいっぱい教えてよねッ!!」
そうにかーっと笑いながら全力疾走からのコミカルなスライディングで俺の机の目の前まで滑ってきて、腕もバーっと横に広げながら教室でド派手に宣言しやがった。
──シーン。
あまりにも予想の斜め上過ぎる光景なせいでクラスが静まり返ってしまった。
木下のやつ一体どういうつもりなんだっ!? つーかニッシー呼ばわりも辞めい。
俺たちの関係は内緒なままのはずじゃなかったのかよ、このポンコツ弟子がッ!?
「……ああ、おはよう、木下」
満面の笑みを浮かべた木下と、引き攣った笑みで困惑するように返事をする俺。
だって仕方ねえだろ周りの視線という視線が痛いし。
俺もまさかこんな状況が引き起こされるなんて夢にも思わなかった。
「ムー、せっかく挨拶しに来たってのにその素気ない態度は感じ悪いよ?」
俺の机にグーの手を置きながら、頬をフグのようにふっくらと膨らませながら不満を表現する木下。だが当然か絵面がとても可愛らしいので威厳が全く無いのだが。
いやそんなことよりも木下が取ってる体勢のせいでブレザーを押し上げる胸の強調も、その艶やかな茶髪の髪の毛が俺の本の視界を塞いでしまっているんだが。
「髪が邪魔で読めないから頭を引っ込んでくれないか……?」
そう指摘してやるとウィンクと共に若干舌を出しながら「てっへっ」と無駄に可愛らしく頭に猫の手を置くようにしてコツンとぶつけて呑気に返事してきた。
あざと可愛過ぎたぞ今の仕草っ。……まあ俺の可愛い妹のルナ程じゃなかったが。
「ああごめんごめんっ、確かに!ああそういえばさ──」
「「「「「「「はあああああああ〜〜〜〜ッ!?」」」」」」」
クラスのほぼ全員が口をポカンと開けてからムンクの叫びを上げた。
うるっせー!! いや訳がわからず叫びたいのは俺の方だってのっ!?
さっきから必死こいて状況の打開策を練っているんだが全く思いつけやしない。
早く状況を改善したいのに全く動けず、クラス中の話題が俺たちになっている。
「ねえ、あれってもしかして──」
「付き合ってるのッ!?」
「ええ、嘘ッ!?」
「だってあの陰キャとだぞ?」
「でも陰で女子にモテてるって噂らしいぞ」
「いや流石に罰ゲームじゃねーの?」
とかなんとかで非常に俺は今不愉快な状態に苛まれてしまっている真っ最中だ。
辞めてくれその好奇と困惑の視線という視線、俺にはキッツいんだよッ……。
なぜこうなってしまったんだッ!?
もちろん彼女がこんな行動に走ってしまった思い当たりが無い訳じゃない。
でもまさかこうなるとは思っていなかった……。
他国へ亡命してやりたいっ。
もう今すぐにも消えてしまいたいっ。
穴があれがブラックホールに飛び込みたいっ。
いやもう心の悲鳴のままに叫んでしまいたい気分だ。
──このポンコツ弟子がテメェっ!!
こうして俺と木下が仲良いことがクラスの奴らにも白日の下に晒されてしまった。
【──後書き──】
読者の皆様へ、プロローグを読んで下さり誠に有難う御座います!
この作品を読んで少しでも、
「面白かった!」
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「続きが気になる!!」
と思って頂けたらフォローと★★★からレビューで作品への応援をして頂けると作者のモチベが漲ります!
面白かったら星3つ、つまらなければ星1つ、正直に感じた気持ちで大丈夫です!
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