第4話

 ダンジョンアイランドのマンションにある自分の部屋で眠っていた熊翔は奇妙な夢を見た。


 夢の中の熊翔は一切の光の無い何処までも続く通路を歩いていた。どれくらいの時間が経ったのだろうか。通路をしばらく歩き続けているとやがて広い部屋に出て、周囲を見回すと部屋の中央に「それ」があった。


 石の玉座に座った体勢で無数の鎖で束縛された、表面が鏡のように磨かれた青銅の全身鎧。


 青銅の全身鎧は、素人の熊翔から見ても人が作ったと思えない精巧で美しい造形をしており、神秘的な気配と同時に凶々しい気配が感じられた。


 この青銅の全身鎧は絶対ここから動かしてはならないと熊翔の中の本能が告げて、彼はこれこそが自分のダンジョンが誕生した理由、ダンジョンが封印している「アーティファクト」だと理解した。


 アーティファクトとはダンジョンコアに封印された対象の総称であり、それは異世界の神や悪魔だったり、特別な力を秘めた武具や道具であったりもする。そしてアーティファクトはダンジョンの力の源で、ダンジョンマスターの能力はアーティファクトが持つ能力を元に作られたものなのである。


「これが俺のアーティファクトか……。まぁ、どうでもいいか」


 熊翔は自分の力の源であり守るべき存在である青銅の全身鎧を見ていたが興味が無いようで、そう呟くとより深い眠りについて視界と意識が闇に包まれていった。


 ⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎


 熊翔が眠りについていた頃、異世界のとある国にある中世ヨーロッパの酒場のような場所で、二人の女性が一つのテーブルを挟んで会話をしていた。


「それって本当ですの!?」


「ちょっ!? しー! 声が大きいですよ」


 大剣を背負い鎧を身に纏った女性が思わず大声を出すと、大きな帽子を被った女性が慌てて自分の唇に人差し指を当てると声を抑えるように言う。そして帽子の女性は周囲を見渡した後、小声で大剣の女性に話しかける。


「……ええ、本当です。ついに見つけました。あの伝説の秘宝が眠るダンジョンに行ける『ゲート』を」


 ゲート。


 それは異空間に存在しているダンジョンへと転移する魔術で造られた建築物、あるいは魔術の術式そのもののことである。


 元々はダンジョンマスターが自分のダンジョンへ移動するための能力なのだが、今から遥か昔にダンジョンコアによって異世界に封印された神の眷属が、自らの主神をダンジョンから救出するために人間の魔術師に同じ効果の術式を開発させたのである。それからダンジョンの封印を解くことを目的とした者達が数多くのゲートを作り出し、現在様々な異世界の各地で発見されているのだが、一つのゲートで転移できるのはそれぞれ決まった一つのダンジョンのみで、目当てのダンジョンに行けるゲートが見つかる可能性はかなり低かったりする。


 だが帽子の女性は自分達の目当てのダンジョンに転移できるゲートを発見したらしく、それを聞いた大剣の女性が感動で身を震わせる。


「おお……! ついに私の夢が……! はっ!?  こうしてはいられませんわ! 急いで準備をしないと!」


「あっ!? ま、待ってくださいよぉ!」


 大剣の女性はダンジョンに挑戦する準備をするために酒場を飛び出し、その後を帽子の女性が少し遅れてついていくのであった。


 大剣の女性と帽子の女性の二人は、昔呼んだ古文書からとあるダンジョンに封印されている秘宝の存在を知り、長年古文書に記されたダンジョンを探し続けてきた。


 そしてダンジョンに封印されている秘宝とは、装着した者に永遠の生命と若さを与える光輝く全身鎧だという。

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