第21話
それから約2カ月後、脅されていた生徒たちは全て検挙され、かなりの数の生徒が停学処分を受けている中、長期休暇に入る前ということで全校生徒を集めてパーティが開かれることになった。
主催者はなんとデヴィッド。あんな男が主催したパーティなんてボイコットしたいが、婚約者という立場上参加せざるを得ない。
「大丈夫かな……」
私は会場に向かう中、大きな不安を抱えていた。
その原因は、このパーティがゲームのストーリーには存在しなかったものだから。
それだけでも怖いのに、いつもなら全てを教えてくれるエドワードが今回に限っては何も教えてくれなかったのが不安を助長させる。
「でも行くしかないんだよね」
オリヴィア様なら、絶対にこのパーティに参加する。だから行かないと。
「あ、オリヴィア様。こんにちは」
「こんにちは!」
パーティ会場に着くと、ジュリアとフランチェスカが私に気付き、話しかけてくれた。
「こんにちは、2人とも」
「今日からしばらくは会うことが出来なくなってしまうので、その分お話しましょう!」
とフランチェスカが笑顔で言う。めちゃくちゃ可愛い。
「そうね」
それからしばらく3人で談笑し、マルゲリータが到着したタイミングで、前にデヴィッドが立った。今からパーティが始まるらしい。
「皆集まってくれて感謝する。主催者のデヴィッド・カスペールだ」
「今日を過ぎるとしばらく会えなくなる分、精一杯楽しんで欲しい」
「だがその前に話しておきたいことがある。それは現在停学処分になっている生徒が多数いることについてだな。理由は皆も良く知っているだろうが、ほぼ全員がここに居るマリー・クラインシュミットを虐めていたことが原因だ」
「別にいじめが発生すること自体に関しては学生が集まっている以上往々にしてあることは理解している。実際、卒業生の間でもそういう話があったことは聞いている」
「しかし、それはあくまでクラス単位のような、小さな範囲で起こっているもの。だが今回はそうではない。全校生徒に幅広く分布していた。常識的に考えてそんなことはありえない。つまり何者かの作為によるものではないか、と仮説を立てた」
「その結果、残念な事実が判明した。この一連の騒動は、我が婚約者であるオリヴィア・エヴァンスが起こしたものだと」
デヴィッドが私を指差したことで、全員の視線が私に向かう。
これ不味くない?断罪シーンは卒業パーティの時でしょ?まだ1年生の半分くらいしか終わってないよ!?エドワードさん!?!?!?
「オリヴィア様!?!?」
「違いますよね?」
そんなことはあり得ないという表情で私を見るジュリアとフランチェスカ。騙しててごめんね。
マルゲリータは特段驚いた様子を見せず、いつも通りだった。もしかすると知っていたのかもね。
「証拠はあるのですか?」
「ああ。停学になった生徒全員に確認を取った所、その内の5人程がお前に脅されたと自供した」
あらら。でもまあそうよね。あれだけの人数がいれば正直に話せば王子から支援金を貰えるかもって考える馬鹿もいるよね。
「自供、ですか。名誉を守るために口からでまかせを言っただけでは?」
一応この時点では確定にはならない。まあ他にちゃんとした証拠でも用意しているだろうけど。
「まだ言い逃れをするか。では別角度の話をしよう。最近台頭したルヴェール商会に聞き覚えはあるか?」
「はい。サラトガ商会のシェアを奪ったとか」
ここは別に嘘をつく必要は無い。
「そのルヴェール商会に多額の支援金を与え、使用人伝手に商売の指導をしているそうだな」
何故それを知っているのだろう。エドワードがそんなミスをするとは思えないのだけれど。もしかしてあの盗賊かな?
「それが何に繋がるのですか?」
正解が分からないので曖昧に答えておこう。
「現在停学になっている生徒は、サラトガ商会の凋落で経済的に困窮した者達だけだ」
賄賂をしていたって話はしないのね。まあいいけど。
「私はマリーを貶めるためだけにサラトガ商会を凋落させ、手駒を作ったと。凄く壮大な物語ですね」
「ああ。私もこの結論に行きついた時には唖然としたよ。まさかそこまでするとはな」
「私の否定の言葉を聞き入れる気はないようですね」
「勿論だ」
終わっているよこの人。なんでメイン攻略対象になれたんだろう。
「オリヴィア様がそんなことをするわけがありません!」
「そうです!」
「フランチェスカ、ジュリア。やめておきなさい。あなた達の立場が悪くなるわ」
場の空気を遮ってでも私を庇ってくれた二人を諫めた。これで二人の立場が悪くなるのはとても心苦しいから。
「どうやらクラスメイトの皆は私の事を信じてくれているのね。ありがとう」
周囲を見渡すと、クラスメイトだけは私の事を心配そうに見てくれていた。
「で、結論はなんでしょう?」
予定よりも2年以上早い気はするけれど、どの道こうなることは覚悟していたからね。別に怖くない。
「私とオリヴィア・エヴァンスの婚約を破棄。そしてお前を収賄、脅迫の罪で投獄する!」
どこからともなくやってきた王族の騎士に身柄を拘束され、王宮の地下にある牢へと連れていかれた。
「入れ」
私は騎士の手で乱雑に牢の中に放り出された。
一応貴族なんだから丁重に扱ってほしいわ。
壁はレンガで出来ており、窓はない。床は冷たい石で、毛布のような設備は一切ない。
明かりは鉄格子の奥にある小さなランタン一つのみ。
「絵に描いたような最低な牢獄ね」
一番ヤバい牢獄を描いてくださいって聞いたら100人中70人位はこれを描くと思う。
「ただこの世界でこの牢獄は少々物足りないというかなんというか」
一応手錠で拘束されているけれど、普通に魔法が使えるので逃げようと思えば逃げられそうなのよね。
「でもしばらくはここに居た方が良いよね」
エドワードが何も言わなかったってことは流れに身を任せろってことだろうし。
というわけで私は土魔法で良い感じにふかふかなベッドを錬成した。
「寝て待っていたら何か来るでしょ」
「何?」
私は眠りにつきかけた矢先、爆発音によって目を覚ました。
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