第20話
それから数日が経ち、魔闘祭の興奮も冷め切った頃、私は何事も無く日々を過ごしていた。
エドワードから課される仕事も無く、ただオリヴィア様になりきるために勉強と魔法を必死にやるだけの日々。
「本当にこんなんで大丈夫なの?」
流石にマリーに対して本格的なアクションを起こしていないことに不安を覚えてきた。
一応魔闘祭の時に攻撃して、デヴィッドに文句を言われたけど、アレは色々的外れ感あったしノーカンだと思うし。
オリヴィア様になって悪役令嬢をやっているって言えるのこれ?今の所悪事0だと思うけど。
これじゃ悪役令嬢じゃなくてただ楽しく学園生活を過ごしている女神だよ。
「後数日だけお待ちください。そこから全てが始まります」
「そうなの?」
「はい」
よく分からないけれど、エドワードがそう言っているなら任せて良いわよね。
「ああ……」
「おしまいだあ……」
「何でこんな目にあわなきゃいけないんだ……」
あれから数日後、学校の雰囲気が陰鬱なものへと変わっていた。
「まさかあのサラトガ商会が首位から転落しただけではなく、崩壊の危機に陥るなんてね」
と周囲の空気に反して余裕そうに話してきたのはクリストフ。
「首位だからと台頭してきたルヴェール商会を舐めてかかったつけが回ってきたのよ」
国内で圧倒的首位を独走していたサラトガ商会は、ルヴェール商会の台頭により凋落した。
原因はルヴェール商会にサラトガ商会の保有する内、3割のシェアを奪われ異常な量の在庫を抱える羽目になり、大赤字を計上したから。
いくら国との関わりが強く、由緒正しい商会でも価格と品質の良さには勝てなかった。
サラトガ商会が思っているよりも貴族は名誉や評判を重んじる余裕が無かったのだ。
これだけ聞くと単に商会の一人負けでしかないが、どうして貴族達に陰鬱な空気が漂っているのか。
それは国と深く繋がっていることを良いことに賄賂代わりとして多額の金銭を無利子で貸し与えていたから。
帰ってくるはずの金も、サラトガ商会から得られる莫大な利益も失ってしまった貴族たちは財政的に追い詰められていた。
「まあ、僕たちのクラスにはそういった人が居なかったのがせめてもの救いかな」
「そうね」
国の2割程の貴族が被害にあった大事件だったが私たちのクラスに該当者は一人も居なかった。
エドワードが殆どやったとはいえ、私が強く関与している話だったからこの点は助かった。
私のせいで苦しんでいるクラスメイトを毎日目の前で見続けないといけないのは流石に心苦しい。
まあ賄賂だから私じゃなくてその人親が悪いんだけど。
「今日は放課後の練習に付き合ってくれてありがとう。お陰で少し強くなれた気がするよ」
「構わないわ。皆が強くなることは私としても嬉しいもの」
「今度何かしらの形でお礼をさせてもらうよ。じゃあまたね」
「ええ、また明日」
クリストフとの練習が終わった私はそのまま家に帰った。
「これから始まるから待てってあれの事かしら?」
流石にサラトガ商会の凋落を待っていたとしか思えない。
「はい」
「で、どうするつもりなの?」
ただ自暴自棄になりそうな人を大量に作って学校を荒れるだけだと思うけど。
「資金援助を盾に子供たちを脅すのですよ。救われたければ私の指示に黙って従えと」
「それでマリーを攻撃させるわけね」
「そうです」
「ということは私がその貴族達に直接話しかければ良いのね?」
「いえ、あなたはただ対象者とすれ違った際に微笑むだけで問題ありません。脅しは私が行います」
「結局私は何も悪事に手を染めていない気がするけど?」
「黒幕というのはそういうものです」
「なら良いけど」
結局私はほぼほぼ変わらない日常を過ごすことに。
学校内を漂っていた陰鬱な雰囲気は、エドワードとの話から3日程で完全に消え去っていた。
あの短期間で全員を脅してきたらしい。流石エドワード。
まさか脅す相手全員の顔を覚える方が間に合わないかもしれないとは思わなかった。
それからしばらく私は脅した相手とすれ違うたびに微笑むだけの日々を送った。
マリーを虐めている現場は絶対に見るなと言われているので、実際にどんなことになっているのかじゃ分からない。
けど、表情を見るに相当酷いことが行われているのだろう。
自分の金が大事だからってここまでよくやれるよ。
まあ賄賂をする親の子供達だしそんなものなのかしら。
そんなことを考えていると、
「ふざけるな!何をやっているんだ!」
外から怒号が聞こえてくる。声の主はデヴィッドだ。
何事かと思い窓から様子を伺ってみると、デヴィッドは傷付いたマリーを抱きかかえていた。
犯人は見当たらなかったが、マリーを虐めている現場を発見して怒ったのだろう。
私は見なかったことにしてその場を去った。
あれからデヴィッドは真剣に犯人捜しを始めたようで、一人、また一人と捕まる生徒が増えていった。
そして丁度10人目の生徒が検挙された日に、私はエドワードとカフェに来ていた。
「何故ここまでするんだ!彼女は悪くないだろう!」
しかしいじめが止むことが無い現状への怒りを私の前でぶちまけていた。
「怒る気持ちは分かりますが、私をわざわざ呼び出した場でそんな話をするのはやめてください」
「それは分かっているが、どうしても許せないんだ」
別にエドワードは本来愚痴る為に呼び出したわけではない。一応ここ最近のいじめが発覚する前に呼び出されたからね。
断りたかったのだけれど、今回は行ってくださいとエドワードに言われたから来た。
正直もう帰りたい。
「そうですか」
「そうですかとは何だ。由々しき事態だと思わないのか?どうにかしたいと思わないのか?」
事態の解決を手伝えと元凶の私に訴えるデヴィッド。知らないとはいえ滑稽ね。
そもそもこれよりも前のいじめの件で断られている人に聞くのは無駄でしょ。
「同じクラスの方に頼めば良いのでは?私では距離が遠すぎます」
「私のクラスメイトは信用ならない」
でしょうね。一番マリーに対する反感が強いクラスでしょうし。加えて脅しの対象となった生徒が半数を超えているものね。
「そうですか」
「魔闘祭の時も感じたが、お前は相手を思う心というものが無いのか?」
は?何言ってんのこいつ?確かにエドワード経由で何かしているというのは事実かもしれないけれど、あんたの目の前でやっていることは大分慈悲深いよ?
「と言われましても。全員に平等に接しているだけですが。特別彼女と親しいわけではありませんし、真っ当な対応かと」
「はあ、もういい。聞いた私が馬鹿だった」
「それではもう帰りますね」
自分が思うように動いて良いと言われているので、これが正解の行動よね。
エドワードはデヴィッドと完全に決別させるために向かわせたのかな。
一応今回の一部始終をエドワードに報告したところ、完璧ですと褒められたので本当にそういう事なのだと思う。
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