第18話

「順当に勝ったって感じね」


「ああ。完全優勝って感じだな」


 団体戦は3年5組を破り、3年1組が優勝した。例の生徒会長が率いるクラスだ。


 最強の生徒会長によるワンマンチームではなく、個々人の能力がかなり高かった。


 一人一人が他クラスの三年生と比べても格段に強く、最低でも中堅クラス、大半が他のクラスなら精鋭と言っても良いレベルだった。


 一応生徒会長が最前線に立ってはいたが、生徒会長が居なくても優勝は可能だっただろう。


「恐らく生徒会長が指導したんでしょうね」


「だろうな、流石のカリスマだよ。子爵家の筈なんだがなあ。お前とは大きな違いだなあ?」


「私も2年あればあそこまで強くなれますよ」


「そうかいそうかい」


 モルガンの言う通り、このゲームの生徒会長は子爵家出身。学園に通う中では一番爵位が低い。


 本来なら子爵家が生徒会長になる事はあり得ないのだけれど、学生離れした圧倒的な強さと、最高の頭脳、そして何よりも圧倒的な指導力により少しずつ勢力を広げていった。


 そして生徒会長の選挙が行われる頃には学年の大半を手中に収めており、当然の如く生徒会長に就任したらしい。


 一番身分の高い公爵家が一人も居なかったことは追い風だったとは思うのだけれど、滅茶苦茶な話だ。


「最初は私らしいですね。行ってきます」


「ええ、行ってらっしゃい」


「負けんなよ」


「分かっています」


 団体戦が終了したため、早速個人戦が始まった。



 1回戦は当然全員勝利を収めた。ついでにデヴィッドも一回戦は突破したみたい。一応王族だから当然よね。


 そして2回戦。ここからはシード枠である3年生と2年生の精鋭が混じってくる。


 ジュリアは運悪くその中でも強い方の3年生に当たってしまい、敗北してしまった。


 一方モルガンはシード枠ではない2年生に当たり、勝利していた。


 あと一応デヴィッドも勝っていたわ。相手は3年生だったらしいけど、どんな卑怯な手段を取ったのかしら。やっぱり金かしら?


 そして、


「よろしくお願いしますね。マリーさん」


「はい、よろしくお願いします」


「『2回戦第13試合、1年1組マリー・クラインシュミット対、1年5組オリヴィア・エヴァンス。始め!』」


 私の待ち望んでいた対戦が始まった。


「はっ!」


 マリーは見たことの無い魔法を私に向けて連射してくる。


 目に見えない透明な刃なのだけど、かまいたちのような風による産物とはまた違う。


 エドワードも教えてくれなかったし、本当になんなんだろう。


「まあ、効かないんだけど」


 謎の盗賊が襲来した時に防御魔法を失敗してからみっちりと防御魔法を叩きこまれたからね。この程度の攻撃に間に合わせられないことは無いわ。


「え?なんで見えて……?」


 どうやらマリーは魔法が見えていたことに驚いている様子。


「見えなきゃ攻撃できないからよ」


 私はお返しに『ウィンドカッター』という魔法を放つ。この魔法も見えにくい仕様になっている。


「痛っ!」


 攻撃をする予感がしたのかマリーは咄嗟に回避したものの、どうやら痛みに慣れていないらしく、体を掠めただけのダメージで苦しんでいた。


 この世界の住民って魔法で怪我を簡単に治せるからかすり傷程度なら平気なんじゃなかったっけ?


「!!」


 苦しみながらもマリーは魔法を撃って反撃してくる。まあさっきと同じ魔法だから簡単に防御できるけど。


 ああ、なるほど。マリーはこの学園にやってくるまで外に出たこともほとんどない箱入り娘なんだっけ。だから怪我をしたことすらなくて、日本人並みの耐性なんだ。納得納得。


「この程度なのね」


 私は有効だから続けて『ウィンドカッター』を連射する。マリーは完全に躱し切ることが出来ず、どんどん切り傷が増え、痛みに苦しんでいく。


「うっ!!でも!!」


 ちょっと思っていたのと違うんだけど。もう少し頑丈で、痛み耐性があって強いと思っていたんだけど。


 実際ストーリー上だったらオリヴィア様の『ウォーターランス』を腹に食らって風穴が空いた状態でも頑張って耐えて立ち向かっていたじゃない。


 絶対今目の前に居るマリーにそんなことしたら気絶するでしょ。


「もうさっさと終わらせましょう」


 流石にここまで弱い相手を甚振るのは気が引けるので痛みが無いように一瞬で終わらせることにした。


「えっ!きゃああ!!」


 私は『ウィンドストーム』でマリーを巻き上げ、場外に落とした。


 一応少しだけ勢いを吸収してあげたから大丈夫だと思う。


 1m位の高さからコンクリートに落ちる位のダメージだし。


 それでも少し痛いけど、流石にそれくらいは我慢して頂戴。


「試合終了!オリヴィア・エヴァンスの勝利!」


 余りにも圧倒的だったし魔法も大体が透明だったから見栄えが悪いし大丈夫かなと思ったけれど、大きな歓声が上がっていた。


 そして3回戦が始まった。


 流石にモルガンはここまで勝ち上がってきた猛者に勝つことは難しかったらしく、残念ながら負けてしまった。


 そしてデヴィッドも同様だった。生徒会長に一瞬で処されていた。どうやら賄賂や脅しのような卑怯な手段は生徒会長には通じなかったみたい。そりゃそうよね。


 まあ私は余裕で勝ったけれど。2年生には流石に負けないわ。


 ここで残っている1年生は私だけになったわ。流石に上級生と戦って勝ち上がれるほど甘い大会ではないみたい。


 4回戦と5回戦は3年生の生徒会メンバーで、今までの相手よりは格段に強かったのだけれど、私に黒星を付けるほどの強さでは無かった。やっぱりオリヴィア様の体はすごいよ。


「それでは決勝戦、3年1組、ルーマン・ヴォイドヴィッチ対1年5組、オリヴィア・エヴァンスの試合を始める」


「まさか1年がここまで上がってくるとはな。流石は四大公爵家の一角といった所か」


「お褒め頂きありがとうございます」


「そんなにかしこまらなくても良い。私はこれでも子爵家だ」


「ではありがたくそうさせて貰いましょう」


「ああ、よろしく頼む」


「こちらこそ」


「では、はじめ!」


 私達は固い握手を交わした後、距離を取ってから試合が始まった。


「では早速」


 私は開始早々、伝家の宝刀である『ウォーターボール』のグミ撃ちを始める。


 戦闘慣れしていない私は接近された瞬間に負けるだろうから。


 ゲームの情報で体術の天才って書いてあった相手に近づきたくないわ。


「なるほど。魔力量を活かした良い戦術だ。大半の相手はこれで沈むだろうな。だが、」


「狙いが分かりやすいぞ」


 嘘でしょ?このウォーターボールの弾幕を防御魔法に頼らず全て躱して近づいてくるって……


「それなら」


 私は平静を装いつつ、防御魔法を張った。こんな奴の攻撃食らったら一撃で負けるよ。

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