第17話

 そんな私たちの事を見つけた内の一人が私たちの所に走ってきて、私の胸倉をつかもうとした。


「っ!」


 が、こんな輩にオリヴィア様の胸倉を触らせるわけにはいかないので当然手で軽く弾いた。


「あ?お高く止まってんじゃねえよ!」


「お前らが勝てたのは俺たちが油断していただけなんだよ!」


 私が分かりやすく拒絶を示したせいか、より一層怒りをあらわにしていた。


「はぁ、見苦しいですね。何も言わなければ油断していたから負けたで終わらせられたというのに。はっきり言いますね。私達のクラスは何度やってもあなた方に負けることはありません」


「はあ?調子乗ってんのかこのアマ!?」


「ただ事実を言ったまでですが。調子に乗っているのはあなた方では?」


「あ!?」


 2年2組の数人がその言葉でキレて臨戦態勢に入ったため、私は防御用の魔法を張る。


「全員に攻撃されて負けたって思っているようですが、半数は観客席に座っていたことをご存じないのですか?」


 実はマルゲリータは今回のような展開になる事を見越しており、言い訳をさせない為に最小限の戦力で挑んでいた。


「あ?どうせ雑魚を削っただけだろ?そんなん関係ねえよ」


「雑魚、ですか。オリヴィア様は雑魚らしいですよ」


「なるほど、私が雑魚呼ばわりされるってことは個人戦が非常に楽しみね。どんな強者が待っているのかしら」


 オリヴィア様に勝てる人材がゴロゴロいる世界ってどんなものだろうか。それはそれは素晴らしいユートピアだと思う。


「ぐっ……」


「覚えてろよ!」


 流石に劣勢だと悟ったようで、雑魚特有の捨て台詞を残して去っていった。


「じゃあこれで予選は最後のようですね。行きましょうか」


 そして最後に残ったのは3年4組。


 流石に先程のクラスみたいな事は無く、寧ろ尊敬に値する良い方々だった。


 相手が3年生ということもあり知略でどうこうできるわけがないため、遂に私の参戦となった。


「一応方針は伝えましたが、作戦と呼べるものではありません。ただ持ちこたえてください。そして任せました、オリヴィア様」


「やれるだけの事はやってみようと思うけど、期待はしないでもらいたいわ」


「分かっています」


『では予選最終試合、開始します』


「じゃあ行ってくるわ」


 私は魔法を使い、空を飛んで最前線へと向かった。


「なるようになるしかないよね。食らえ!」


 私は一人でも倒れてくれと願い、『フレイムテンペスト』を放った。


 竜巻状の炎は森を焼くことでだんだんと規模を広げていく。


 強風を内包しているため、ただ焼くだけでなく灰と化した木々や地に落ちている石を巻き上げる。


 ただ焼かれるだけでなく、内包された物体によって物理攻撃されるため、生半可な防御は貫通されるだろう。


 恐らく森の中で発動するのであれば最強格の魔法。これを単独で止められる人間は存在しないと思う。


 しかし相手は40人の集団。


 多少は犠牲が出たようだが、あっさりと消化されてしまった。


「ならこれを……!」


 その後も私はエドワードから教わった強力な魔法を雑に撃ちまくった。


 エドワードが教えてくれただけあってどれも相手に有効で、少しずつ数を減らすことは出来たんだけれど、


『陣地の破壊を確認。よって3年4組の勝利となります』


 結局負けてしまった。


「ごめんなさい。力及ばずだったわ」


「いえ。こちらが持ちこたえられなかったのが悪いんです」


「君は頑張っていたのに、僕は不甲斐ないよ」


 お互いに自分の責任だと謝り合い、陰鬱な雰囲気になっていた。


 今回取った作戦は単純で、皆が全力で自陣を守っている中、私が単独で相手を攻撃して陣地を奪うというもの。


 だから皆は39人で守っていたのに15人程の軍勢をしのぎ切ることが出来なかった事を申し訳なく思っている。


 私も私で中身がちゃんとオリヴィア様だったら時間内に攻め切れていたと思うので、かなり申し訳ない気持ちでいた。


 一応ゲーム通りの展開だから問題ないと言えば問題ないんだけど、頼られたなら勝つのがオリヴィア様だから、それが出来なくて悲しいのよね。


「はい、皆さん切り替えてください。そもそもこの試合は勝とうが負けようが予選突破確定だったんですからどっちでも良いじゃないですか」


 見かねたジュリアがそんなことを言った。


 なんだかんだ一番悔しいのはジュリアだと思うのだけれど、立ち直っているように見えた。


「こんな感情引きずってで負けて本戦即敗退とか嫌ですよ。しっかりしてください」


 なるほど、ジュリアは次勝ちたいっていう意思が悲しさに勝ったのね。


「そうだね。決勝トーナメントで負けなければ良いんだ。今度こそは勝ってやろうじゃないか」


「ああ。今回は運が悪かっただけだ。次やれば絶対勝てる」


 ジュリアの言葉で立ち直った皆は次の試合に意識を向け直した。




 そして始まった決勝トーナメント1戦目。相手は2年4組。


 流石に2年2組に勝って決勝トーナメントに上がってきたクラスに油断をしてくれることは無かったが、無事に勝利を収めることが出来た。


 しかし次に当たった2年5組。そこに私たちは完封されてしまった。


 敗因は5組の精鋭5人で私を止めに来るという大胆な戦略を取ってきたから。


 いくら私が強いとは言っても、オリヴィア様と違って戦闘経験は浅い。そのため相手を突破する道筋を立てられず、倒しきった頃には陣地が破壊されていた。


「やっぱり私たちの実力が足りなかったみたい」


「そうですね。私達の勝ち筋を潰される戦い方をされたらどうしようもないですね」


「でも、マルゲリータとオリヴィア様のお陰でここまでこれたことは誇っていいと思うの。来年こそは優勝しましょう。出来るわよね?」


「うん、勿論だよ」


「そうだな」


「次は二人無しでも勝ちます!」


「誰に聞いてんだよ?来年は俺一人で優勝してやっからよ。お前らは何もしなくていいぜ」


「私に負け越しているのに何を言うんですか」


「あ?最近は五分五分だろうがよ」


「いえ。直近でも私の方が1回勝ち越しています」


「なら個人戦で勝負だ!俺に当たるまで負けんなよ!」


「はいはい。あなたの方が負けそうですが」


「あんだと?」


 今回は皆元気そうだった。ジュリアとモルガンに至っては喧嘩する位だもの。


「団体戦はこれで終わってしまいましたが、まだ個人戦が残っています。3人に頑張って貰いましょう!」


「僕の分も頑張ってね」


「ジュリアさん、頑張って!」


「オリヴィア様!!」


「モルガン、無様な姿晒すのだけはやめろよ!」


 私達はそれぞれ声援を受けて、個人戦の控室に向かった。


「マジか。決勝まで行かねえとお前と当たらねえじゃねえかよ」


「なら絶対無理ですね。どうあがいてもオリヴィア様に勝てないでしょ?」


「お前だって生徒会長に勝てんのか?歴代最強らしいぞ?」


「まあ、頑張ってみますよ」


「二人とも、先の事を考えていたら足元掬われるわよ。他もクラス毎の精鋭揃いなのよ」


「そうですね」


「そうだな。あんたほどじゃないにせよ、強い奴はゴロゴロいる」


 私は二人にそれっぽい事を言って宥めてはいるものの、実は二回戦で当たる相手の事しか見えていない。


 マリー・クラインシュミット。団体戦はクラスの為を思って見逃してあげたけど、今回は一切邪魔が入らないからね。


「そうね。出来る限り勝って、皆さんに良い報告をしましょう」


「ああ」


「はい」


 と気合を入れたは良いものの、団体戦が終わるまでは試合が始まらないので、控室に設置されている魔術で作られたモニターで見て待つことにした。

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