第4話

 今回の主役であり、私の最も憎む相手が。あの女さえいなければオリヴィア様は皇后になれていたというのに。


 当然新入生パーティに遅れてくるとかどういう奴なんだという感じで皆が振り返る。


 そして振り返った後表情を一変させる。


 誰もその顔を見たことは無い。つまり大物では無いということは皆が察するところ。けれど、その体の特徴は誰しもが目に焼き付けられているもの。


 それは金髪と翠眼。この世界では王族以外が持つはずの無い組み合わせとされているはずのもの。


 しかし目の前の少女は事実持っている。そして何よりもその美貌である。


 こちらは可愛らしい、庇護欲をそそられるといった方面に寄っており系統は違うが、オリヴィアに匹敵するルックスの持ち主と言っていいだろう。


 となると当然許嫁が現時点で居ない男性陣はマリー・クラインシュミットに集まっていく。


 自分より爵位が低ければ、せめて同格であればチャンスが回ってくるだろうとか考えているのだろうか。それとも純粋な好奇心なのだろうか。


 そんな状況は女性陣からしたら当然不快以外の何物でもないわけで。


「あの方は一体何者なんですの?」


「わざと遅れて来たに違いないわ」


 楽しい会話ではなくマリー・クラインシュミットを糾弾する会話となった。


「まずどこの子よ?」


「爵位は?」


 当然ながら私の元へ集まってきた子たちは正体を知らないみたい。そりゃそうよね。今日の今日まで領地に引き籠っていたのだから。


「家名がクラインシュミットってことは恐らく子爵家の令嬢ね」


 どうせ後で分かる情報なので先に話しても良いでしょう。オリヴィア様ならこの国全ての貴族を覚えていてもおかしくは無いから。


「子爵?大したことないじゃない!」


 と盛大に馬鹿にした様子を見せるのはフランチェスカ。聞いていた通りというか。侯爵家であることを誇りに思っているらしい。


「子爵家。あの女も……」


 と強く怒りを見せるのはジュリア。フランチェスカの言葉を聞いていたらどうしようかと思ったけれど、耳に入っていないみたいね。


「一旦落ち着きなさい。こんな男性が居る場所で敵意をむき出しにするのはやめた方が良いわよ。品位が落ちるから」


 現段階から敵意があることがバレてしまったら何やっても犯人が私達だと思われてしまうからね。


「で、でも!」


 他の人たちは冷静になり、マリーに対する敵対心を抑えてくれたけど、フランチェスカだけは怒りを抑えられていないみたい。


 仕方ないわね。


『こんな所で敵意があるのが男達に知られてしまったら、あの女に近づいて何かをする事すら困難になるわよ?』


 と私は耳元で囁いた。さっきの反応的に別にこの子達に聞こえるように言っても大して問題は無さそうなんだけど、それを免罪符にされたらたまったものじゃないから。


 あくまで彼女たちが自主的に、私の意思とは関係なく嫌がらせをするのが理想。


「はい、そうですねオリヴィア様!」


 と怒りの表情から一転、満面の笑みに変わった。私がフランチェスカの味方になってくれたと思って喜んでいるのかな。あまりにもちょろすぎるよこの人。


 それからは極力マリーを視線に入れないように心掛けて、私の元へやってきた女性たちと仲良く話してパーティを終えた。




「私、どうだった?」


 パーティから戻り、自分の部屋へ戻った私はエドワードに今回のミッションの達成度を聞いた。


「そうですね、主目的であった三人とは仲良くなれましたし合格と言って差し支えないかと」


「やったあ!」


 どうにかオリヴィア様の期待に応えることが出来て嬉しいわ!


「ただ、マルゲリータ様とジュリア様に関してはまだまだ仲良くなる必要はありますけどね」


「そうね」


 フランチェスカに関してはあまりにもちょろすぎて一瞬で仲間に出来ちゃったけれど、二人は彼女ほどとは言い難い。


 マルゲリータはそもそもガードがかなり固く、一回で打ち解けるのはかなり難しかったし、ジュリアに関してはあの人数だったからピンポイントで仲良くなるのは私には無理でした。


 ただ、マルゲリータはともかくとして、ジュリアに関しては一度二人きりで話す機会でも作ることが出来たなら仲良くなることも出来そうだけど。


「それは学園生活を過ごしながら頑張っていただくとしましょう」


「うん!」


「あ、そういえばエドワードはパーティの間は何してたの?ターゲットに話しかけた後から姿が見当たらなかったけど」


「他の貴族に使える方々と交流を図っていました。貴族様の迷惑にならないように外で話していたので見当たらなかったのだと思います」


「なるほどね」


 貴族が主役の場で使用人が楽しそうにしていると快く思わない人もいるものね。


「では明日からの授業の話をしましょう」


 明日の授業は歴史、数学、魔法理論、魔法実践の4つだ。


 数学はゲーム内の描写的に中学数学程度だから問題ないんだけれど、他がかなり怪しい。


 一応魔法実践に関しては馬車の中で教えてもらったからある程度は出来ると思うけど、オリヴィア様らしい成果を出せるか不安。

 そして理論に関しては詳しく教えてもらったわけでもないから細かい所を突かれたらおしまい。

 歴史に関しては日本人が知っているわけないでしょ。つまり論外。


「明日の授業内容をオリヴィア様から予め伝えられておりますので、全力で叩きこみますよ」


 それから数時間、エドワードによる徹底指導が行われた。


「お疲れ様でした」


「終わったわ……」


 初回の授業とはいえ数学以外は全く知らないことしか無かったのでかなり大変だった。知識を学ぶために必要な前提知識が余りにも多いのだもの。


 微分積分を学ぶために掛け算を学んでいるみたいなものだと思う。いやそれは言い過ぎかな。


「では、お疲れでしょうしお休みください」


「うん、ありがとう」


 私がその返事をした直後には意識はもう無かった。



「おはようございます」


「おはよう。エドワードが寝かせてくれたの?」


 寝る前最後の記憶は机の上だったはず。


「ええ。私が魔法を掛けましたので。そのお陰でぐっすり眠れたでしょう?」


「確かに。目覚めが抜群に良いわ」


 寝起きだというのに二度寝の誘惑は一切湧いてこない、まさに人生最高の起床だった。


「今日から学校ですね。私も付いていって手助けをしたいのは山々なのですが、専属騎士は授業に参加できません」


「そうなの」


「はい。専属騎士を持たない貴族達への配慮です。優秀な騎士を貴族一人の元で遊ばせておく余裕の無い家は少なくありませんので」


 言われてみればゲーム内で専属騎士を見たのは基本的に放課後のイベントだった。説明がされていなかったから分からなかったけどそういうルールだったのね。


「ですのでその間はオリヴィア様に与えられた別の任務に向かおうと思います」


「それと学内での振る舞いに関してなのですが、マリーがデヴィッドと本格的に接触し始めるまでは普通に過ごしていただければ結構です。しばらくは学業の方に集中ください」


「分かったわ」


 正直口調や立ち振る舞いはオリヴィア様を完全にトレースできる自信はあるけど本体スペックを真似するのは流石に厳しかったからかなりありがたい。


「それではご武運を」


「そちらこそ」


 エドワードはそのまま部屋から退室し、私は入れ替わりで入ってきた使用人に助けられて身支度をしてから学園に向かった。


「確か私は第五クラスだったわね」


 メインを張っていたマリーとエドワードは第一クラスだったから第五クラスについての情報は殆どないのよね。


「頑張りましょう」


 ゲーム知識が殆ど通用しない向かう恐怖心を抑えつつ、教室の戸を開く。

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