第2話

 私は自室を出た。


「オリヴィア様、どこに向かわれるのでしょうか?」


「図書室へ向かうわ」


「そうですか。お茶はいかがしますか?」


「そうね。お願いしようかしら。種類は任せるわ」


「分かりました」


 ちゃんとこの世界について知っておかないとね。


「ちゃんと読めるわね」


 会話が日本語だったから大丈夫では?と思ったけれどその通りだった。


 とはいっても書いてあるのは日本語じゃなくてよく分からない言語だけど。


 けれどまるで母国語のように読めるし、話すことが出来る。多分書くことも。


 もしかしたら会話も日本語に聞こえるだけかも?


 何はともあれ情報収集だ。


 必要なことはエドワードが教えてくれるとは思うのだけれど、自分で出来ることはちゃんとやらないとね。


 とはいっても一日しか時間が無いのでやれることは簡単な確認だけ。


 私が今いる国はコリンカ王国で、ここはエヴァンス領。


 エヴァンス家は王族の次に高い位の貴族である公爵家に属しており、その中でも特に強大な4大公爵家である。


 エヴァンス家はその中でも魔法に優れた家系であり、かつて起きた戦争時に活躍したことで今の地位を得ている。


 私がこれから通うのはナーシサス学園という国立の学校。16歳になった貴族達が通う場所。


 ここに全国各地から全ての貴族が集うというわけではなく、貴族が通うための学校はもう一つある。その名はラトム学園という。学力等の違いは無く、単に国土が広すぎるために東西に分けて作り、負担を減らすためにこうなったらしい。


 なら東西南北に作れよって思うけど、貴族自体そんなに数が多いわけでは無いらしいのでこれくらいが丁度いいらしい。


 ちなみにゲームのストーリーには一切関与してこないため名前以外の情報は皆無なのだけど。


 で何を学ぶのか。


 貴族としての一般教養、そして魔法だ。


 一般教養はこの国の歴史以外は日本の義務教育で事足りる程度の内容だけど、問題は魔法。


 いくらオリヴィア様の至高の肉体を持っているとは言っても知らないものを成し遂げるのは難しそうなんですけど……


「とりあえず調べられるだけ調べてみよう」


 私はその後、魔法に関する本を読めるだけ読んだ。


 が、無理でした。


「体内にめぐる魔力って何よ……」


 明らかに初歩の初歩であろう魔力を知る段階で躓いていた。


 肉体は魔法を使えるかもしれないけど、魂はそんなことを知らないのだ。


「エドワード頼みかな……」


 自分で出来ることは自分でやると決めた絵川美咲は、早速人の手を借りることになった。


 早速エドワードに相談した結果、馬車での移動中に叩きこむから大丈夫と言われた。


 翌日、馬車で屋敷を出た私はエドワードによる講義を受けることに。


「まずは魔力とは何かを理解する所からですね。私の手を握ってください」


「はい」


 私は言われた通りにエドワードの手を握る。爽やかなイケメンなのに手はがっしりしていて力強い……

 じゃなくて、血液が高速で全身を巡るような感じがしました。


「これが魔力です。まずはこれを自在に操れるようになりましょう」


「はい」


 試しに血液に意識を向けて、より早く全身を巡ることを意識してみる。


「そうですそうです。覚えが良いですね」


 どうやらこれが正解らしい。


 笑顔のエドワードが優しく頭を撫でてくる。正直照れるけどもっとやって欲しい。


「ありがとう」


「では次は……」


 という形で魔法に関する訓練が学園に辿り着くまで1週間程続いた。


 エドワードの教え方が良かったのと、オリヴィア様という天才の肉体を使って訓練しているということがあり、とんとん拍子で魔法を覚えていくことが出来た。


 流石に前後に使用人が乗った馬車があるので実際に魔法を撃ってみる訓練は出来なかったけれど、十分に発動が可能なレベルとのこと。


「じゃあ中に入りましょうか」


 私はエドワードの案内の元、私がこれから住むことになる寮に入った。


「最上階なのね」


「最上級の寮ですから」


 私が住むことになったのは6階建ての寮の最上階、6階だ。


 丸々一フロアが私の家らしく、私とエドワードと使用人以外に人は居なかった。


「エレベーターも無いし大変ね……」


 このファンタジーの世界にエレベーターという文明の利器が存在しているわけもなく、徒歩で登らざるを得なかった。


 まあ貴族の中でも一番偉い公爵家の人間だし、一番上に君臨しなければならないってのもよく分かるけど。


 ただ、オリヴィア様の体は非常に体力があるようで、6階を登っても超余裕だった。


 何ならダッシュで駆け上がっても大丈夫そう。オリヴィア様っぽくないからやらないけれど。


「とりあえず入りましょう」


「そうね」


 中に入ると、使用人たちがせっせと持ってきた荷物のセッティングをしてくれている。


 私も手伝いたいところだけど、貴族としてやらない方が良いらしいので最初からあった椅子に腰を掛けて見守ることに。


 こうやってオリヴィア様の為に一生懸命に働いてくれる使用人たちを見ると感謝で心がいっぱいになるわ。


 別にただの仕事なんだろうけれど、オリヴィア様の為に頑張っているという事実だけで好感度がダダ上がりするわ。


 心の中では満面な笑みを浮かべつつも、実際の顔は慈愛に満ちた穏やかな笑顔を見せる完璧なプレイングをする事1時間。荷物を全て運び終えたらしい。


「オリヴィア様、全荷物の運び入れが終了しました」


 終了の報告をしに使用人を取りまとめているであろう女性(メイド長かしら?)がやってきた。


「お疲れ様。非常に良い仕事だったわ。他の方々にもお疲れ様と伝えておいて」


「はい!失礼します!」


 それを聞いた女性は嬉しそうな顔をして部屋を去っていった。


 ちょっとオリヴィア様っぽくない行動だったかなと思ったからエドワードの様子を疑ったけれど、怒っている様子は一切無くて穏やかな笑顔をしていた。


「オリヴィア様は使用人には優しく対応するのでそれで間違っておりませんよ」


 心配そうな顔をしているのを気取られたのか、唐突にそう話した。


 どうやら正解だったらしい。


 めちゃくちゃ偉い貴族なのに使用人にも優しく接するとか神様ですか!?!?!?!?


「感激している所を申し訳ないのですが、明日の入学式についてオリヴィア様から指示があります」


「オリヴィア様からの言葉!?!?!?!?!?」


 ちゃんと熱心に聞かなきゃ!


「入学式が終わった後、パーティがあるのはご存知ですね?」


「はい」


 流石に序盤なので完璧に覚えているわ。主人公であるマリー・クラインシュミットが表舞台に初めて登場し、貴族中の注目を一斉に集めるシーンなのだから。


「そのパーティの際に出来る限りの味方を手に入れて欲しいのです。いわゆる取り巻きですね」


 なるほど。オリヴィア様はあのシーンに一切出てこないから何をしているのかと思ったけれど、そんな活動をしていたのね。


「ちなみに誰を優先的に引き入れるとか候補はあるの?」


 取り巻きの存在は知っているけど、ゲームじゃ一切名前が出てこなかったから誰か分からないのよね。


「候補となるとこの3人ですね」


 顔と名前が載った紙を1枚渡された。


「侯爵家のフランチェスカ・ベルヌッチと、伯爵家のマルゲリータ・ムリーノと、子爵家のジュリア・ラブロック。全員爵位が違うのね。どういった選出方法なの?」


 3人とも整った見た目をしているということしか分からないわ。


「フランチェスカは侯爵家ではあるものの、鉱山の枯渇に伴い落ち目にあります。窮地から脱却するため公爵家や王族の力を借りようと画策しているため、非常に御しやすいです。何よりもプライドが高く、王族と結ばれるかもしれないマリーにほぼ確実に嫉妬しますし」


 なるほど。マリーの妨害を率先して行ってくれるかもしれない侯爵家ってことね。落ち目でも侯爵家だから権力は高く、手出しが難しいと。


「そしてマルゲリータ。父であるファビオが事業に成功したことで侯爵家に匹敵する財力を持っております。それに加えて優れた美貌を持っているため貴族の男性陣、特に同格の伯爵家から絶大な人気を受けております。ただこの方はマリーに対して強い感情を持っているわけでも嫉妬心を持っているわけではないです。その分伯爵家として自分より上に成り上がろうとする身内以外を機械的に潰そうとするので問題は無いですが」


 この子を仲間にすることが出来れば美貌と財力で男性陣を一気に引き入れられるのね。確かにこのおっぱいは魅力的ね。どんだけあるのかしら?


「最後にジュリア。学園に通う貴族の中では最も爵位が低い子爵ですが、優れた才能を持っており、十分な教育を受けた公爵家にも匹敵する実力者です。ただ、今回のパーティで同じ子爵であるマリーに話題を全て持って行かれてしまうので、強く嫉妬心を抱きます。それでも彼女は子爵家の中で随一の実力者ですので、子爵家を上手く纏め上げてくれるでしょう」


 子爵家を牛耳ることで完全に孤立させようってことね。いくら注目を集めているとは言っても大体は男からのものだものね。


「大体は分かったわ。細かい人間性については話してから理解すれば良いのだから」


 プロフィールはあくまでプロフィール。これだけで相手を完全に知ることは出来ないもの。


「この3人は最優先事項ですが、それ以外の方もきちんと味方につけてください。特にマリーを邪魔しそうな人物は特に」


 貴族を味方につけるのはあくまでもマリーを追い込むためなのね。


「分かったわ!やってやりましょう!」


 オリヴィア様からの初めての指示、完璧に達成して見せようじゃない!

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