ブラック企業を辞めたらVTuber事務所にスカウトされ、Vとして頑張ろうとしたらまさかのデビュー二日前に事務所に逃げられた一文無しVTuber
黒ノ白夜
プロローグ
「――また明日の配信でお会いしましょう!おつ白夜!」
いつものように、マイクに向かって笑顔でそう言い、慣れた手つきで配信終了のボタンを押す。するとディスプレイに<この配信は終了しました。>と表示された。
直前までのコメントを眺める。そこには配信内容に言及するものや、他愛の無い話題が散りばめられていた。
それらを読んでいくと得も言われぬ充足感を感じた。ああ、これが今の自分の生活なのだと充足感によって実感する。
ふぅ、と一息つく。
少し緊張していたのもあるのだろう。一息と共に全身から力が抜けていき、椅子の背もたれに体重をかけると、ギシリ、と音が鳴る。
力が抜けた感覚に少しの心地良さを感じながら、今日の配信について振り返ってみる。感動であったり、反省点だったり、色々なことを振り返る。
自分が配信者であることを実感、または再認識する時間でもあった。
一日の振り返りはほぼ毎日のルーティンだが、その後の時間の過ごし方というのは日によってまちまちだ。
例えば明日以降の配信準備であったり、なにか連絡が来ていないか、連絡に返信はしていただろうか等の確認であったり、この世界で知り合った友人達と時間を過ごすことであったり。所謂、自由時間、というものだ。
そして自由時間を満喫し、全てが済んだ後は、ゆっくりと床につく。
こうして、バーチャルYouTuber『黒ノ白夜』は一日の活動を終える。
――ただ、この日は違った。
何故なのかはわからない。ただいつも通り一日を振り返っていたら、唐突にもっと前のことを思い出してしまった。
思い出してしまった、というのも変な話ではあるのだが。
とにかく、思い出したのだ。
『オレ』が『黒ノ白夜』としてこの世界に生まれる前、そんな時の記憶だ。
何がきっかけで思い出したのかはわからない。
もしかしたら配信のコメントの中にそういう過去に触れるものがあったのかもしれないし、SNS上で思い出すようなキーワードがあったのかもしれない。
ただ唐突に、突然、記憶が掘り返されていく。
ふと何を思ったのか、未使用のノートを一冊取り出した。あまり深い意味はないのだが、その記憶を書き出してみようと思った。
日記でも無ければ、メモというものでもない。
ではこれは何なのだろうか。
書き出していくものは自身の記憶であり、自分にとっての物語。オレが経験した出来事であり、思い出だ。
「ああ、そっか。これは……」
腑に落ちた。
言うなれば、これは自伝だ。
つまり今、自分は、自伝小説を書こうとしているのだと理解する。
「タイトルは、どうしようか」
小説、ということで記憶を書き出すことに乗り気になったオレは、タイトルを付けてみようと考える。気が早いかもしれないが、カタチから入るというのも悪くないだろう。
さてどんなタイトルが良いだろう、とノートとは別に小さなメモ帳を取り出し、少しの高揚感を元にペンを走らせていく。
メモ帳にはいくつか、候補が箇条書きで並んでいく。
・VTuber黒ノ白夜。その軌跡
・オレ―黒ノ白夜―が生まれた日
・新人VTuber『黒ノ白夜』の過去に迫る
etc...
書き出されたタイトルを読んでみるが、どれもしっくりこない。自伝小説のタイトルとしてはありそうなものであったが、何か違うと思う。
もっとわかりやすく、そして目に留まったのであれば興味を惹かれるような、自分を表現できるもの。
次々と書き出していくが定まらず、腕を組んで考え込んでしまう。
それから時間にして約5分程、悩んでいると閃いた。
メモ帳はもういらなかった。
忘れないように、刻み付けるようにノートの表紙に書き殴っていく。
「オレを表すのなら、これが一番かな」
書き終わったそのタイトルを見て、呟きながら少し苦笑してしまった。これまでの候補より、文章量としてはるかに長くなってしまったそれを見て、昨今のライトノベル風になったと思えば良いだろう、と一人納得した。
これはオレにとって記憶であり、思い出であり、そして物語だ。
もしかしたらこのノートに書き出した自伝小説を人に見せるかもしれない。
その上で、もしもこれを読む人がいるなら、伝えたいことがある。
少々長い話になると思う。それに、良い話ばかりでもない。
でもどうか、読み進めて欲しい。
読み進めることによって『黒ノ白夜』という存在を、もっと深く知り、身近に感じることができるだろうし、『オレ自身』が知って欲しいとも思う。
さて、始めていこう。
『ブラック企業を辞めたらVTuber事務所にスカウトされ、
VTuberとして頑張ろうとしたらまさかのデビュー2日前に事務所に逃げられた、
一文無し個人勢VTuber』
これはVTuber『黒ノ白夜』のこれまでの物語。
これからを進んでいくための、物語だ。
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