「致命的」

「さっき工事現場の前を通ってたらさ」

「おう」


 唐突に友人の話題が変わるのはいつもの事だった。


 俺たちはだらだらと喋りながら、次の授業まで時間を潰している。

 休み時間の度に話すものだから、沈黙が続いたりお互いがソシャゲをしていたり。

 かなりフリーダムな過ごし方が定着していた。


「鉄パイプの結束が急に外れて来て吃驚よ」

「まじかよ」


 相槌もかなり適当である。

 たいていは放置や自動化で済むソシャゲだが、今は難関ステージを手動でプレイ中なのだ。


 友人も慣れたもので、そんな適当な相槌でも気分を害する事はない。

 ないのだが、今日は少し様子が違った。


「だからさ、この鉄パイプ抜いてくんね?」

「あん?」


 言われて顔をあげれば、友人の顔に鉄パイプが突き立っている。


「そろそろ邪魔なんだよね」

「まじかよ」


 相槌はかなり適当である。

 目をそらしたせいで育てあげたパーティが半壊しかけていた。

 急いで建て直さなくては。


「一人じゃ無理なんだって」

「おう」


 ひと段落ついて顔をあげれば、友人が顔の鉄パイプを引っ張っている。


「ちょっと待てって」


 しょうがないので席を立ち、両手で鉄パイプを掴んだ。

 工事現場のだし汚いかもしれない。

 友人の体液も漏れそうだし、嫌だなぁと思った。


 ぐいぐいぐいと引っ張って、ようやく鉄パイプは外れ、床へと落ちる。

 慎重にやったおかげで汚れなし。

 我ながら良い仕事をした。


「おい見ろよ」


 急に休憩スペースがざわつく。

 見れば、黄色とドクロマークの腕章をつけた学生が一人。


「まじかよ」

「危ねぇな」


 ひそひそと周囲が声を漏らし始めた。

 なんて危ない奴。


「今時、まだ居たんだ」


 顔にレンガがめり込んだ男が眉をひそめる。

 男に同意した女は、アクセサリ代わりに入れたボルトを支え、不安そうだ。


 今の時代、老衰以外の死は死因から消えている。

 ちょっとした手術でたいていの外的要因への耐性を得られるし、即死もそうそうない。


 国から補助だって出ていて、ほぼ無料で受けられたはずだ。

 そのはずなのに、あの学生は何もしていない。


 あんな奴がいるなんて、気を付けないと。

 ちょっとした事であいつが死んだらこっちの責任だし胸糞悪い。


 僕らは気が気じゃないというのに。

 その学生は警戒するこちらを無視し、一人で無責任にも歩いて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る