「耕すと楽になります」



「森を切り拓くだって!?」


 大声で叫ばれてしまった。

 ざわざわと周囲も騒ぎ出す。


「そんな事は許される事じゃなか。だいたいあれは領主様の持ち物で、我らはその恵みの一部を許可された分だけ。生きる分だけ頂いているだけだで」


 そうだそうだと集まった男たちが口を揃える。

 向けられるのは非難の目だ。


「その領主様からのお達しなんですよ」

「そんなわけあるか!」


 あちこちから上がる不満の声。

 それを諫めたのは年老いた村長だった。


「まぁまぁ皆の衆。彼らが領主様の使いというのは確かじゃ」

「村長、じゃぁやるんですかい?」

「これも時代の流れじゃろう」


 村長は仕方がないと首を振る。

 結局森を拓く事が決まった。


 領主の使いである我々は集会所を出て、ゲストハウスへ向かう。


「嫌われていますね」

「いつもの事だ。税を待つと言っても労働力は村の者だし、その間普段の生活は滞る」

「村の生活って奴ですか。それにしてもあんなに動揺するなんて」

「なに、どうせ何年かして収穫が安定すれば態度も変わるさ」


 これから忙しくなる。

 労働力は彼らだが、何処をどう開拓するかの指揮は我々だ。


 彼らからすれば面白くないだろうが、そうした方が数十年後の生活が楽になる。

 そのために村の正確な人数と備蓄を確認し、計画的にやらなければ。


 しかし、事はそう簡単に運ばなかった。

 森は深く、備蓄は少ない。

 食料だけでなく薪の準備だってあるのだ。


「薪作業をやめさせましょうよ。こんなにあるのに」

「馬鹿野郎。今やってるのは来年、再来年の分だ。その時に全員凍死するぞ」

「じゃぁ領主様に人員を送ってもらいましょう!」


 若者がわけのわからない事を言い始める。

 今ですら備蓄が怪しいのに、人が増えてどう食っていくのだ。

 領主様の元で何を学んできた?


 このゲストハウスだって、村が備蓄していた物資でやっているんだぞ。

 難しい計算も、言って聞かせる村人教育も、領主様とのやり取りも俺がやっているというのに。

 村の青年団の方がよっぽど役に立つ。


 というわけで食料の消費先をひとつ減らす事が出来た。

 もう二、三潰せば冬を越せるだろう。


 そこから先はまた考えれば良い。

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