「終わらない課題」
いつまでも、いつまでも、いつまでも。
達成出来ない課題がある。
もはや課題の詳細も忘れちまって、何もかもどーでもいいって感じになってからも。
引っかかった小骨のように。
ついつい、何だったかの御題をクリアしなきゃなと思ってしまう。
まぁ、覚えてもないんだが。
「兄ちゃん、もう着くぞ。本当にここで良いのかい?」
「ああ、問題ない」
運ちゃんが料金を受け取って去っていく。
それで、俺は見渡す限りの砂漠に一人残された。
枯れ果てた土地なんざ珍しくもない。
が、こんな銀色の砂漠なんて初めて見たし。
数年前までこんなものはなかった。
「またやったなこの野郎」
足の取られる砂漠を歩き、辿り着いたドーム状の一軒家。
扉を開けるなり文句を言う。
「ああ、久しぶり。大変だったでしょ」
「大変だったでしょじゃねぇよ。一体何をしたら銀の砂漠が生まれるんだ」
ゴーグルをかけた女性がこちらを見てニヤリと笑う。
何でこいつはやらかしを指摘すると嬉しそうにするんだ。
「ちょっと珪素が足りなくてさぁ。すぐそこの地層にあるのに、毎回注文するのって無駄じゃん?」
「だからって地域ごとやる奴があるか」
「これで一生分持つよー。ちゃんと砂粒見た? あれだけ純度を高く出来るなんて流石私」
「どうせあんな野ざらしじゃ精製しなおさないとダメだろ。買った方が楽なんじゃねーの」
「ところがどっこい。一帯が砂漠になって輸送費が上がったので、もはや自分で精製するしかないのだ」
「馬鹿過ぎる」
「えへへ」
笑いながらゴーグルを外しもしない。
表示だけでなく接続演算と別に視線コマンドで何かしてるな。
「お前の惑星だし、好きにしろとは思うが。あまり馬鹿な事してると取り上げられるぞ」
「良いじゃん。研究成果オッケー出たんでしょ」
「まぁな」
彼女のご先祖様は功績を認められ、惑星ひとつ自分のものにしたほどの科学者だ。
その遺産と素質を受け継いだ彼女も優秀なのは間違いない。
まぁ、ちょっと自由過ぎて最近苦情が入ったが。
「惑星の利権を狙われ始めたら面倒だぞ」
「狙われてるんじゃない? 今生きてる人でうちの功績ちゃんと知ってるのほとんど居ないでしょ」
「笑いながら言うな」
「私だって知らないし。そんな人たちが手頃な惑星から利益を上げるなら、小娘一人何とかする方が楽でしょ」
「しゃれにならん」
「ま、そのために使えそうな研究出したけど。さて、何処まで本腰入れて守ってくれるかな」
自分の境遇を他人事のように。
彼女の危惧が現実になるまで、そう時間はかからなかった。
好きにさせて気まぐれな研究成果を取るより、小娘一人制圧して惑星を取り上げ研究もさせようなんて誰が考えたのか。
まぁ、わかっていても手出しなんか出来ないが。
とりあえず、思った以上に手こずって損失が大きくなった相手が、青ざめている事を祈ろう。
「コマンダーモジュール、私につかないかなぁ」
「つかねぇよ。俺の管轄だ」
「ごめんね。こんな事になって」
悲しそうにする彼女の顔を見て思い出した。
『子供を1000人笑顔にして来い』だ。
はるか昔、俺を改造した彼女のご先祖様が言いつけやがった課題だ。
全く無茶を言いやがる。
「全ユニット起動。派手な喧嘩になりそうだ。鼻でもかんで待ってろ」
「……ばか」
指揮ユニットとして50の戦艦と随伴ユニットを起動する。
惑星ごと改造した戦闘要塞なんて、俺には重い。
だがまぁ、他の機能を潰せばやれない事はない。
壁に埋まったオブジェになるくらい安い代償だ。
なにせ彼女を笑顔にしないとならないからな。
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