手軽に楽しむ、ひとくち物語
草詩
「雪が降ったと思ったら」
雪だ。
空にふわりふわりと、白い欠片が舞っている。
青空が見えているというのに不思議なものだ。
「いつもより冷え込むとは思っていたが、もうそんな時期か」
何度目かの冬。
例年より少しだけ早い雪。
雪が降る頃には帰れるとは誰の言葉だったか。
それを真に受けて、自分も故郷を出る時そう伝えたのだ。
待ってると泣きながら言ってくれた娘は、良い人を見つけられただろうか。
約束を違えた男を待ち続けては肩身も狭かろう。
ままならないものだ。
視線の先で揺れ落ちる雪を追う。
何となく、雪の結晶でも見れないものかと屈んで手を伸ばしてみた。
退屈を紛らわせたかったのか、美しいものでも見て哀愁を紛らわせようと思ったのか。
その瞬間、至近弾が落ちた。
横に居た戦友は即死だった。
自分は吹き飛ばされ意識を失った。
破片の処理がすぐに出来ず片足を切断する事になったが、生きていた。
その時から、人生の節目には雪があったように思う。
「あの時から、君は居たのかな」
雪が、降っていた。
年末の忙しい日だというのに。
窓辺で、雪の精のような白髪の女児が足をぶらぶらさせていた。
「婆さんには随分苦労させてしまった。連れて行ってくれるかい?」
結局、泣き腫らしたあの娘は縁談を蹴ってまで足を失って迷惑ばかりな男の元へ嫁いだのだ。
あちらへいったら、世話になった分何かしてやりたい。
雪の精は何も応えなかったが、それでも予感があった。
だって、何か起こる時はいつも雪が降り始める頃だったのだから――。
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