異世界がリアルになった。英雄とかなりたくないから聖女はオレから離れろ!!

桂真琴

1 オレが歩けば剣に当たる


 道を歩いていたら、剣に当たった。

 正確に言えば通学路に刺さっていた。


 そりゃ嫌でも目につく。家から幹線道路に出る住宅街の、細い路地にぶっ刺さってるんだから。

 嘘だろ?

 オレは混乱する頭を整理する。

 もちろん道はアスファルトだ。ここは日本だ。しかしあれは見ても剣だ。

 ゲームとかで見る、なんか強そうな剣。エクスカリバーとか名前が付いてそうなやつ。


「レプリカ?? 誰かの落とし物??」


 武器マニアが落としていったという可能性をオレはすぐさま消した。

 落とし物じゃないですね。

 だってこんなに重いレプリカとか、ぜったいにない。

 しかも道の真ん中に刺さってるって。

 ドッキリか? 誰かのイタズラ?


 それにしても刺さってるって。一体どうやってアスファルトに剣なんか刺したんだ? 接着剤とかでくっついてるってオチか?


 まあとにかく関わらないのが一番ですね。


 狭い道幅のど真ん中で存在を主張する剣の横をすり抜けようと、オレは身体を横にマヌケなカニの動きをした。


 すると突然、


『抜いてぐれぇえええ!!』

 地獄の底から湧き上がるような声にオレはビビって思わずカニ足が止まる。


『な、え? え? どっからこの声……ってやっぱりコレ?!』

 いぶし銀オッサン俳優的な芝居じみた声は、アスファルトに深々と刺さった剣から聞こえてくる。

 まじでドッキリかも? と思ったとき、また剣が叫んだ。


『ぐるじいぃいい、早く……抜いてくれぇえええ』

 おいおいおい持ち手のところに嵌めこんである宝石みたいなのが光ったって!!


  これぜったいヤバいやつじゃね?


 オレはけっこう迷信深い。ばあちゃんに影響を受けているからかもしれない。米粒残したら目がつぶれるとか。神社の敷居踏んだら祟りがあるとか。


 これも無視したら呪われるかもしれない。心から無視したいけど。

 オレは無視と呪いの葛藤にゆれ、結局その金色の柄を握った――が。


「抜けない……!」

 剣は意外と抜けずオレは額に汗までにじむ。

 すかさずオッサン声が応援してくる。


『もっと力をこめて!!』

「うおおお!」

『腰を落として!!』

「ぬうううう!」

『一気に!!』

「うわあああああああああ!!!」


 す、と軽くなった感触のせいでオレは派手に転んだ。


「いってえ……」

『うわーんありがとうぅううう』


 え???


 なんか気のせい? オレ、剣をそこい放り投げたはずなのに剣が一人で動いてオレにすり寄ってきてるよ? 


「うわっ、危なっ、切れるっ、オレの身体切れるって!!」

『大丈夫よぅ、あたしは運命のヒトは傷付けたりしないからぁ』


 なんだって?

 まずい。幻聴まで聞こえ始めた。


『もうほんっと困ってたのよぉ。しぶといバルバドスが最後の力ふりしぼってあたしを封印しにきたんだからぁ。ま、あいつはそれで力使い果たして今度こそ地獄に堕ちたけどねっ』


 ん???


 ちょっと待て。


「今、バルバドスって言ったか?」

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異世界がリアルになった。英雄とかなりたくないから聖女はオレから離れろ!! 桂真琴 @katura-makoto

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