第102話 話し合い
アレックスがケイリヒトたちを招集した日。部外者の俺は話し合いに参加しないけど、別の役割があるんだよ。
ケイリヒトがいなくなった後の『闇の魔神の大迷宮』の監視と、アレックスたちの話の行方を確認することだ。
いや、俺は参加しないとは言ったけど。聞かないと言ってないからな。
勿論、興味本位じゃない。俺が仕掛けたことだからな。結果を見極める必要がある。
正直に言えばレヴィンが来るかどうかは五分五分だと思っていた。
だけどレヴィンはいつもの格好でアレックスの城にやって来た。
トライアンフとケイリヒトはもう来てるから、これで全員揃ったな。
「じゃあ、アレックス。おまえたちで話し合ってくれよ」
俺が立ち去ろうとしたけど。
「待ちなよ、アレク。あんたがあたしを誘ったんだ。だから最後まで付き合って貰うよ」
おい、レヴィン。そんな話聞いてないぞ。
「レヴィン、貴方は何を考えているのよ。こんな奴の前でエイジとマリアのことを話せって言うの?」
「ケイリヒト、別に構わないじゃないか。第三者がいた方が話が纏まるってこともあるからね。それにあたしは……アレクが何を考えてるのか知りたいんだよ」
縦長の動向の瞳が抜け目なく俺を伺う。
「俺もアレクに同席して貰いたいと思っている」
「ああ。こいつが俺たちを集めたんだからよ」
アレックスとトライアンフが同意したから、ケイリヒトは引き下がるしかなかった。
俺を睨んでるんだけど、俺のせいじゃないからな。
アックスたち4人はテーブルを挟んでソファーに座る。俺は少し離れた場所に椅子を用意して貰った。
キスダルが5人分のお茶を入れて部屋を出て行くと、俺たちの他には誰もいなくなった。
「『
ケイリヒトが予告なしに魔法を発動する。これでアレックスたちの声が外に漏れることはない……普通に考えればね。
勝手に外に待機してるエリザベスは『
『エリザベス。余計なことはするなよ』
『勿論解ってますよ、アレク様』
いや、解ってないから毎回念押してるんだろ。
今回サターニャには『闇の魔神の大迷宮』の監視を任せてる。諜報部隊に監視させてるから、サターニャが行く必要はないんだけど。
こっちにサターニャまで来ると収拾がつかなくなるし。役目を与えないと拗ねるからな。
俺が進行役って訳じゃないし、急かすのも何だからな。暫く静観していると、アレックスが喋り出した。
「俺は……エイジとマリアを死なせてしまったのは、リーダーだった俺の責任だと今でも思っている。
だけどケイリヒトとレヴィンも自分の責任だと思ってることは知っている。
トライアンフだって口には出さないが、責任を感じているんだろう」
アレックスの言葉を3人は黙って聞いている。とりあえずアレックスの言い分を聞くつもりなんだろ。
「俺はリーダーだったのに……マリアに約束したのに……2人を死なせてしまった。
なんでもっと早く気づかなかったのか。何か方法はなかったのか……俺はずっと後悔してる。だけど全部リーダーだった俺の責任だから、おまえたちは何も悪くないんだ」
アレックスがこういう奴だから、ケイリヒトたちはリーダーにしたんだろうな。
「アレックス、話はそれで終わり? だったら私も言わせて貰うわ。
貴方には何度も言ってるけど『始祖竜の遺跡』を攻略しようって最初に誘ったのは私よ。それに私が1番レベルが高くて、エボファンの知識もプレイヤースキルも高いんだから。奇襲に気づけなかったのは私の責任だわ」
「ケイリヒト、それは違うだろう。確かに俺たちはケイリヒトに頼っていたが。だからってケイリヒトに責任を押しつけるつもりはない」
「だからアレックスは馬鹿だって言うのよ。そんなことを言ったら、貴方をリーダーにした私たちにも責任があるわ。それに私たちは誰かが指示を出すんじゃなくて、それぞれの判断で連携するって決めてたじゃない。1番レベルが高い私がもっと早く奇襲に気づくべきだったのよ」
互いに譲らないアレックスとケイリヒトに、トライアンフは呆れた顔をする。
「てめえら、いい加減にしろよ。自分の責任、責任って……そんなことを言って、エイジとマリアが喜ぶって思ってるのか?」
「ふーん……トライアンフ、自分は違うって口ぶりだね。だけどあんだって責任を感じてるのは解っているんだよ。
レヴィンが
「2人が死んだ日。号泣しながら自分を責めてたのは、どこのどいつだい」
「レヴィン、てめえ……盗み聞きしていやがったのか!」
「ああ、そうだよ。あたしは暗殺者だからね。あたしに隠れて何をしても無駄だよ。だけどトライアンフは馬鹿だね。今のであんたも認めたってことじゃないか」
「て、てめえって奴は……」
「トライアンフ……」
トライアンフのことは、アレックスとケイリヒトも知らなかったようだな。
いつも豪快なトライアンフが自分を責めて泣くなんて思いもしないよな。
「レヴィン……だけど貴方も同じよね。モンスターに奇襲されたのは盗賊系クラスの自分の責任だって言ってたじゃない」
ケイリヒトの追及にレヴィンはニヤリと笑う。
「ああ、そんなことを言ったかも知れないね。だけど昔の話だよ。今はあんたたちと違って、あたしの責任だなんて思っちゃいないよ。エイジとマリアが死んだのは可哀想だと思うけどさ。結局のところ、死んだのは自分の責任だからね」
自分には関係ないとレヴィンは言うけど。
ケイリヒトの追及は終わらなかった。
「レヴィン、何を言ってるのよ。貴方が世界中の盗賊ギルドを使って情報を集めてるのは、アレックスたちに危険が及ぶのを事前に察知するためでしょう」
「ケイリヒト、何を言ってるんだい。何の証拠があって……」
「証拠ならあるわよ。レヴィンの配下のギルドマスターに『
ケイリヒトの方がレベルが上だし、魔法も上手だからな。レヴィンはケイリヒトに魔法を使われたことに気づかなかったんだろ。
「だから何だって言うんだい? あたしは自分のために情報収集をする
レヴィンは認めるつもりはないみたいだけど、ケイリヒトは確信してるな。
まあ、俺もレヴィンの情報網を調べたからな。ケイリヒトが言ってることが間違いじゃないことは解ってる。
諜報部隊が使う組織の動きはレヴィンに見抜かれてるけど。諜報部隊まで気づかれてる訳じゃないからな。
4人はそれぞれ自分の想いを口にしたり、相手に暴露されたことで、誰が何を考えているか再認識したみたいだな。
だけど誰も相手の言い分を認めるつもりがないから、結局は平行線だな。
「なあ、俺も発言して良いよなも」
余計なお世話だと解ってるけど。俺が仕掛けたことだし、おまえたちも同席を認めたんだからな。言いたいことは言わせて貰うよ。
「おまえたちの言い分は解ったけどさ。俺に言わせれば、おまえたちは一緒にパーティーを組んでたんだから、2人が死んだ責任は全員にある。エイジとマリアを含めてな。
もし俺の仲間が死んだら、俺だって自分を責めると思う。だけど他の仲間だって同じように思う筈だろ。仲間ってそういうものだからな」
俺はみんなを絶対に守るって決めた。だから絶対に死なせるつもりはない。
だけど俺がそう思っていても、絶対はあり得ないからな。可能性は常に考えてる。
「リーダーだからとか、自分が1番レベルが上だからとか、盗賊系クラスだからとか。トライアンフは物理アタッカーとして1番だから、仲間が死んだのは自分の責任だって思ったんだよな。
だけどみんなが自分の責任だって思うなら、みんなで責任を負えば良いだろ。もう2度と誰も死なせないために」
ケイリヒトが俺を睨む。
「何を正論を言ってるのよ。アレク、貴方は仲間を殺されたことがあるの?」
「いや、ないけど」
「だったら、知った風な口を利かないでよ! 貴方には関係ないわ!」
正論なんて解ってるけど現実は違うわ。勝手なことを言うなら私が許さないわよと。ケイリヒトは全身全霊を込めて俺を拒絶する。
「ケイリヒトの言う通りに、俺はエイジのこともマリアのことも知らない。その場に居合わせた訳じゃないから、実際に何が起きたのかも知ってる訳じゃない。
だけど俺も仲間が大切だからな。おまえたちがどんな気持ちなのか想像することくらいはできるよ。想像で喋るなって言いたい気持ちも解るけどさ……」
俺が想像したことは唯の思い込みだって解ってる。
実際に仲間を失ったケイリヒトたちの気持ちが理解できるだなんて俺は自惚れてない。
「結局俺がやってることは唯の我がままだよ。せっかく知り合ったアレックスたちをどうにかしてやりたいっていう俺のエゴを、おまえたちに押しつけてるだけだ」
「アレク、貴方は何を開き直って……」
「ああ。開き直ってるよ。これが俺のやりたいことだからな」
拒絶するなら好きにすれば良い。だけど俺だって引くつもりはないからな。
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