第79話 進展?


 ダンジョンのラスボスは出現した場所にある魔法陣を踏めば直ぐにリポップする。

 だけど、いきなり再戦に持ち込むようなことはしない。

 みんなが勝利の余韻に浸ってるからな。俺だって空気が読めるんだよ。


 今日はこのまま帰って祝勝会だ。俺は夜中に戻って来てティアマットを狩り捲るけどな。

 いや経験値とかそう言うんじゃなくて。俺だって久しぶりにティアマットと戦いたいんだよ。


 王都ガシュベルに戻ると、冒険者ギルドに行ってティアマットのドロップアイテムを売る。ギルド職員に驚かれたけど、それが狙いだ。みんなの活躍をちょっと自慢したかったんだよ。


 祝勝会は最近みんなでよく行く『ビストロ・ママン』で行う。

 トライアンフに呼び出された高級店とは違って、気楽に行ける街の洋食屋さんって感じの店だ。

 料理も酒も安くて美味いから大人気だけど、1週間前に予約したから大丈夫だ。

 1週間もレベリングすれば、みんながティアマットに勝てることは解っていたからな。


 予約したのは個室じゃなくてテーブル席。この店には個室がないってのもあるけど、俺たちは賑やかな雰囲気の方が好きだからな。

 誰かが騒いで他の客に迷惑を掛けそうになったら『防音サウンドプルーフ』を使えば問題ないだろ。


「ベルカさん、私はいつものね」


「私は今日のスイーツをお願い!」


「ソフィアはまた甘いモノを食べるの? あんた、本当に太るわよ」


「別に大丈夫だよ。レイナ、意地悪言わないでよね」


「ソフィアは冒険者なんだし、消費も激しいから問題ないよ。レイナだって大食いのくせに、だったらあんたの分の肉の量を減らすからね」


「ベルカさん、それだけは止めてよ! ……ソフィア、私が悪かったわよ」


「そうそう。レイナも素直になれば可愛いんだから」


 俺たちは店主のベルカさんともすっかり顔なじみになった。冒険者にも負けない男前な人だけど、40代で2人も子供がいるとは思えない美人だ。

 いや、俺は別にマザコンでも熟女好きでもないからな。


「他のみんなもいつもので良いかい? 腹減ってるんだろ。じゃんじゃん料理を出すからね。ああ、ガルドとグランは酒を樽ごと出すから勝手にやりなよ」


 みんなの好みも解ってるからお任せで問題ない。イマイチ客扱いされてない気がするけど、それもこの店の良いところだな。


「ベルカさん、俺はいつものやつで……よう、アレク。2日ぶりだな!」


「何だよ、おまえら。いつも女子が多くて羨ましいな」


 他の客たちも気安く声を掛けて来る。初めは戸惑ったけど、みんな気さくで良い奴ばかりだ。


「じゃあ、今日は徹底的に飲もうぜ。なあ、ガルドの旦那」


「ああ、そうだな。みんなも乾杯しよう。俺たちの勝利を祝って……なんてクサい台詞は似合わないな」


 俺たちはどんどん運ばれて来る料理を食べながら、『ビステルタの霊廟』完全攻略の祝杯を上げた。

 グランとガルドは1つ目の樽を直ぐに空けてしまい、店の奥から勝手に新しい樽を運んで来た。


 女子には『ビストロ・ママン』自慢のスイーツが大好評だ。普段は甘いモノを食べないレイナも肉と交互にバクバク食べてる。

 今日はみんな酒を飲んでるから自然と声が大きくなるけど、他の客たちも嫌な顔なんてしないで一緒に楽しんでいた。


「今日は俺たちが『ビステルタの霊廟』を攻略した祝いだ。うるさくして申し訳ねえが、みんなにも酒を奢るからよ。みんなも楽しんでくれよ!」


 グランの言葉に周りから歓声と祝福の声が湧き上がる。

 恥ずかしいから止めて欲しいんだけど。グランがこんなことを言うのは珍しいし、よっぽど嬉しかったんだろう。まあ、今日のところは大目に見るか。


 それにしても……以前まえは気づかなかったけど、シーラはいつの間にかグランの隣にいるし。口数の少ないカイもメアとは良く喋ってるよな。

 仲が良いのは解るけど、これが付き合ってるってことなのか。人を好きになったことがない俺には良く解らないな。

 だって仲が良いだけで付き合うなら、俺はエリスとってことになるからな(苦笑)。

 いや、そんなことを言ったらエリスに迷惑だろ。


「なんか……アレクは変なこと考えてるっすね」


「そうね。こじらせてそうな顔だわ」


 当のシーラとメアがこっちにやって来た。


「何だよ、2人とも」


「ははーん……アレクは私とグランが付き合ってることを聞いて、恋人ってどんなものとか理屈っぽく考えてたんじゃないっすか?」


 いや、確かにおまえたちのことを見てたけどさ。そこまでバレバレなのか。


「先に言っておくけど、アレクに喋ったことはカイとグランに吐かせたから。しらばっくれても無駄よ」


 おい、おまえらなあ……カイを見ると目を反らされた。グランは全然こっちのことなんて気にしてないし。

 でも『こじらせてる』とか『理屈っぽい』とか、悪口のように聞こえるんだけど。


「いや、おまえたちのことを詮索するつもりはないからな」


「別に興味を持つのは悪いことじゃないっすよ。私だって別に隠してる訳じゃないすから。むしろ人前だって全然オッケーなのに、グランが嫌がるからしないだけっすよ」


「人前でって、何をだよ?」


「恋人のやることなんて決まってるじゃないっすか。エッチなことをしたり、イチャイチャするってことっすよ」


 え……シーラ、おまえ何言ってんの?


「さすがに人前で最後までやらないっすけど。キスとかボディータッチくらいは普通にしたいっすよ。ねえ、メア?」


 おい……ちょっと待ってくれよ。


「私たちはまた付き合って2ヶ月くらいだから……カイは格好つけでヘタレだから、最後まで行くのに時間が掛かったのよ。だから人前でイチャイチャするのはもう少し先かしら……ああ、誤解しないでよね。カイのそういう・・・・ところも私は好きだから」


 メアは照れてるけど、全部言ってるだろう。

 そんなことを言われて、俺は何て返せば良いんだよ。


「あー! なんでシーラとメアがアレクと一緒にいるの? 2人にはグランとカイがいるんだから、アレクまで取らないでよ」


 おい、ソフィア。大声で言うなよ。カイが恥ずかしそうにしてるじゃないか。

 ソフィアも顔が赤いけど、酔ってるのか?


「ソフィアは何を言ってるっすか。アレクは私のタイプじゃないっすよ。そういうことで……メア、邪魔者は消えるっす」


「そうね。2人ともごゆっくりー!」


 ニマニマしながら2人が戻っていく。なんかハメられた気分だけど……


「アレク、あんたは何をやってるのよ! 今回は私が1番活躍したんだから私に付き合いなさいよ!」


 今度はレイナがやって来て、俺の腕を掴んで引っ張って行こうとする。

 レイナも顔が赤いから酔ってるな。


「えー! 私だってレイナに負けないくらい活躍したよ! だからアレクは私と付き合ってくれるよね?」


 ソフィアが逆の腕を掴んで引き留める。いや、付き合う・・・の意味が違うことは解ってるけどさ。

 周りの客が『アレク、モテモテだな』とかニヤニヤしてるし。


「ねえ、2人とも止めない? アレクが困ってるでしょ」


 エリスが止めに入る。やっぱりエリスは俺のことを良く解ってくれるよな。


「そうね……アレク、悪かったわよ」


「うん……アレク、ごめんね」


 2人が手を離すと。エリスが『じゃあ、みんなで一緒にどう?』と空いていた4人掛けのテーブル席に誘う……何故か俺の手を握って。顔が真っ赤だし、エリスも酔ってるのか?


 そのまま自然な感じでエリスは俺の隣に座る。

 向かいに座ったレイナとソフィアがジト目で見ている。


(ねえ……なんか今のエリスってズルくない?)


(そうだよね。私も納得できないよ)


(うん……ごめんなさい、そうかも。私なりに頑張ろうと思って)


 なんか3人で小声で喋ってるんだけど。俺って要らなくないか?


(ふーん……まあ、お互い様だから許すわよ。今日だけはね)


(私だって……でもエリスには負けないからね)


(うん。2人ともありがとう)


 ちょっと疎外感を感じていると、不意に『伝言メッセージ』が届いた。俺は思わずニヤリと笑ってしまう。

 相手はアレックスで、この前の話をしたいから1週間後に会えないかという内容だったからな。

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