第77話 敵意 ※ケイリヒト視点※


※ケイリヒト視点※


「それで……馬鹿なアレックスは、魔王アレクを簡単に信用したということかしら?」


 私はアレックスの城を再び訪れて、アレクの対応に悩んでいる彼を揶揄からかっていた。


 トライアンフが止めても、アレックスが行くことは解っていたけれど。まさ

か2人揃ってアレクに丸め込まれるなんて。

 呆れるけれど、素直に人を信じる性格はアレックスの可愛いところなのよね。


「俺だってまだアレクを信用した訳じゃない。だがあいつはトライアンフを殺さなかった……アレクが放った『流星雨メテオレイン』を見て気づいたんだ。

 あんな魔法を放てる奴が1,000レベルどころの筈がない! ケイリヒトなら解るだろう?」


「ええ。私も千里眼クレアボヤンスで監視していたから。魔王アレクの『流星雨』は属性レベルも固有魔法レベルもMAXだと思うわ。

 第10界層魔法のレベルをMAXにするには、スキルポイント的に2,000レベルを超えていないと無理ね」


「やはりそうか……アレクは自分の方が明らかに強いのに、喧嘩を売ったトライアンフを見逃したんだな。

 その上で俺たちと友好関係を築こうだなんて、度量の広い奴なんじゃないか」


 アレックスは勝手に誤解しているみたいだけど、私が言いたいのはそういうことじゃないのよね。


「アレックス、だから貴方は馬鹿だって言うのよ。魔王アレクは殺さなかったんじゃなて、殺せなかった・・・・・・可能性だってあるじゃない」


「ケイリヒト、どういうことだ?」


 訳が解らないと当惑顔のアレックスも可愛いわね。もっと虐めたくなるわ。


「あのねえ、アレックス。『流星雨』は落ちて来るまでにタイムラグがあるから、『転移魔法テレポート』で逃げれば良いだけの話よね」


 どうしてマトモに攻撃を受ける前提で考えるのかしら。

 どんなに強力な魔法でも、避けてしまえば意味がないじゃない。


「だが魔王アレクはあれだけの魔法が使えるんだ。他の魔法だって……」


「アレックスがそう思い込んでいるだけで、他の魔法は大したことないかも知れなないわよ。

 貴方はアレクが他の魔法を使うところを見ていないのよね?

 仮にアレクが2,000レベルだとして『流星雨』にスキルポイントを極振りなんてしたら、他の魔法のレベルを上げる余裕なんてないわよ」


 そもそも私なら『流星雨』にスキルポイントを注ぎ込むような真似は絶対にしないわ。

 魔法は威力だけが全てではないし、もっと実戦向きの魔法は幾らでもあるんだから。

 もし『流星雨』に極振りしても余るくらいにスキルポイントに余裕があるとしても、尚更もっとバランス良くスキルを取るわよ。その方が強くなれるから。


「2,000レベル超のHPなら、トライアンフの最上位スキルで攻撃されてもを死ぬことはないでしょう。アレクには自動回復能力もあるんだから。

 だけどアレクも決め手に欠けるから、貴方たちに『流星雨』の威力を見せつけて、友好関係を結ぶ話に持っていったんじゃないかしら」


 アレックスは唖然と来ているけれど、これくらい考えれば直ぐに解ることよね。

 もう、アレックスは本当に馬鹿なんだから。


「もし何も考えないで『流星雨』に極振りしたとしたら、魔王アレクもアレック並みの馬鹿かも知れないわね」


「なあ、ケイリヒト……何度も馬鹿だ馬鹿だと連発されたら、さすがに俺も怒るぞ」


「あら。アレックスでも怒ることがあるのね。だけど貴方なら私に悪気がないことくらい解っているわよね……」


 アレックスにしなだれ掛かって、唇を奪う。


「おい、ケイリヒト……」


 アレックスは抵抗するけど、貴方が私に勝てる筈がないじゃない。


「ねえ、アレックス……私は貴方を騙したアレクが信用できるとは思えないのよ。

 それに相手が2,000レベル超でも……レベルだけ高い奴になんて……負ける気がしないわよ。

 だから……次にアレクに会うときは……私も同席させて貰うから……ねえ……解ったわよね……」


「ああ……解ったから……」


 アレックスを籠絡するなんて簡単だわ。だけどアレックスを馬鹿にして良いのは私だけだから。

 魔王アレクがアレックスを利用しようとするなら、私が絶対に許さないから。


※ ※ ※ ※


 アレックスたちと会った後も『ビステルタの霊廟』の攻略は順調に進んだ。

 むしろ、あいつらのレベルを教えたことで、みんなのやる気に火がついた感じだな。

 

 76階層から99階層までの攻略は1日1階層のペースで終わった。

 この1週間は最終の100階層でレベリングしていた。

 それも終わって、今俺たちは『ビステルタの霊廟』のラスボスの部屋の前にいる。


「みんなが強くなったことは解ってるけど。それでも苦戦するくらいに、ここのラスボスは強敵だからな」


 攻略を楽しむなら余計な情報は邪魔だ。俺だって本当はネタバレみたいなことはしたくない。

 だけど今のみんなの目的は強くなることだし。リセットもセーブポイントもないリアルエボファンの世界で、わざわざリスクを負う必要はないだろ。


 当初の目的だった100レベルは全員余裕で超えている。だけど『ビステルタの霊廟』のラスボスは本当にヤバいからな。

 だから100階層に来てから1週間、ボス部屋に行かないでレベリングしたんだよ。特に初見で戦うときは全滅する確率が跳ね上がるからな。


「……って感じで、ラスボスは攻撃して来るからさ。作戦はみんなに任せるよ」


 戦い方まで教えてしまったから、プレイヤースキルが上がらないからな。

 エリスはゲームのときに『ビステルタの霊廟』を攻略済みだって聞いてるけど、ソフィアは途中で止めたらしい。

 ライトプレイヤーだった前世のソフィアは、レベリングに興味がなかったみたいだ。


「今回は最初が肝心だけど、私とグランの役目はいつもと同じよね」


「ああ、エリス。俺とおまえで守りを固めようぜ」


「セリカとメアには扉を開ける前に、範囲防御魔法の展開して貰おうと思うんだけど」


「そうね。ダメージを考えればそうするべきだわ」


「私も異存はないわよ」


「ねえ、エリス。最初の攻撃が収まったら、私は突っ込んで良いのよね?」


「ええ。レイナには突破口を開いて貰うわよ。ソフィアもお願いね」


「うん。任せてよ。私だってレイナに負けないんだから」


「俺は2人をサポートすれば良いんだよな」


「はい、ガルドさん。お願いします」


「僕はタイミングを計って、先制攻撃の魔法を放つべきだな」


「カイ、その通りだわ」


「私とシーラは遊撃をやれば良いんだよニャ?」


「遊撃って言うより、囮って感じっすけどね」


「でも2人とも無茶はしないでね。安全第一でお願いするわ」


 エリスを中心に、みんなで意見を出し合ってる。

 ラスボス戦の知識があるからってだけじゃなくて、エリスの指示はいつも的確だからな。

 プレイヤースキルが高いし、みんなの状況を常に把握してるんだよ。


「アレク、作戦は決まったわ。聞いていたと思うけど、何か問題があったら指摘してくれないかしら」


「ああ。俺はみんなが考えた作戦で問題ないと思うよ」


 エリスに任せれば大丈夫だな。

 まあ、本当にヤバくなったら俺が手を出すけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る