第23話 階層ボス
第15階層から『バレアレスの大迷宮』の攻略を始める。
この階層だと俺は完全に見ているだけで、陣形に加わる必要はない。
だから少し離れた場所から、みんなの戦いぶりを眺めていた。
今、彼女たちが戦っているのは8体のブラックトレント。
レベルは12~14で、硬い外皮と太い枝を鞭のように振るう攻撃が特徴だ。
「ふん! 全然余裕ね」
レイナは敵の間を駆け抜けながら、左右に持つ2本の長剣で確実に仕留めていく。
『勇者』レイナはパワーとスピードを兼ね揃えたアタッカーだ。
初期ステータスがプレイヤーキャラ随一な上に、レベルアップ時に身体系能力全般がバランス良く伸びていく。
自己回復や身体強化スキルも使えるから、単独突破が可能な正に『勇者』だ。
「レイナ、気を抜くなよ。俺たちは勝って当たり前なんだからな」
ガルドは同じ二刀流だけど、パワーに特化したアタッカーだ。
普通なら両手で持つ大剣を2本同時に使いこなす。
鎧も重装甲でタンクもこなせるから、ゲームのときは良くお世話になった。
「攻撃は私が受けるから。セリカは魔法で援護を、ライラは周囲の警戒をお願い」
エリスはガルドの隣で陣形を支えながら仲間たちに指示を出す。
片手剣と盾持ちの『姫騎士』エリスはタンク寄りのオールラウンダーだ。
パワーとスピードはレイナに勝てないけど
「エリス、了解よ。『
セリカは光属性の防護魔法を発動してから、雷属性の攻撃魔法を放つ。
『聖女』セリカは万能型スペルキャスターだ。
INTとMPが高くて、『聖女』は魔法を取得するためのスキルポイントが少なくて済むから、魔法系アタッカーとヒーラーを兼任できる。
STRもチョップスティックのカイみたいに貧弱じゃないから、白いローブの下に鎧を着こんでいて防御力もそれなりだ。
「後ろのカバーは任せるニャ!」
回り込んで来た別のブラックトレントにライラがショートソードで切りつけると、ターゲットが彼女に移る。
1対1で対峙することになったが、ライラは攻撃を全て避けながら敵のHPを削っている。
つい盗賊と言ってしまうけど、ライラは盗賊の派生クラスである『暗殺者』だ。
DEXとAGIの高さに加えてSTRとVITも平均以上だから、物理系サブアタッカーとしても避けタンクとしても活躍できる。
こんな感じで、4人のメインキャラ+ガルドのパーティーは良く機能している。
一見するとレイナが勝手に動いているように見えるけど、彼女は周りが見えているから仲間から離れ過ぎたりはしないし、連携もできている。
ゲームのときはセリカが司令塔だったけど、今はエリスが指示を出している。その分セリカに余裕があるから、ゲームよりも動きが良い気がする。
レイナは好きに戦いたい性格だし、ガルドも黙ってついて来いというタイプだから、エリスがリーダーに収まるのは自然な流れだった。
「レイナとガルドの方が強いことは解っているわ。だけどその上で、私も役に立ちたいもの。セリカもライラもみんなのためにお願いね」
「勿論よ、エリス」
「そうだニャ。私だって解ってるニャ」
「私だって構わないわよ。細かいことはエリスに任せた方が楽だから」
エリスのリーダーシップが4人のメインキャラを纏めている。
キャラレベルは一番下でも、プレイヤースキルは一番上……ということよりも、何事にも真摯に向かい合うエリスの真摯な態度によるものだろうな。
危なげなくモンスターを倒しながら、俺たちは6日目に第20階層に到達した。
1日1階層のペースで攻略できたのは、レイナとガルドのレベルが高いこともあるけど、パーティーが上手く機能した上に、みんながストイックに攻略を進めたからだ。
この時点でエリスが20レベル。セリカとライラが21レベル。レイナは27レベルで、ガルドもモンスターを倒し捲ってようやく33レベルになった。
ここまで俺は戦いに一切参加せずに、戦い方や立ち回りについて気になることを指摘していた。
口だけ出す嫌な役回りだけど、みんなは意外なくらい素直に聞いてくれた。
「アレクが言うことは理に叶っているから、素直に聞くわよ」
「まあ、そうね……あんたもガルド師匠の次くらいは教え方が上手いって、認めてあげるわ」
「おい、レイナ。何でおまえは上から目線なんだよ」
彼女たちの扱いにも慣れた。
メインキャラ4人が仲良くなったみたいだから、俺の扱いはどうでも良いか。
「ここは20階層だから、次は階層ボスだな」
巨大な両開きの扉の前に、俺たちは集まっている。
『バレアレスの大迷宮』は5階層毎に階層ボスがおり、ここが20階層で一番奥の部屋だ。
15階層でも階層ボスと戦ったけど、レベル的に全然余裕だったからな。
今回もまだ余裕があるけど、前回よりも5階層分ボスのレベルか上がると、ガルドとレイナに任せればどうにでもなるというほどじゃない。
「みんな、気合を入れるニャ! 気合でどうにかなるとは思わないけどニャ」
「あのねえ、ライラ……あんたは何が言いたいのよ?」
「止めなさいよ、2人とも。今回も私が支援魔法を掛けてから突入で構わないわね」
「ええ。セリカとライラはサポートメインでお願い。レイナとガルドには毎回頑張って貰って申し訳ないけど、2人とも決して無理はしないでね」
「ふん! 20階層のボスくらい全然余裕よ」
「おい、レイナ。そこまで簡単な相手じゃないぜ。おまえだって解っているだろう?」
「そうだけど……私たち5人なら余裕よ」
レイナのツンデレで話が纏まった。
レイナとライラが左右の扉に手を掛けた状態でセリカが支援魔法を発動する。
「『
「ええ。それじゃ、始めましょう」
レイナとライラが扉を開けると、ガルドとエリスが先頭になり中に踏み込む。
広い部屋の中心にいるのは、全長5メートルの鉄の巨人。4本の腕にそれぞれ巨大な槍を構える『
「さっきも言ったけど、こいつは槍の先から火焔を出すから注意しろよ」
「解ってるわよ」
一歩遅れて飛び込んだレイナが部屋の壁際を走って回り込む。
「『
セリカが第4界層の光属性魔法で先制攻撃。
エリスとガルドが前衛、セリカとライラが後衛の4人で陣形を組んで進む。
「『
要塞ゴーレムに接敵すると、セリカが範囲防護魔法を放った。
鋼鉄の巨体にガルドが2本の大剣を叩き込む。
33レベルのガルドでも、要塞ゴーレムが相手だと少しずつHPを削っていく感じだ。
ちなみに要塞ゴーレムのレベルは35。高過ぎると思うかも知れないけど、単体で出現する階層ボスだからこんなものだ。
「セリカはみんなのHPの管理に集中して。ライラはレイナに攻撃が集中したら陽動をお願い」
エリスがタンクとして敵の攻撃を受けながら、みんなに指示を出す。
「……!」
要塞ゴーレムの背後に周り込んだレイナが、無言で炎を纏う2本の剣で切りつける。
火属性の攻撃力増加スキル『火焔剣』だ。
確かに要塞ゴーレムは強いけど、5人が上手く連携すれば倒せない敵じゃない。
今回も俺は何もしないまま、みんなは階層ボスに完勝した。
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