第247話
「ミラーリア侯爵令嬢、ドルイット侯爵令嬢、まことに見事なカーテシーを披露して頂き恐悦至極に存じます」
そう言って頭を下げれば御令嬢たちは笑顔でソファーに腰を下ろした。
後ろの従者たちはお前に言われなくともうちのお嬢様のカーテシーは素晴らしいんだと敵意を隠そうともしていないが。
胃が痛い。
ここで通信の魔道具からアルフォート様の声が聞こえてきた。
「……長谷川から連絡があった。 通信を入れて聞いておく。 このまま会話を続行してくれ、自販機の魔道具は領主案件だ。 返答は不要」
返答は不要。
ここで通信の魔道具に返答したら相手に不信感を抱かれてしまうからか。
「それでは、先ほど下の階にある魔道具を所望されておりましたがまことに申し訳ございません。 お売りすることは叶いません」
「まぁ」
断りを入れたら殺気が飛んできた。
「お嬢様の命令を聞けぬというのですか!! 平民が」
「こんなところまで足を運ばせておいて何たる仕打ち」
2人の侍女ががなり立てる。
呼んでおりませんし来てくださいともお願いしておりません。
さっさと領主へ責任転嫁しないと私がこのまま切られそうだ。
「私共はあくまで場所をお貸ししているだけでして……」
「ならば場所を貸さねば良いではないですか」
「こちらでふさわしい場所を見繕います」
御令嬢はそっちのけで侍女が前に出てきた。
私の態度がお気に召さなかったらしく大層お怒りの御様子だ。
「オーフェン、秘密裏に領主から商業ギルドに置くように指示したと伝えろ」
!!
耳元からアルフォート様の指示が聞こえてきた。
「こちらの許可は取ったんだ。 あながち違うとも言い切れまい?」
微かに笑いを拭くんだ声色に私まで表情を崩してしまいそうになる。
ぎゃんぎゃん騒ぐ侍女達に視線を向ける。
目を吊り上げて騒ぐ侍女たち。
御令嬢たちはそれを止めようともせず、断られたことを理解できていないのかミラーリア侯爵令嬢はきょとんとし、ドルイット侯爵令嬢は澄まし顔をしている。
「これは内密なのですが……あの魔道具を設置するように指示されたのは領主様なのです。 ですので私の一存ではどうすることもできないのでございます」
申し訳なさそうな顔をしそう述べる。
魔道具を望むならば商業ギルドではなく領主……アルフォート=ブリストウに許可を取れと存外に匂わせる。
「……伯爵ですね。 分かりましたわ」
ミラーリア侯爵令嬢が表情そのままにそう述べニコリとほほ笑む。
「伯爵家の方を優先させるというのですか。 こちらは侯爵家ですよ!!」
侍女はまだ納得がいかないようで憤慨している。
「私ではどうすることも出来ないのでございます」
平身低頭で言えば、これ以上言っても仕方がないと理解したようだ。
「伯爵に会いに行きましょう。 それで譲ってもらえばいいのですわ、そんなに怒らないで上げて」
ミラーリア侯爵令嬢が侍女を嗜める。
嗜めるのが遅いのではないかと思うが黙っておく。
「失礼しましたわ、では私用事を思い出しましたので……行きますよ」
上手くアルフォート様へ擦り付けられたようだ。
最後まで護衛と侍女はこちらを睨んでいたが。
家紋入りの馬車を見送るとどっと疲れが押し寄せてきたのだった。
「そちらに向かったようです」
「引き受けた」
アルフォート様にバトンタッチし、私は執務室で休憩を取ることにした。
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