第248話



アルフォートの館



「失礼します」


「どうした?」


「旦那様、ただいまミラーリア家の使者がお見えです。 なんでもミラーリア家の御令嬢、シャーロット様、ドルイット家の御令嬢、エレノア様がこちらの向かっているそうです。 先ぶれが参りました」


「御令嬢方が? またなぜ……それで到着する日付はいつだというんだ?」


「それが……間もなくこちらに到着すると……」


「間もなく? こちらに断りもなしに来たというのか?」


「はい」


驚いた風を装いつつオーフェンとの通信を思い出す。

先ほどまで街の商業ギルドに居たんだ。

そこからここまでは馬車で来ればそれほど時間はかからない。

普通に常識があればこんな突然、相手の都合を無視し礼儀もわきまえない突発的な訪問はしない。

手紙のやりとりをし、双方の都合を付けるなど段取りを経るのが通常だ。


両侯爵家は令嬢にどんな教育をしているんだと内心ため息を吐いた。


「……来る者はしょうがない、オリヴィアを呼んでくれ。 料理長には客人が来るからもてなしの準備をと伝えてくれ」


「かしこまりました」


執事が恭しく頷き、言われたとおりに動くべく部屋を後にした。


「……ドルイット侯爵家令嬢エレノア? まだ社交界デビューもまだのはず……侯爵は居場所を存じているのか?」


何故そのような女児が片道1週間以上あるここに居るのか。

念のため通信の魔道具でドルイット侯爵に連絡を入れることにした。


「……出ないか? ならば仕方がない」


この通信の魔道具には通知機能を付けたされた。

私からの連絡があったことはあちらにも知れるはず。


後で連絡が来るだろうと一旦エレノア嬢の件は保留にすることにした。


「お呼びでしょうか?」


「来たかオリヴィア、すまないが今からミラーリア家の御令嬢とドルイット家の御令嬢がこちらへお見えになるそうだ。 アネットと一緒に来客の対応を頼む」


「今から……でしょうか?」


私の話を聞いたオリヴィアも目を丸くする。

そうだろう、こんな非常識な訪問は無いからな。


「あぁ、今から、というか間もなくこちらに到着するそうだ」


軽くため息を吐きながらそう言えばオリヴィアも苦笑した。


「かしこまりました、アネットにも支度させますわ」


「頼んだ」


言葉少なくそう告げオリヴィアも準備のため部屋を後にした。

そうすると今度は通信の魔道具に連絡があった。


「はい」


『アルかい? 君からの連絡なんて珍しいね、こちらは今それどころではないのだけれどどうしたんだい? 出来れば手短に願うよ』


いつもは飄々とした様子なのに、今は珍しく慌てた様子の声色だ。


これは……と思い事実だけを端的に述べる。


「こちらの屋敷に今からお宅の御令嬢とミラーリア家の御令嬢が来るのだが……」


『エレノアがそっちに居るのかい?!』


「今はまだ来ていない、先ぶれが来てこちらの屋敷に向かっているそうだ」


『分かった、今からそっちに向かうよ。 緊急だから転移門「許可しない」』


『なんで?! あぁそうか訪問予定もない私がそちらに居たら不審か。 ならグリフォンで向かうよ』

グリフォンか……それならまだ不審ではないか?


「それならいいか。 にしてもエレノア嬢はいつから居なかったんだ?」


『数日前から居なくなってて屋敷で大騒ぎだよ。 誘拐されたにしても連絡もないし、魔道具だらけのこの屋敷からどうやって抜け出したのかもわからないし、まるで神隠しさ……良かった。 居場所が分かっただけでも安心した……』


「貸しだな」


『あぁ、本当にありがとう、では今からそちらに行くからまた後で』


そう言って通信の魔道具は切られた。


なんだか知らんが侯爵家に貸しが作れた。

突発的な訪問には困惑したが結果オーライというやつか?

いや、まだここの屋敷に到着すらしていないんだ。 

常識のないやつは何をしでかすか分からん。

廃村グループで理解していたろ、騙されてはならん。


改めて気を引き締めることにした。

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