第236話



時間になり、廃村の転移門が光った。



この場には私と長谷川さんが頭を下げて待機している。


相良さん達には事情を説明しているのでもうすでに相良さん達が決めた宿泊施設に移動している。


この廃村には私と長谷川さんしかいない。


「こちらが廃村になります」


「王妃様、足元にご注意くださいませ」


まずは聞きなれたアルフォート様とオリヴィア様の声が聞こえる。


「ここが廃村かぁ」


「オリヴィア、ありがとう。 ……一瞬で移動できるのですね」


続いてあの時聞いた陛下の声と聴きなれない女性の声が。

王妃様か。


「これは便利だな」


「そうですね」


……!!??


ちょっと待て。


聞いていた話と違う!!


この声はベルゲマン公爵の声だよね!!

そしてサフィリア様の声も聞こえたんだけど?!


話が違うと、頭を下げたまま目だけで長谷川さんを見る。

長谷川さんも聞いていなかったらしく小刻みに頭を振る。


今日の宿4部屋しかないんだけど?!


どうする? どうしよう。

食事は何とかなるけど部屋はどうしようもないよ?!

増やす? 今から一棟貸しじゃなくて旅館にする? 選んでもらう? どうしよう!!


頭の中でぐるぐる考えをめぐらす。


流石に女性陣を一緒の部屋!! とか班分けしたら不敬だよね。


どうしよう!!



「あなたが橋沼桜さんですか?」


頭の中の混乱が収束しきる前に王妃様に話しかけられてしまった。


「はい、私が橋沼桜でございます」


「今日は無理を言ってしまい申し訳ありません。 承知して頂き感謝いたします」


「勿体なきお言葉です」


……どうしよう!!!!


「……どうしましたか? 桜さん」


「はいっ!!」


サフィリア様に不意に声を掛けられ声が裏返ってしまった。


「……気を楽にしてください、先ずは顔を御上げなさい、……体調でも悪いのですか?」


顔を上げよと言われ顔を上げたら心配されました。

そしてみんなの注目を浴びてしまった。


ひぃぃぃぃ……。


「申し訳ありません、私が橋沼桜に人数変更を伝え忘れていたため、宿泊場所がまだ未定となっております」


長谷川さんが私の替わりに代弁してくれた。

それを聞いた人々の反応は……、


「……まぁ」


「ふむ」


「あぁ……」


「そうですの?」


王妃様とサフィリア様が目を丸くされ、陛下とベルゲマン公爵が顔を逸らした。

アルフォート様はすまんと顔に書いてあり、オリヴィア様はどういうことですの? と言った感じでアルフォート様を見ている。


「私が連絡するのが遅れてしまったんだ。 気にするな」


「転移門に年甲斐にもなく浮かれてしまったな」


「気にするなではありませんよ」


「急にサプライズと言い出した時は驚きましたが……まさかとは思いますがこちらにもサプライズしてたのですか?」


王妃様とサフィリア様が二人に詰め寄る。


「桜さん、本来であればどこに行こうとしていたのですか?」


陛下と王妃様、ベルゲマン公爵とサフィリア様が揉めそうな感じになって来たのをオリヴィア様が話題を逸らす。


私も険悪な空気は勘弁してほしいのでそれに乗る。


「はい、王妃様にまずは慣れて頂こうと思いまして、一棟貸しの宿に赴こうかと考えておりました」


「私が最初に案内してもらったように、ですね。 あれは助かりました」


「はい、前回のようにサフィリア様の侍女のように渡り人が付かない予定でしたので説明が必要かと思いまして……」


「それでは何が問題なのですか?」


「はい、宿泊部屋が……個室が4部屋しかありません。 食事はどうとでもなるのですが、部屋割りに困っております」


……最悪私が長谷川さんと一緒に和室で寝れば3部屋は個室確保できる。

もうそれでいいかな……。


「まずはその宿に行ってみましょう、部屋がそれだけあるのでしたらどうとでもなります。 宜しいですね、陛下、旦那様」


サフィリア様の鶴の一声で行くことが決定した。


「では桜、頼んだ」


「かしこまりました」



そう言って、オリヴィア様を最初に案内した一棟貸しの宿に皆を案内した。

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