第一二八話 評議会(カウンシル)
「ふむ……立川 藤乃という女剣士が現れたのか……」
「そうです、どうも
私は今自室にて、KoRJのオンライン会議に出席している、もちろん家の人にはバレないようにこの部屋自体には防音の細工が仕掛けられており、私自身も小型のイヤホンを使って話を聞いている。
スマホやタブレットだけで事足りるケースも多いが、私は持ち運びも可能な一三インチのノートパソコンを自室に置いている。まあ、KoRJへの報告書を書くのにキーボードがあった方が楽だからな。
八王子さんが手元の資料を見ながら苦々しい顔で口を開く。
「人間の協力者か……
「あー、それでいうと
立川さんは確かに斬撃などは鋭かったが、その端々に微妙な躊躇いというか、別に人を殺したくてやってるわけではないという感情が滲み出ていた。
青山さんが手元の端末を操作しながら、立川 藤乃のデータを調査していく。
「立川 藤乃……一八歳、都内にあるアルカディア国際女子学園高校の生徒ですね」
画面に立川さんのデータが表示される……彼女の通っている通称『アル女』といえば結構な進学校で、お嬢様が多く通う女子高校だ。制服がとても可愛いので青葉根にいくかアル女に進学するかで迷って……ミカちゃんがアル女の学費に難色を示したため青葉根に進学した経緯がある。
正直に言えば……親からはアル女に行ってほしいとは言われたんだよね。理由は明白で青葉根も偏差値が高かったけど……男女共学だったから。
親からしたら変な虫がつく可能性がある共学よりも、女子校に行ってほしいって気持ちもあったんだろうけど。
「アル女かあ……羨ましいなあ……」
「結構有名よね、東京はこんなに可愛い制服があるんだってびっくりしたものよ」
ヒナさんは手元に置いていたらしいスイーツを口に運んでいる……あ、会議中でもスイーツ食べていいのかしら。紅茶だけは用意してたけどお菓子はリビングまで降りないとないんだよなあ。
キョロキョロしている私を見かねたのか、八王子さんが咳払いをしたことで……あ、やっぱり会議中に食べるのはダメか。
「墨田君、大阪支部の方はどうかね?」
「ああ、こっちも
久々に声を聞いた気がするが悠人さんが少し疲れ気味の顔でモニターに写っている。残業が多いと言うのも頷ける……モニター越しでも彼の疲労はかなり濃く出ており肌が荒れ気味な気がする。
大阪支部……関西方面の
戦闘員として登録されている人は数人いるのだけど、悠人さんほどの戦闘能力がある人間がいないわけではないはずだけど。
「みんな個人主義だし、特に一人はいうこと聞かねえからなあ……そうだ、
大阪には出張中の悠人さんだけでなく、戦闘可能な人員が三名いる……直接会ったことはないが、社会人というか、KoRJの職員が二名、私と同じ女子高生が一名だそうだ。
その女子高生が……四條さんで、彼女は東京へ行きたがっていると悠人さんは説明を続けている。
「……あいつ一度言い出すと聞かないからなあ……近いうちに異動届けが出ると思うぞ。そうしたらこっちに短期でいいから一人寄越して欲しいんだ。俺と高槻、此花だけじゃきついんだ」
「八王子さん、僕は短期でなら出張できますよ。学校の先生には話を通してほしいですが……」
先輩が心配そうな顔で八王子さんに話しかけている……先輩は最近ちょっと前なら無理かも、と断っていた任務も積極的に出るようになっている。その結果結構怪我をすることも多くなっているそうで、私としては少し心配なのだ。
でもメッセージや電話をかけるかどうかを悩んでしまっている自分がいる……声をかけたいけど……距離を取りたいと言ってきたのは彼自身なので、その意志を無碍にするのはなあ、と思っているけど。
でも、危険な場所に一人で行って欲しくない……怪我したって聞かされて心配になってしまう時間が増えるのは辛いからだ。
「そうだな……四條君の移動は受理するとして……交換に青梅君に出張をお願いしようか」
「東京より北は僕と灯ちゃんとリヒター……そして出張の子で守る感じかな? これまで以上に距離が近くなってしまうねえ」
エツィオさんがニコニコ笑いながら発した言葉で、悠人さんと先輩の表情が固まる……よ、余計なことを……私は少しだけ頭痛を感じて頭を抱える。
彼のそう言う言葉の使い方が、余計な軋轢を生んでいるのに……私はあえて笑顔で口を開く。
「べ、別に近くならないですよ? 何言ってるんですか?」
「そうかい? これまでで僕らの距離も結構近くなったと思うんだけどねえ」
エツィオさんは悪びれる様子もなく……やはり笑顔で話す……その笑顔を見たのか悠人さんと先輩が完全に敵を見るような目でエツィオさんを睨みつけるような表情をしている。
うう……なんかヒナさんは面白いもん見たなーと言う顔をしているし……八王子さんは止める気もなさそうだし……。
「灯ちゃん? 俺という男がいるのにこんな軽薄そうな男を……」
「悠人さん……鏡見たことあります?」
軽薄そう、と言う意味では悠人さんもあまり変わらない気がするけど……実際にはエツィオさんは中身女性だからな。わざわざそうやって牽制するような言い方をしたのは何か意味があるのだろうか。
とはいえ……ここ悠人さんが残業続きだ、と話している通り日本全国で奇妙な事件が頻発しているのは確かだ。ニュースサイトでも
「この間珍しいのを見たぜ、車を猛スピードで追いかけてくる変なねーちゃんでさ……」
「なんですかそれ……」
ここ最近の
「攻撃はしてこないんだ、ただ車を追いかけて追いつくとそれ以上は何もせずに離脱する。おそらく追跡をすること自体が目的なのかもな」
「戦闘が目的ではない、と言う感じですかね?」
ちょっと前までは殺人や負傷者も多かったのだけど、単純に驚かされたり誘拐されただけなどの事件も増加傾向だ。単純に戦闘が行われない事件なども起きているとニュースサイトの記事では書かれていたな。
まあ人が死なない事件が増えたことは別に悪いことではないかもしれない……人が死ぬと言うのを見るのは私としても辛いからな……できれば見たくない。
「正直言えばアンブロシオの目的がよくわからないよね……」
先輩が不安そうな顔で呟くのを見て、私も頷く……彼の目的が本当にわからない。そして一番不安なのが、彼の表情は慈愛に満ちていたことだ。
「あの人は本当に魔王なんですかね……私は彼が魔王にはとても……」
「それは違う、彼は正真正銘……この世界を侵略する悪の首魁、本物の魔王だ」
私の言葉を遮るようにそれまで黙っていたリヒターが口を開く。彼は赤い目を輝かせて……モニター越しに私をみている。
それはまるで私を叱りつけるような視線で……思わず目を逸らしてしまう。相手をそのように考えるな、という無言の忠告すら含んだものだったからだ。
『……彼のいうことは正しい。お前がその気持ちなら相手を倒すことなどできないぞ』
ため息をついて、私は再び顔を上げてモニターを見つめる。その様子を見てリヒターが少しだけ頷くと、彼は口を開いた。
「八王子、私も大阪へと出張しよう。その女性が出張してくるのであれば、東京より大阪の人数を増やさないといけないだろう」
「……承知した。手続きは進めよう」
八王子さんが頷くと、リヒターは満足そうな顔でカタカタ動いている。相変わらず表情から考えが読みにくいが。それでもまあKoRJのために動こうという彼の意志は感じる。
八王子さんが手元の端末を操作しながら、モニターに人員の異動を表示していく。
東京が私、エツィオさん、四條さん、予備人員としてヒナさん。大阪に悠人さん、リヒター、そのほかの大阪メンバー、と記載されていく。
八王子さんが操作を完了させると、会議の終了を宣言する。
「これで大体は揃ったか……では異動や調整完了後に辞令をメールにて送信する、確認をしてくれ。会議は以上だ」
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