父の言葉を思い出す大掃除

シヨゥ

第1話

 大晦日。我が家では大掃除をするのが年中行事となっていた。

 午前中はリビングなど全員で使用する1階部分を、午後からは各自の部屋をといった感じで毎年行っている。今日も午前中は家族総出で1階を片付けた。

 そして昼休憩を挟み午後の部である。


 1年もあれば物が増え、いつのまにか部屋がごちゃついている。物が増えているというのに物が出ていかないのだから当然の結果ではある。

 1年前あれだけ大事に使っていたものがもう使わなくなって価値を失っている。思い入れがあるだけに捨てにくいが、何も考えずにゴミ袋に放り込む。

 『なくすことでスペースが生まれ、また新しいものを詰め込める。それが良い変化になる。』とは親父の言葉だ。

 そんなこんなでゴミ袋にとにかく投げ入れていく。投げ入れたが最期、取り出すことはしない。

 『振り返らないこと。今を見て生きること。起こっていないことを見ようとしないこと』、これもまた親父の言葉だ。


 袋が満タンになったので外に持っていこうとすると階段脇に紐でまとめられた本が積まれていた。『頼んだ』と付箋がついている。姉のものだろう。

 背表紙を見るとどれもこれもダイエット関連のものらしい。ちょっと衝撃だ。思い返してみてもやせたと思ったことが一度もない。全敗なのだろうか。

 『どの方法も正しくて、どの方法も間違っている。自分には自分の正解がある』そんな親父の言葉を思い出した。姉もその言葉を胸にいろいろ試したんだろう。背表紙を見るに全部方法論が違っていた。


 やっとのことで大掃除を終え今年もクライマックスとなる。きれいになったというよりはガランとした部屋はちょっと寒い。来年はなにをしようか。大晦日の内に目標でも考えようかと思ったが疲れが心地よくて頭が回らない。明日で良いか。そう思った途端に母がそばが茹で上がったとメッセージを送ってくる。

 来年のことは来年に。今年をこうやってうまく締められたのだ。それをまずは祝おうじゃないか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

父の言葉を思い出す大掃除 シヨゥ @Shiyoxu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る