第42話 陰気ちゃん⑪

今の私は17歳だ。


一般的に言うとこれからどうするかを考えなくてはいけない年齢だ。


本当は15歳の時に母親から一緒に働かないかと打診はあった。


ただどうしても怖い思いをした自分が居て、今のままの生活で生きていける訳が無いのに4年間の生活形態を変える事にどうしても踏ん切りがつかなかった。


このままずっと辛い事が無い部屋にずっと閉じ籠っていたい。


此処は新しい出会いは無いが、辛い事も無い自分だけの空間なのだ。


まして私の最終学歴は小卒なのだ。まともに働けるとも思っていない。


外には一定数の馬鹿が居る。


此処で言う馬鹿とは他人の立場でモノを考えられない、傷つける必要が無いのに傷つける人間だ。


私は一体どうしたいのか。何故生きているのか。


明日は、明日は何か変わるかもしれない。


何か急に私に才能が目覚めてそれで沢山お金を稼いで、母の仕事時間が減って、母が自分自身にお金を使う事も出来て、、、


そんなのは全部妄想だ。


自分自身が変わらないと何も変わらない。明日は来ない。


永遠に今を繰り返す。


後悔するのもいつも自分を顧みるのではなく他人を非難する。


あいつらさえ居なかったら私の人生は上手くいっていた。


父が働く姿を見せてくれたら、母が私を助けてくれたら、私への虐めを止めてくれたら、お金さえもっとあって家庭教師を雇えたら、習い事で才能が目覚めたら、インターネットで誰かが助けてくれたら、、、


自分のせいには出来なかった。


それをすると私自身行くとこまで行ってしまう。片隅によぎる”死”の一文字。


自分は障害があるから、辛い過去があるから、でも


もっと学校で皆と話してみたかった。虐められても強く言い返したかった。人から好かれる自分になりたかった。何十年も笑い合える親友が欲しかった。勉強して羨ましがられたかった。誰かと心が満足するSEXをしてみたかった。母が私の為に自分を犠牲にならないで欲しかった。


何だろう今日はやけに歯止めが効かない。


夜、寝る前に時折ふがいない自分に、涙が急に流れて来る時はある。


こんな生活を続ければ続ける程人間は死んでいく。分かっちゃいるが止められない。


どうすればいいのか分からない。


自分の成功体験が無い。積み上げた物にも頼れない。誰からも好かれない。


誰か私を好きになって。私の事を生きてもいいと背中を押して。こんな世界から私を連れ出して。


こんな自分が大嫌いだ。弱い自分も変われない自分も。


世の中には本当に駄目な人間も居るのだ。何をやっても生きているだけで迷惑を掛ける人間が。




「○○ちゃん。これから先の事なんだけど」


聞きたくない。自分の部屋に逃げ出そうとする。


「待って。お願いだから聞いて!」


そんな風に言われたら逃げ出せない。聞きたくない。現実を突き付けられたくない。


「〇〇ちゃんがいつか自分から働くって言ってくれるのをずっと待っていたの」


ああ。


「でもこのまま○○ちゃんは多分、自分でどうしたら良いのか分からないと思うの」


嫌だ。止めてお母さん。


「分かるのよ。〇〇さんも、あなたのお父さんもそうだったから」


アイツと一緒にしないでくれ。アイツは我が子を襲う人でなしだ。


「最近〇〇さんが帰ってこないのよ」


言われて気が付いた。引き籠っていると周りの事は鈍感になっていくのだ。


確かに最近父は見ていない。


「あの人は弱い人だから、そして私も、、、共依存だと言われたわ。私達はお互いを必要とし過ぎているの」


あんな父でも母が愛しているのは知っていた。だからレイプされ続けた事は言えなかった。


「あの人は自分を少しでも認めてくれる人に付いて行ってしまうの。昔からそうだった。でもあなたが生まれた事でそれが収まってはいた」


殆ど家にいるだけの置物だったが。人の事は言えないが


「こんな事を言うのは、、、本当にごめんなさいなんだけど、父の望む事をしてあげて欲しい」


「はぁっ!?」思わず声に出ていた。


「貴方が〇〇さんの寵愛を受けていた事は知っていた。あの人はお気に入りの首筋に痕を付けるから」


「全部、全部知っていて知らない振りをしたの?」


初めてだった。怒りで身体の制御が利かない。


「それでもあの人が此処に居てくれるなら私は」


「質問に答えて!私があいつにずっとレイプされてるのを知りながら私を、獣を飼い殺す為に餌にしていたの?」


沈黙が痛い。2分程して母が私の顔を見ずに


「その通りよ」


私が間違っていた。父だけがクズだと思っていた。コイツもクズだった。私の大好きなお母さんは居なかった。


お母さんなんて居なかった。


「・・・」


何か言おうとしたが、母との思い出が頭によぎり言葉が出ない。こども園で手を繋いで笑って帰った事が頭から消えてくれない。


「私は、私にはあの人が必要なの。あの人だけが私のそばに居てくれたから、だからお願い〇〇ちゃん。働かなくてもいい、あの人が此処に留まってくれるようにしてくれたら私はそれ以上を望まない。これまで通りに生きてくれて構わない」


私は・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る