第19話 気楽ちゃん
私は知りました
人の美しさを
私は見ました
人が人を苦しめるのを
私は味わいました
生きてくことの辛さと幸せを
私は聞きました
助けを求める叫びを
私は喜びました
拙いながらも助ける人を
私は憎みました
人の醜さを
私は泣きました
私の為に泣いてくれる優しさを感じたことを
私は哀しみました
人と人が争う虚しさを
私は笑いました
腹も抱えられないほど素敵なことを
私は感じました
世の中から争いがなくならないことを
私は楽しみました
好奇心のままに考えられることを
私は思いました
自分の人生の本当の意味を
私は闘いました
世の中の不平等とそれから逃げる自分を諦めたくないことを
私は触れました
深い深いお互いの心の傷を
私は嗅ぎました
大好きな故郷の匂いを
私は怒りました
自分で命を絶つ軟弱さを
私は尊びました
誰よりも強く脆い心を
私は逃げました
どうにもならないことを
私は許しました
貴方なりの決断だったことを
私は悟りました
死は悲しみではないことを
私は数えました
あと何回ありがとうと言えるかを
私は死にました
そして新しい命が始まることを
<主人公視点>
笑顔を常に絶やさずにいるのは、笑顔に絶望したか、笑顔に救われた人間のどちらかである。
つまり笑顔を使い裏切る人間か、笑顔を信仰している人間である。
目の前に居る人間がどちらに値するのか分からないが、一つだけ分かっているのは、私が此処に最後に入った時に、スマートフォンを落としながら、私の登場を心底、驚いている顔が印象的だった。
どんな過去があるか分からないが、不運な男よりは吹っ切れている様にも感じられる。多分、期待する事も出来ない人生だったのかもしれない。
ここに居る人間の中では違和感が一番強いかもしれない。
驚いている人はもう一人居た。
先程から一言も話さないし、感情を出さない女が居た。
首筋のチョーカーや手首のリストバンドが服装に全くマッチしていない。また帽子を深く被っていて全く表情が分からない。
多分自殺痕なのだろう。それを見せない為に、若しくは人に見られる事を極端に嫌う人間なのだろう。
帽子女はそこに居るのか居ないのか分からない程に生きている気配が無い。
まるでそうしなければ、生きていけなかったように。
それにしても私は何故あんなに事を言いだしたのか?
友達・・・先生が私に話していた少年があの子に重なって見えた。
望まずとも催眠に近い形になっている。不運な青年は、奇跡を目撃し、私を神様でも見るような目で見ている。
「ウチが小さい頃に路上でずっと動かない雛を見ている子が居たの。でもそれは君かは分からない。だから私の話を聞いて君が判断してほしい。ウチも今から自分の事を話すからさ」
ウチの話を聞いてほしい。そんな事が言えるのは初めてだった。
いつも向けられるのは同情と憐みを恣にしていた。
自分の話をちゃんと伝えられるだろうか?やっぱりやめた方がいいのだろうか。そんな気持ちは常にある。
話を始めない自分に疑念を抱いているだろう。
ふと周りを見る。志願者の目を見ると、分かってしまう。ここに居る人は自分を傷つける人間ではないのだと。
自殺志願者は基本的に優し過ぎるのだ。どれだけそれで嫌な目に遭っても、自分が人を傷つける事をしたくは無いのだと常に考えている。
金髪の鋭い眼光から(大丈夫か?)と優しい光が零れる。言葉は発していない。
私は強く眼差しを返す。(大丈夫)助けて欲しい時は求めるから、それまでは大丈夫。
何度も言われた。
優しいだけなら利用されて終わりだと。実際その通りだと私も思う。
でもそんな人間の方が私は好きだった。
非効率でも、矛盾を抱えても生きている人が愛おしい。
ここに来るのも私は一人では来れなかった。
私は一人ではほとんど歩けないし気分が良い時でないと考える事も出来ない。
ただし世の中にはどうしようもならない事は沢山ある。
仕方ないと諦めるしかない現実に本当に嫌気がさす。でも違う人間も居た。
これはそんな変わり者のお話。
「ウチの余命はあと2か月しかないです」
満面の笑顔を見せると周りは目を伏せる。
暗くて冷たい死神との戦争の歴史が語られる。
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