第15話 体内魔力
怒れるルナちゃんを鎮めるのには大変苦労した。
後で食べようと持って来た、帝都の超有名店スイーツを献上させられ、その上「ルナのおっぱい大きい」と事実に即さないセリフを五十回も連呼させられる羽目に……。
言霊というのは有名だが、僕がいくら言ってもルナちゃんの胸は大きくならないと思うよ?
「ふぅ、流石は有名店。なかなかの美味!」
「ちくしょう、早朝から二時間も並んで買ったのに……!」
「さて、それじゃあ授業を再開してちょうだい先生。あたしはSクラスの主席を目指さなくちゃいけないんだから!」
どうやら甘い物を食べて元気が出たらしい。
先程よりもやる気を漲らせ、ルナちゃんは授業の続きを促してくる。
まぁやる気が出たのなら、スイーツをあげた甲斐があったかな。
「筋肉量が減り、体脂肪率が増えたことでルナの体内魔力が向上したのは理解したね?」
「体脂肪率が増えたって、もう少し言葉のチョイスを考えて欲しいんだけど……」
「まぁそこは良いじゃん。ルナの大願である巨乳化が実現しても体脂肪率は増えるんだし、プラスに考えていこうよ」
「でも実際には巨乳どころか、バストサイズが一センチ縮んでるんでしょ……?」
ルナちゃんは、目に見えて分かるくらいずぅーんと落ち込む。
あぁ、せっかくさっきまでやる気満々だったのに……。
「人は配られたカードで生きていくしかないように、ルナちゃんも自身の貧乳で生きていくしか道はないんだ。だからそう落ち込まないで」
「あ、あたしはまだ成長する見込みあるもん! まだ十五だもん!」
まだ十五と言うべきか、もう十五と言うべきか。
成長の見込みは確かに持てるが、大きな成長は見込めない。そんな年齢だ。
当然、ここから奇跡の大逆転という目もあるにはある。でもその可能性は非常に低いと言わざるを得ないだろう。
「ルナ、確かに巨乳は大変魅力的だけど、かと言って貧乳が魅力的じゃないかと言われればそうじゃない。どちらも魅力溢れるモノなんだ。だからもっと貧乳に自信を持って!」
「あたしが生涯貧乳であることを前提に慰めるのはやめてくれる!? あたしまだ巨乳になるのを諦めてないからッ!!」
そうだね、人は夢を追う生き物だ。
たとえ不可能であると、困難であると知っていても、一パーセントでもその可能性があるならそこに縋らずにはいられない。
よし、僕も先生としてルナちゃんの夢を応援しようじゃないか。
「ルナ。頑張れよ……!」
「あたしの胸を見てルナって言わないで! 顔を見て言いなさい顔を!!」
とまぁ、雑談はこのくらいにしておこう。
ルナちゃんは学校を休んでここに来ているのだ。出来るだけ多くの事を教えてあげたい。
ということで、僕はコホンと咳払いをして話を切り替える。
「それじゃあ授業を再開しようか。次は体内魔力の回復スピードの話だ。これも個人差がある話だけど、工夫次第でどうとでも出来る」
「これもあたしへした指示に答えが含まれてるって訳?」
「勘が良いね。その通りだ」
僕がルナちゃんに出した指示は四つ。
髪を伸ばし黒く染める事。筋トレの禁止。毎日五キロのジョギング。そしてスカートを履くことだ。
筋トレの禁止は、体内魔力を向上させるための指示であったから、正解はそれ以外の三つのどれか。
「一番それっぽいのは、ジョギングかな? でも先生ってひねくれてそうだし、スカートが正解かも……」
「ひねくれてはないから!」
僕ほど真っ直ぐに、そして紳士的に育った帝国人はいないよ?
「うーーん、分かんない! 答えを教えて!」
「正解は、髪を伸ばす事と、スカートを履くことの二つだ。ジョギングは筋肉を落とすためと脂肪を付けすぎないための指示だよ」
「ええ……? その二つはバリバリの私欲で言ってるかと思ってた……」
まぁ私欲も結構入ってるけどね。
僕はかなり黒髪ロングが好きだし、かなりスカートが好きだ。
これこそまさに、趣味と実益を兼ねるという奴である。
「一つずつ説明していこう。まず髪を伸ばす事。これは、身体の表面積を増やすことが体内魔力の回復スピードの向上に直結するからだ」
「まーた、本来あたしが知っちゃいけない知識でしょ。あたし、どんどん普通の女の子からかけ離れていっちゃうなぁ」
それは仕方ない。
恨むなら僕に家庭教師の話を持って来た母親を恨むんだね。
「人は大気に漂う魔力を肌から直接吸収して体内魔力とするんだ。しかし、実は肌以外にも魔力を吸収する特性を持っている部位がある。それが――」
「髪の毛ってわけね」
「その通り。髪の毛は長ければ長い程、大気と触れ合う表面積が大きくなり、その分体内魔力の回復スピードが増す。だからルナ。何度も言うようだけど、しばらく髪切ったらダメだよ?」
やっぱり美少女には、ロングヘアが一番よく似合うからね。
ロングヘアであるというだけで、僕の中での美少女度が九十点は加点される。ちなみに百点満点だ。
「なるほど。という事は、あたしを黒髪にさせたのにも何か理由が?」
「いや、それは完全に僕の趣味。魔法を使う上でのメリットは特に無い」
「教え子の髪色を百パーセント趣味で変えさせる家庭教師ってどうなの!?」
その方が僕のやる気が何倍にも跳ね上がるのだ。
今も目の前で騒ぐルナちゃんは、黒髪がよく似合っていてとても可愛らしい。あとはロングヘアになって、僕にパンツを見せてくれるようになれば完璧である。
「二つ目のスカートを履く事。これは肌を実際に大気に触れさせた方が、体内魔力の回復スピードが向上するからだ」
「…………全裸で戦えって言うの?」
「理想を言えばね。でも普通そんな人はいない。僕だってルナちゃんの裸を他の人には見せたくないからそんな方法は取らせない」
「いや先生にも見せないからね!?」
ちっ、まだそこまで好感度を稼げていなかったか。
まぁいい。
全裸は防御力の面でも、羞恥心の面でもあり得ない。
ではどうするべきか。
それは――――
「ローブだ。古来より魔法使いはローブを着て戦うのが正装とされている。特に身体のサイズに合わないぶかぶかのローブを着るのがベストだね。そうすることで他人に肌を見せず、それでいてローブの下では肌が大気と触れ合っているという状況を作り出せる」
魔法の知識を上級貴族に独占されている現代においても、魔法使いはローブを着る。
それはこうした理屈に裏打ちされた立派な理由があるから、
「え? てことは、魔法使いのローブの下って全裸なの?」
気付いてしまったか。
そう、肌を大気と触れさせるという条件がある以上、魔法使いがベストコンディションで戦うにはローブの下になにも着てはいけないのだ。ズボンはおろか、パンツやブラジャーまで。
それらを身に着けていると、僅かにだが体内魔力の回復スピードが落ちる。
「まぁ流石にこの知識を持っている人でも、パンツくらいは履いてるけどね」
「そんな……。これまで憧れてた過去の偉大なる魔法使い達も、あのローブの下はすっぽんぽんだったって言うの……?」
だろうね。
歴史に名を残すような偉人達は、十中八九これらの知識を有している。ならばローブの下にズボンやももひきを着用するなんて真似はまずしなかったはずだ。
僕は衝撃の事実を知りショックを受けている様子のルナちゃんに、さらに追い打ちをかける。
「ちなみに、歴史上における偉大なる、魔法使い達は――露出癖のある人が多かったらしいよ?」
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