異世界の惑星にて -Living in the planet of the other world-

TOKU MATSU

帝国編

第1話 ファイター発艦

そこは格納庫と呼ぶにはやや狭い場所だった。


紺碧に塗られた機体が一機、キーンと言う金属音を鳴らしながら待機している。

天井の照明が若干眩しく感じる。

機首はやや尖る程度で細長い。

見ようによっては先端は鮫の鼻先に似ていて、やや丸みを帯びていた。

それでも精悍な顔立ちで、機体は空気を切り裂き、大空を従える覇者の印象を見る者に与えた。

コクピットを覆うキャノーピーは角ばった形状で、そこから後ろ側、少し下がったところに小さめの四角い吸気口がついている。

吸気口の上には細長い主翼の突出部があり、そこからやや後側から主翼のデルタ翼が横に広がっていた。

デルタ翼の内側の前縁と後縁には、その機体の機動能力を劇的に高める為の小型サブエンジンの四角い穴が多数空いている。

尾部は水平尾翼と二枚の垂直尾翼があり、垂直尾翼の間には、やや小さめの四角い排気口が付いていた。


機体の前方では黄色のベストを着たクルーが両手を頭上に掲げ、機体に向かって小刻みに交差するように手を動かしていた。

紺碧の機体は一瞬高い金属音を鳴らすと、そのクルーの動きに呼応するかの様にゆっくりと前へ進んだ。

機体が決められた位置まで移動すると、クルーは掲げた両手を頭上で交叉させた。

機体が一瞬つんのめるように機首を沈め停止する。


機体が止まると、緑色のベストを着たデッキクルーが手にリモコンを持ち機体を見上げた。

リモコンは手に馴染むようにグリップ型になっていて、それぞれの指の位置にスイッチがつき、黒くて太い線が垂れていた。

緑色のクルーがリモコンのスイッチを押した。

すると天井からクレーンのようなフックが2本降りて来た。

それぞれのフックには、緑色のベストを着た別のクルーが摑まるようにしてぶら下がっている。

フック自体は太い金属の円柱に固定されており、それぞれ機体の中央と後部の二枚の垂直尾翼の間に降りた。

ぶら下がっていたクルーの二人は、フックを機体についている金具に引っ掛け固定した。

二人はフックの固定を確認すると、金属の円柱に取り付けられた小さなラダーを伝って大急ぎで天井方向へ退避した。


機体の前方にいた黄色のベストを着たクルーは、機体の右方向へ移動し、床からワイヤーを引っ張り出し、自分の腰に付けているカラビナへ引っ掛けた。

緑色のクルーも同じように腰にワイヤーを付けると、片手に持ったリモコンのスイッチを押す。

すると、天井から幅が10mぐらいある大きな金属板が機体の後方を隠すように下がり、そして先程機体に固定したフックが上昇し機体を吊り上げた。


黄色のベストを着たクルーが、腰の位置まで手を下げコクピットを見た。

パイロットと目が合うと、掌を上に返し、持ち上げるような仕草を繰り返す。

ランディングギアがゆっくりと上がり、機体に収納された。

ギアが収納されたのを見届けた黄色のクルーは、周りから上へと順番に指を差し始めた。

指を差されたそれぞれのクルー、赤色のベストや緑色のベストを着たクルーは親指を立て、問題がない事をアピールする。


確認が終わると黄色のクルーは緑色のクルーに体を向け、床を指差し次いで掌を下側に向け、体の両側へ押し広げる様な仕草を繰り返した。

すると床が観音開きのように割れ、轟音と共に冷たい風が吹き込んで来た。

開いた床からは、流れる雲と地表が見える。


黄色のクルーは床が完全に開いたのを確認すると、片手を肩の高さに上げてグルグルと回しだした。

「キィーーーーーーン」という金属音が大きくなり、機体の後部と翼の後縁の排気口から青白い炎を伴った排気が吹き出し、やがて「ゴォーーーーーーーッ」と言う音に変化した。

ビリビリとした振動が周囲を伝う。


エンジンがフルパワーになると、機体のエルロン、エレベータ、ラダーが忙しなく動き出した。

パイロットが両手を上げて黄色のクルーを見た。

黄色のクルーは親指を上げる。

操作板を持ったクルーが再びリモコンのスイッチを押すと、機体が飛空艦の外に吊り下げられた。


「パパ・ワン。高度10,000、ウィンド005・速度200。離脱後、300へ向かえ。」

「パパ・ワン了解。高度10,000、ウインド005・速度200、離脱後、300へ向かう。」


黄色のクルーが床の開口部ギリギリのところまで寄って覗き込むようにしゃがみ、取り付けられた取っ手を掴んだ。


「姫、行くよ」

「うん。行こう、スサノオ。」


黄色のクルーが片腕を水平に伸ばした。

緑色のクルーがリモコンを頭上に掲げ親指でカバーを開けると、スイッチを押した。

「ガコンッ!」

大きな音がしてフックが外れ、機体は飛空艦より投下された。


スサノオは2〜3秒ほど操縦桿とスロットルから手を離していたが、機体がやや落下し、そのまま飛空艦の前方に出ると、左手でスロットルを掴み、右手で操縦桿を握り、やや機首を下げ出力を絞った。

そして今度は操縦桿を左へ少し倒し、同時に左足でペダルを軽く踏んだ。

機体はゆっくりと傾き、指定された方向へ向かう。


眼下には綿飴のような雲が流れて行き、空中に浮かんでいる島々が見えていた。

その島々の下には藍色をした海のような塩湖が広がり、遠くの方に微かに青い雲が下に広がっているのが見えた。


「リサ、何か反応は?」

「うーん。魔力感知も、レーダーも、赤外線も大きな反応なし。けれど、魔力と赤外線に若干の反応があるから、小さな村とかはあるみたい。」

「分かった。けど帝国軍がどこまで迫っているか分からないから、一応、少し先まで行って確認しておこうか。」

「分かったわ。注意しておく。」


後方を振り返ると、青色の迷彩が施され、上側が潰れたような楕円形の断面をし、ずんぐりとした形状の巨大な飛空艦が見えた。

ゆったりと飛んでいるように見えるが、時速は300キロ以上出ている。

その後方には、飛空艦よりも小型の輸送用の飛空艦が数隻、やや距離を置いて続いていた。


故郷を追われてから数ヶ月。

既に1万キロ程の距離を逃げてきた。

それでもこの世界では、全体の1割にも満たない距離を進んだに過ぎない。

スサノオは眼下を見た。

雲の切れ間から疎らに点在する家々が見えてきた。


「ステレスモードになってるよね?」

「えっ?」

「えっ!?」

「うん。なっているよ。なっていますとも!」

「頼むよリサ。洒落にならないよ!輸送機が簡単に降りることができなくなるよ。」

「ごめん、ごめん。冗談よ。そんな初歩的なミスをする訳ないじゃない。」


スサノオはジト目でミラー越しに後方を見た。

相棒は、はにかんだ笑顔でこちらを見ていた。

かわいい・・・。

いやいや惚気ている場合じゃ無い。

取り敢えず、哨戒をしなければならない。


最近、帝国軍の追手は油断出来ないぐらいに能力が向上し、隠れ方も巧妙になって来た。

と言っても、まだまだこちらの戦闘力の方が遥かに上だ。

しかし無用な戦闘は避けたいし、油断してつまらない傷を負いたく無い。

幾ら戦闘力が上とは言っても、常時発艦できる戦闘機、ドラゴン・ファイターは12機、予備機は2機しか無い。

後はオスプレイと小型の飛行艇がそれぞれ2機積まれている。

輸送艦にもオスプレイや予備の機体を積んではいるが、飛空艦のように空中発艦が出来る能力は持っていない。

もっぱら整備か予備の為に積んでいる。

そもそも、積んでいるのは機体だけでは無く、さまざまな物資、それに人員も積んでいる。

このような装備でもし帝国軍が数任せの飽和攻撃を仕掛けて来たら、味方は甚大な被害を被る。

この事は痛い程分かっていた。


暫く飛行していると、前方に他の島々よりも高い高度に浮かんでいる島が見えて来た。

下に浮かんでいる島々よりやや小さい。


「姫。前方の島。」

「確認したわ。魔力は無反応。レーダーに感。赤外線にも感。もう少し上がってみて。島の山が邪魔で裏側が見えないの。」

「分かった。高度200に上げるぞ。」

「いいわ。まだ距離があるから方角255に向かって飛んで。そのまま距離30に近づいたら310へ戻して直進。」

「了解。方位255、高度200、距離30に近づいたら方位310へ向かう。」


そう言うと、スサノオは操縦桿を若干引きながら左に倒し機体を傾け、左足でペダルを踏み、同時にスロットルをやや上げた。

緊張してくる。

レーダーに感と言う事は、大きな金属反応があると言う事。

赤外線に感と言うことは、気になる熱源があると言うこと。

そして魔力反応が無いと言うことは、魔力阻害を出していて向こうもステレスを行っていると言うこと。

それはこちらに対し待ち伏せをしていて、敵対的な行動を行う可能性が高いと言う意味だ。

反対に、こちらは熱源や姿、音まで隠しているので向こうは中々気付けない。

ただし、飛竜よりも魔力消費が少ないとは言え魔力はそれなりに使っている。

こちらは飛行する為に魔力を使わざるを得ず、若干漏れた魔力に対し阻害魔術をかけているだけだ。

なので近づくと敵の魔術師達に気付かれる。

ベテランのドラゴンライダーであれば、飛竜の動きでこちらの位置を特定する者もいる。


距離30に近づいた。

今度は操縦桿を右に倒し、横滑りしないように操縦桿を引き、右足でペダルを踏み、機首を310に向ける。

旋回して直ぐの事だった。


「いる、いる!大型の飛龍が10匹。それも全部金属の鎧を着込んだ奴。恐らく速度250以上で飛べるように風魔法でガード出来るタイプよ。」

「まだボギーだと思ってて良いのかな?」

「たぶん直ぐにバンデットになるわ。カウント5で10時の方向に急旋回。全力で高度を上げて離脱して。」

「了解。カウントよろしく。」

「行きます!5・・・・4・・・・3・・・・2・・・・1・・・・今!」


スサノオは操縦桿を手前に引きながら左へ倒し、左のペダルを踏んだ。

機体は左に60度近く傾き急激に方向を変えた。

青い湖面が機体の左側に見え、空が右側に見える。

スサノオはそのまま機体を旋回させながらスロットルレバーを前に押して増速し、機首を斜め左上へ向けて上昇した。

対G用条件魔法の魔法陣が発動した。

魔法陣の発動で体感Gはかなり軽減されるが、それでも今の機動で1.5Gほどの加速度が二人に加わっている。

コクピット付近は魔法陣のおかげでGは軽減される。

しかし機体全体にはかかっていない。

そのため機体はGに抗い、ビリビリと振動した。


「リサ!どこまで上がる?」

「300まで!そのまま直進して。」

「了解!」


スサノオは高度を300まで上げると水平飛行に移った。

スロットルをやや下げてエンジンを絞る。


「どう?」

「7つ程上がって来たわ。やる気満々よ。でもここまで登って来れないし、こちらの存在ははっきりとは把握出来ないから簡単に攻撃して来ないと思うわ。バンデットになりたいけどなれないボギーってところかしら。でもブレスには気を付けてね。一発芸でかまして来るかも知れないわ。」

「一発芸って、そんなのに当たりたく無いよ。」

「大丈夫よ。所詮生き物の攻撃よ。こんな遠くの目標に当てるなんてまず無理だわ。取り敢えず、本船にも状況が伝わっていると思うから、今後の方針を相談するわ。」


機体の探知情報、魔力探知と赤外線にレーダーの情報、それに映像などの情報は本船のシステムと繋がっている。

本船自体も自身が備えている高性能な探知機と連携させているので、あちらの方が状況を的確に捉えている。

リサは通信スイッチを押して飛空艦の戦闘指揮官と話し始めた。


「こちらパパ・ワン。目標方向にボギーを発見。そちらでも状況は確認した?」

「パパ・ワン。こちらでも把握した。ボギーの付近に村はあるかい?」

「無いわ。勝手に庭にでも上がり込んだのかしら?」

「10体もの大型飛龍が勝手に上がり込んだとは思えない。恐らく無理難題を言って無理矢理拠点を築いたのだろう。先回りしたつもりなのかも知れない。増強されてもつまらない。潰すしか無いな。」

「わたしとスサノオのコンビだったら一機で殲滅可能よ?やってみせましょうか?」

「あまり派手に暴れるな。拠点を潰すだけでいい。念のため増援を1機送る。480で到着予定だ。」

「来た時には終わっているわ。お迎えってことね。」


指揮官からはそれ以上の返答は無かった。

彼からすればそれまで待って欲しいと言外に含んだつもりだった。

無言の反応はやれやれと言った雰囲気を醸し出している現れだ。


「スサノオ聞いた?」

「聞いたよお姫様。あまり自信は持ってほしく無いんだけどなあー。戦場での驕りは即死だよ。分かるだろ?」

「・・・・ごめん。別に油断してる訳では無いのよ。ただ、これだけ高度をとって攻撃したら確実に敵を混乱に陥れて拠点を潰せるわ。取り敢えず、セーフティをアンロックして。」

「やれやれ・・・。アンロックセーフティ。」

「そしたら増速してインメルマンしてもう一度向かって!」

「了解。」


スナノオはスロットルを押してパワーを上げると操縦桿を引いた。

前方にある青い空が視界の下方向にスクロールし足元に移り、頭上には太陽光を反射させている湖面と雲が見える。

そのまま操縦桿を倒しロールして機体を正常な姿勢に戻した。


「次は?」

「方位そのまま!拠点の手前、距離5付近で思いっきりパワーを上げてそのまま通過して!」

「了解。敵拠点へ向かう。距離5で全速を出す!」


スナノオは言う通り機首を敵の拠点へ向けた。

距離がどんどん縮まる。

距離30・・・・・20・・・・10・・・5。

スロットルのスイッチを押し、アフターバーナーを点火させた。

その瞬間一気に加速した。


「目標通過!スサノオ!スプリットSしつつ高度150へ急降下!敵の背後に出るわ!あとは任せたわ!」

「了解、っておい!」


スサノオはそう言いつつ、直ぐにスロットルを手前に引き出力を落とすと、操縦桿を倒し機体を裏返す。

湖面が再び頭上に見え、操縦桿を引いた。

頭上にあった湖面が目の前にスクロールし、やがて足元に移る。

同時に島の山スレスレのところに機体が滑り込んだ。

先の方に、キラキラと光った物体が7体飛んでいるのが見えた。

彼らから見ると、魔力反応が突然鼻先に現れたと思ったら瞬間的に通り過ぎた、そう感じたのかも知れない。

敵がどこに消えたか見失っているように見える。

やがて7匹の編隊が左へ旋回し始めた。

スサノオはその姿を見つつ、グングン距離を詰め、一番右側を飛んでいる飛龍に狙いを定め突っ込んだ。

ヘルメットのバイザーにそれぞれの攻撃目標がロックされ、距離が表示される。

コンマ数秒の速さで距離が縮まる。

12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2・・・

操縦桿に付いた引き金を引いた。

パーンッ!

機体の側面から乾いた音と同時に眩い光が出て右側の飛龍を射抜いた。

打ったと同時に左のペダルを軽く踏み、左横にいた飛龍に機首を向け、続けざまに射抜いた。

相手に取っては一瞬の出来事だったようで、数秒の間が空いたと思ったら一斉にバラバラに急旋回を始めた。

スサノオは飛竜を追い越すと操縦桿を引き、そのまま上昇した。


「2体撃破確認。次10時に向かって!」

「了解!」


そう言うとスサノオは今度は機体を左に傾けて10時方向へ向かった。

バラバラに動いていたように見えた敵の飛竜達だったが、やがてまとまり始め、島の縁をなぞる様に緩い左旋回をして降下し始めた。

直ぐに編隊を纏めたな。

腕の良い指揮官が率いている。

スサノオはそう思った。

敵は速度を上げる為、そして退避の為、高度を下げ湖の湖面付近へ向かっている。


「もう少し潰すわ。ハイ・ヨーヨー気味に左旋回。横腹から襲って!」

「・・・了解!」


相変わらず無茶を言うなと思いながらスサノオはスロットルを若干絞りつつ急上昇、そのまま機体を左に向け残りの飛竜達に迫った。

飛竜達が右斜め向こう側に向いて、かなり早い速度で下降しながら飛んでいる。

後方の一匹に狙いを定めると、引き金を引いた。

パーンッ!

再び機体の側面から光が飛び出し、飛竜を一匹射抜く。

接触するぐらいに至近距離まで距離が近づき、飛竜の編隊の後方をそのまま横切る。

飛竜達に乗るドラゴンライダー達が驚いて後方を振り向いているのが見えた。


「スサノオ!そのまま島の下側を通過したら全速力で垂直上昇!高度250以上でハンマーヘッドをかまして拠点を爆撃して!」

「ヒト使い荒いな!了解!」


浮遊している島の下部は、土が太いツララの様に大小何本か出ていて、危険なので普通は通らない。

一応高度を下げて通過するので衝突する危険は無いが、上からの落下物がある可能性がある。

そこに注意しつつ、高速で通過した。

通過後、直ぐに操縦桿を引きスロットルを上げアフターバーナーを点火した。

機体は重力に逆らって垂直に上昇する。

8,000、10,000、12,000、14,000・・・・・背後に引っ張られるような感覚とともに、どんどん上昇して行く。

やがて高度250に近づき、スサノオはスロットルを手前に引いた。

ヒュンヒュンヒュンと言う音をさせ、エンジン音が下がる。

すると機体は急激に速度を失った。

「ピーーーッ」と失速警告音が鳴った。

同時に操縦桿が振動し、機首が左に振れ始めた。

機首が振れたのを見て左のペダルを踏み、機首を下に向けた。

機体を下に向けると、操縦桿とペダルを動かし、機首を飛龍達が潜んでいた拠点へ向けた。

ほぼ真上からの急降下だ。


並んだ飛龍の厩舎、旗の立った砦のような建物が見えて来た。

操縦桿に付いたセレクターを爆弾にセットする。

ヘルメットのバイザーに、攻撃目標までの高度と距離が出た。

距離はほぼ小数点以下、高度は加速度的に数字が変わって行った。

高度、23,000、22,000、21,000・・・・・。

操縦桿についてるスイッチを押す。

ゴーッ、ガコンと言う音がして爆弾倉に収納されていた爆弾が機外に出て来た。

19,000、17,000!

引き金をひく。

そして直ぐに操縦桿を目一杯引き、次いでスロットルを押した。

機体は高度15,000付近で上昇に転じ、爆弾は5個に分裂し、そのまま加速して砦の中心部を直撃した。

大音響と共に大爆発が起きた。

恐らく一週間以上は使用不能だろう。


機体を旋回させ戦果を確認する。

飛竜が火に包まれ暴れている様子が見える。

首の無い飛竜が近くに倒れていた。

石造の建物が大きく崩れている。

その側に、爆風で飛ばされ動かなくなった、煌びやかな鎧を纏った人が見えた。


高度を取り、水平飛行に移った。

眼下に湖面の上を必死に逃走する大型飛龍4匹が見えた。

速度は500キロ以上出ているようだ。

これから追っかけて落とした方が良いだろうか?

それともこのまま見逃すか?

そう思っていたら後席から話しかけれた。


「流石スサノオ。見事に潰したわね。」

「あれ、どうしよう?」

「追っかけなくて良いってさ。」


リサが不機嫌そうに応える。

気がつくと“お迎え”の僚機が近くまで来ていた。


「やり過ぎると余計に恐れさせて戦力を増やされるって言うんでしょ?以前の失敗を繰り返しては行けない・・・・理由は分かるわ・・・分かっているのよ・・・けど・・・。」

「リサ、しょうがないよ。以前のような飽和攻撃をされたらおしまいだ。今はひたすら奴らから逃げ切って、新しい移住先を見つけ無いと僕らの未来は無いんだ。それに僕らの技術は彼らに渡ったらとんでもないことになる。ここは以前からみんなで決めた事に従おう。」

「分かってるって・・・でも・・・なんか釈然としないのよね。」

「リサ・・・まだ吹っ切れ無いのかい?もう何度も話し合ったよね?」

「うん。そのつもり・・・でも・・・」

「ごめん・・・・・吹っ切れるわけなんて・・・・・」


彼女には帝国を怨んでも恨み切れない理由がある。

けどその恨みは本来なら僕ら一族に向けても良いものであった。

けど彼女は違うと言う。

悪いのは帝国だと。

彼女は一族を兄一人を除いて全員殺された。

仲が良い幸せな家族だった。

だが欲望のために殺された。

それだけでは無い。

一族を慕ってくれた領民は領地を出て散り散りとなり、慣れない土地で裏切り者の領民と蔑まれ、苦労に満ちた生活を送っている。

今は僅かに残った領民と家臣を伴い、こうして安住の地を求めて彷徨っている。

彼女の境遇を思うと心が沈む。

こんな境遇になるべき少女では無かった。

何もなければもっと幸せになれる筈だった。

こんな状況になったのはやはり・・・。


「スサノオ達のせいじゃないからね!何度も言わせないで!」


リサが喚き出した。


「何度もそう言ってくれるのはありがたいよ。でもリサは幸せになれたんだ・・・こんな騎士身分の僕らと逃避行するなんて・・・」

「だ〜か〜ら〜ッ!」

「痴話喧嘩?」


いつの間にか、増援に来た一機が編隊を組むように隣を飛んでいた。

単座のキャノーピー越しに女性のパイロットがこちらを見て、ニヤッと白い歯を見せている。

会話がダダ漏れてた?

あれ?通信切って無かったの?

ミラー越しにリサを見る。

リサは顔を紅くしながら言った。


「通信入ったまんまだった。テヘ (≧∀≦)」


おいこら!

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