トキ貯蓄プラン

高山小石

トキ貯蓄プラン

「美香、トキ貯蓄プランって知ってる?」


 会社の昼休み、いつもならメニューと長時間にらめっこする同僚の智子が待ちきれない様子で言った。


「なにそれ? 鳥のボランティア募金? それとも新しい保険つき貯蓄プラン?」


 智子の話によると、雑誌に広告されていたもので、お金ではなく時間を貯蓄するらしい。まず信用できない内容だったので、忙しい昼休みということもあって、私は相づちを打つだけでざっくり聞き流した。


 夜マンションに帰ってから、一緒に暮らしている彼にそのことを話した。


「これって、智子、騙されてるよね?」


「智子ちゃん、天然って言うか、騙されやすそうだもんなぁ。止めてあげなよ」


 もちろん止めたけど、すでに智子は契約した後で、プランは三年続くようだった。

 契約金の十万円以外に費用はかからないみたいだから、ちょっとお高い勉強代だったねと同情していたのに。


「今月の営業MVPは、川合智子さんです」


 それから、目に見えて智子の業績が上がっていった。ランチも、外に食べに出ず、お弁当を作ってくるようになった。それも、トロい智子なら作るのに一時間近くかかりそうなお弁当をだ。そう言えば、営業ノルマも時間内でクリアしている。今までなら、残業や休日出勤をして、やっとクリアしていたのに。


 私は智子に、いったいどんな魔法を使ったのか聞いた。


「前にも話したでしょ。トキ貯蓄プランよ」


 以前聞いたときは費用しか真剣に聞かなかったので、あらためて内容を教えてもらった。


「なにかを待つ時間とか、受動的な時間ってあるでしょ? そんな時間を貯めて、必要な時に使えるの。同じ場所にいる人数が多いと、その人たちの分も貯められるのよ」


 私は想像した。駅で電車を五分待つ。それが百人なら……およそ八時間?


 私はプランが掲載されていた雑誌を聞いて探したけれど、見つからなかった。


 智子はその後、三年を待たず寿退社した。

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トキ貯蓄プラン 高山小石 @takayama_koishi

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