第14話 首席の実力
「1分間で、ですか?」
「だいたいで大丈夫です。本気を出せば、と仮定したら?」
「本気を出せば……1分間に7発はいけます」
その言葉を聞いて、またも生徒達がざわついた。
「7発? 嘘でしょ?」
「私なんか、水球(アクアスフィア)4発が限界よ」
「私も同じ。7発とかありえない」
「さすがは首席、といったところね」
球体(スフィア)形状の攻撃魔術はどの属性にもある。そのどれも威力は高いが、消費魔力が大きいため連発が難しい。それを知っていたセリナ達は、フィガロの言葉を聞いて敬服せざるを得なかった。
「7発と言いましたが、筆を使えばもっと凄いですよ」
アグネスが意味深なことを言った。
「2桁いけますか?」
フィガロは期待を込めてアグネスに尋ねた。アグネスは静かに頷き、またも生徒達はざわついた。
「2桁? 絶対無理って、さすがにいきすぎよ」
「やっていいですか?」
フィガロは再び筆の先を壁に向けた。アグネスは何も言わず承諾した。それを確認したフィガロは気を溜めだした。
「はぁああああ!!」フィガロの筆先に大きな土球が出来上がった。ちょうどセリナとカティアが入学式初日に広間で出した水球、それが土に変わっただけだが、一回り大きかった。
「なんて大きさ、あれを連発するの?」
「さぁ、見ものだわ!」
ミリアが喜々とした表情で見守った。
すると一発目が高速で直進し、そのまま広間の壁に衝突した。衝突音も大きくやはり広間の地面も揺れた。
だが驚くのはここからだった。なんとフィガロは間髪入れず、2発目の土球を作り出した。
「嘘でしょ!?」
「速すぎ!」
カティアとミリアの驚きの声が止まない。
直後、2発目の土球がまたも広間の壁にぶつかった。1発目との間隔は数秒ほどしかなく、その間隔の短さにロゼッタですら目を丸くした。
さらに3発目、4発目と続けざまにほぼ同じ大きさの土球を連続で作り出しては壁に衝突を続けた。そして1分が経過した頃、アグネスが手を上げフィガロを制止した。
「11発、2桁おめでとう」
アグネスは正確にフィガロが投じた土球の数を数えていた。
「ありがとうございます」
フィガロの土球連射に全生徒から、拍手喝さいが送られた。ロゼッタも拍手をしていた。セリナは未だ信じられない気持ちを抑えられなかったが、あまりの凄さに感動せざるを得なかった。
「うぅ、悔しいけど、フィガロあんたやば過ぎよ!」
ミリアは若干嫉妬していた。
「皆さん、おわかりのようにフィガロの魔力の凄さもありますが、最も注目すべきは魔導筆の性能です」
アグネスは自信の魔導筆を全生徒に見えるように手に持った。そしてその筆管の中部にある金色に光る石を指差しながら説明した。
「この部分が先ほども説明しましたが、魔石に該当します。この魔石により、消費魔力が抑えられ、さきほどのような連射が可能になったのです」
アグネスの説明に全生徒くぎ付けだ。要は消費魔力を抑えることで、土球や水球など高威力の魔術を短時間で連発することを可能にしてしまう。ある意味で恐ろしい性能を誇るのだ。
「フィガロ、今の気分は?」
「びっくりするくらい疲れがないです。あれだけ連発したら絶対フラフラになってるはずなのに……」
魔力の消費が抑えられた分、体にかかる負担も少なくなったから当然の反応だが、フィガロがその言葉通り平然と立っているのを見れば論より証拠だ。もちろんそれはフィガロの魔力が並外れて大きかったことも関係していたが。
だが次にアグネスが意味深な言葉を発した。
「魔石は、皆さんには関係ありませんが、【魔導杖(アーセナル)】にも使われています」
その言葉に一部の生徒は目が点になった。カティアとミリアも同じ反応を示した。
「魔導杖って何?」ミリアがまたも小声で質問してきた。
「入学式の時、学園長の隣に大きな杖あったでしょ?」
「あぁ、あれのこと?」
「もしかして馬鹿でかい魔導筆みたいなもの?」
カティアは適当に自分の考えを述べた。
「ミリア、カティア、私語は慎みなさい」
やはりというか、案の定アグネスは逃さなかった。
「は、はい!」
「魔導杖のこと、そんなに気になるの?」
その質問にカティアとミリアは小さく頷いた。するとオルハが手を上げた。
「あの、一つ質問いいですか?」
「なんでしょう?」
「魔導杖は古の大魔導士達が使っていた超兵器のようなものだと、古文書で読んだことがあります。もしかして魔導筆の魔石とはまた違ったものなんでしょうか?」
突然のオルハの意表を突いた質問に、全生徒が注目した。カティアとミリア、そしてセリナも「何を言ってんの?」という表情を浮かべた。
「オルハ、あなた勉強熱心ですね」
なぜかアグネスはオルハのことを褒め称えた。
「いえ、そんなことは……」
オルハも照れ臭りながら答えた。
「全ての魔導杖に魔石が組み込まれています。それは事実です。ですが魔石にも様々な種類があります」
「種類、ですか?」
「今はそれしか答えられません。この時点で、全て知る必要はないです」
アグネスがオルハの質問に答え終わったが、オルハは納得いかないような気分だった。何とも言えないもやもやが残ったが、アグネスは授業を進めることにした。
「ごめんなさい、話が逸れたわね。ということで、フィガロとロゼッタの実演は終わりです。次にやってもらうのは……」
アグネスの言葉を聞いて、フィガロとロゼッタの2人は下がった。そして次に呼ばれたのは3人、いずれも入学式初日の席順通りで、ロゼッタの後ろに座っていた3人だった。
「なぁんだ、結局席次通りか」
「ってことは、私達まだ先ね……」
ミリアとカティアは退屈な気分を隠せそうになかった。目の前には何人もの生徒が筆から魔術を放っていた。だがフィガロの土球11連発の後だと、どれもこれも霞んで見えた。中には治癒術が得意な生徒もいて、わざと攻撃術を喰らわないと実演できない生徒もいたりした。それを一部の生徒は面白がって見たりもした。
セリナ達の出番が来るまで、20名近くは実演していた。さすがに退屈になってきたのか、セリナはオルハにさっきの質問が気になった。
「ねぇ、オルハ。さっきの質問だけど……」
「あぁ、魔導杖のこと?」
「オルハ、魔導杖のこと、どれだけ知ってんの?」
「さっきも言ったけど、古文書で読んだだけよ。私の父が王立図書館の研究員勤めているから」
「本当なの?それ凄い!」
ミリアもその言葉に喰いついた。
「その古文書に書かれていたの。魔導杖は古代の大魔導士が研究して作り出した超兵器だって」
「超兵器ってことは、完全に武器ってことよね」
「でもそんな恐ろしい武器があるって話聞いたことないけど。首府の宮殿行っても、杖を持った魔導士はあまり見かけなかったし」
「杖とか単なる飾りだって、某騎士団長が言ってたような……」
「神話だったら杖で戦ってた魔導士って何人か出てきたよね。例えばあなたのご先祖様とか」
カティアが突然セリナの先祖に言及した。セリナもそれを聞いて何かを思い出した。
「そうだ。大賢者ライザ様の杖、見たことあるかも……」
「え、嘘?どこで見たの、それ?」
今度はオルハがセリナの言葉に喰いついた。
「確か、それはね……」
その時だった。
「え?」突然セリナの横の地面に何かが激しくぶつかった音が聞こえた。「風弾(ウインドバレット)?」
「あなた達、お喋りはそこまで……」アグネスが恐ろしい表情で筆を構えたまま見つめていた。「オルハ、ミリア、カティア、セリナ、あなた達4人の番ですよ」
アグネスは説教する代わりにセリナ達4人を指名した。その恐ろしい表情を見て、体が金縛りになっていないにもかかわらず勝手に動いた。
「返事は?」
「は、はい!」
セリナ達4人の小話は中断された。既に20名以上が実演を終え、残すはセリナ達含め10数名となった。いよいよ出番が回ってきたところで、セリナ達も気を引き締めた表情で並んで立った。
「では、筆を構えて!」
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