家族は大事


 窮地にある俺のピンチを予測し、神父様に伝えてくれた恩人であるはずのヨルが、今ベッドの上で膝を抱えてまるくなってじーっと自分の足先をみつめている。


 帰ってくるなり、他のことには目もくれず寝室へと来てずっとこれだ。

 表情が変わらないので分かりづらいが、どうやら、ヨルは落ち込んでいるらしい。

 助けてくれたお礼をしたかったのに、どうもそんな雰囲気じゃない。


「なあヨル。今日なにかあったのか?」


 そう声をかけると、ヨルちらりとこちらに目線をあげ、すぐにまた下ろす。


「家族だと言っておいて、おまえの異変に気づけなかった。違和感を覚えた時点で気づくべきだった」


 なんとヨルが落ち込んでいるのは俺のせいだったらしい。


「おまえのおかげで助かったんだぞ? おまえが気付いてくれなきゃ今頃、キュアの消耗に耐えられずに死んでたかもしれないんだ」


 なのに、なんで助けてくれたヨルが落ち込むんだよ。


「そうだ。死んでいたかもしれなかった。なのに私は病の予兆を見過ごした」


 ヨルがぐぐぐとより一層丸くなる。ああ。地雷を踏み抜いてしまった。


 いつも無表情で鉄仮面っぷりが板についているから、同時にめったなことじゃ心も動かない鉄面皮だと勝手に思いこんでいたけれど。仲間はずれにされるのを嫌がったり、ミスとも言えないミスで落ち込んだり。 ヨルは意外と打たれ弱い性格なのだろうか。


 俺はどうしたものかと頭を悩ませる。こちらとしては感謝の気持ちしかないのに。感謝したい相手が俺のせいで落ち込んでいるというのは、どうにも耐え難い。


 けど俺がいくら感謝をしようと、ヨルは自分が許せないらしい。それだけヨルにとって、家族の危機を察せなかったというのは一大事のようだった。


 家族か。


「なあヨル。家族が落ち込んでたら、俺の方が辛くなる。だから、元気だしてくれよ」


 どう声をかけたものかと考えた結果、俺はそう告げた。ヨルが俺をじっと見る。


「わたしが落ち込んでると、おまえは辛いのか?」

「ああ。なんというか、胸がきゅっとなる」

「そうか。なら落ち込むのはやめよう」


 ヨルは今までの様子が嘘みたいにすっとベットの上で立ち上がった。

 ヨルは家族をとても大切に思っていて、どうやら光栄なことに俺もその枠組に入っている。この言葉選びは成功だったようだ。

 この世界に来てからずっとなにを考えているかわからなかったヨルのことが、最近ちょっとだけわかるようになってきた。


「よし。明日から、毎日健康診断を行うこととする」


 ヨルは拳を握り意気込んだ。


 わかってきた……気がする。




 ああ、そういえば。


 俺がヨル達を家族とすんなり受け入れられる日は、意外にも、早すぎるほど早かった。

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