第17話 続く戦い
しばらく上空の魔獣と戦っていると、徐々に眼下を走る魔獣が増えてきた。ブルクハルトは、それらを氷で弾き飛ばしながら前方に視線を移す。
ガスパールの掘った罠の一部が落ちた魔獣で塞がり、後続の魔獣が踏み潰しながら通過していた。今は機能している他の罠も時間の問題だろう。
【そろそろ、地上もまずそうだね。ブルクハルト、いける? 上空はしばらく頑張るよ】
エッカルトが地上に向けて炎を放つと、草原を焼いた煙で視界が奪われる可能性が高い。魔獣相手には不利に働くので、氷を使うブルクハルトの方が向いている。
【分かった。上空は任せて、俺は地上の攻撃に移る。ジュリアンは、エッカルトたちの攻撃をすり抜けた敵を頼む】
「うん、任せて」
ジュリアンが足に力を入れたのを確認して、ブルクハルトは高度を下げる。地上に氷の刃を線上に放ち、魔獣の進路を氷の柵で塞いだ。
魔獣たちは、勢いよく走っているので止まれないまま、その柵に突っ込んでいく。
【殺傷能力が低いか……】
「いや、良い作戦だと思うよ」
【そうか。それなら、続けてみる】
ジュリアンが肯定してくれるので、ブルクハルトは安心する。竜化した状態での戦闘経験は乏しいので、考えつくことをやっていくしかない。
柵にぶつかった魔獣に対して、後続の魔獣が勢いよくぶつかっていくのが見える。後続のおかげでいくらか戦闘不能に出来ているようだ。
【これならいけそうだな】
「うん、もう少し頑張ろう」
ブルクハルトはジュリアンの励ましに小さく手を上げて応える。動かなくなった魔獣の壁を乗り越えだした魔獣の前方に、さらに氷の柵を作ることで対応していった。
……
倒しても倒しても、結界の外から魔獣が入り込んでくる。
ブルクハルトがうんざりし始めた頃、眼下の魔獣たちが突然まとめて横に吹き飛んだ。飛ばされた魔獣たちは倒れたまま動かなくなる。
【ブル坊、待たせたな】
ブルクハルトがチラリと攻撃が飛んできた方向を見ると、よく知る翠龍が三頭こちらに向かって飛んできていた。風魔法で援護してくれたのだろう。
【いい加減、その呼び方止めてくださいよ。俺も竜騎士を選ぶような歳なんですよ】
ブルクハルトは、仲間の到着の嬉しさを隠して文句を言う。
【助けに来てやったのに釣れないな~】
一番大きな翠龍がブルクハルトを援護するように魔獣を倒しながらカラカラと笑う。辺境伯と幼馴染でもある分家のパトリック・ヴェロキラだ。
「ガス、状況は変わらねぇか?」
「ええ、見ての通りです」
パトリックに乗る竜騎士、ギヨームが大きな斧を振り回しながらガスパールに声をかける。親世代の二人だけあって、突然戦闘に加わっても動きに迷いがない。竜騎士は竜に乗るため細身の者が多いが、ギヨームは大男と呼ぶのが相応しい。同じく大男であるパトリックだからこそ成り立つ良い相棒だ。
「この顔ぶれならエッカルトとガスパールに指揮を任せたいが、構わねぇか?」
「はい。では、遠慮なく」
翠龍の竜騎士は全員ガスパールより先輩だが、異論がある者はいないようだ。赤龍と青龍が飛び抜けて強いというのもあるが、ガスパールの持つ知識や指揮官になる覚悟と、実戦で得てきた信頼のおかげだろう。
ガスパールは名門ドリコリン伯爵家の嫡男として、子供の頃から期待を一身に背負って竜騎士団長になるべく努力してきた。クリスティーナが自分の事のように自慢して、ブルクハルトを嫉妬させるので、知りたくなくてもよく知っている。
「それでは、ギヨームさんはブルクハルトたちと地上を、後の二組は私達と一緒に上空をお願いします。現状、連携は足枷になりかねないので、臨機応変にいきましょう。戦況が変われば、その都度指示します」
【妥当だな】
パトリックがそう言いながら、ブルクハルトの方に飛んでくる。
「そこのキラキラした男がブル坊の竜騎士か」
「ジュリアンと申します。よろしくお願いします」
「お、おぅ。よろしくな」
ジュリアンが魔獣と戦いながらも丁寧に返事をする。ギヨームは辺境の者には少ない返しに一瞬戸惑いを見せたが、すぐに調子を取り戻した。
「ブル坊たちは、そのまま続けてくれ。少し数を減らしてくる。行くぞ、パトリック!」
【了解!】
パトリックは短く言うと、躊躇なく前方の魔獣の群れに突っ込んでいく。ジュリアンは驚きの声を漏らしていたが、彼らのいつもの戦い方だ。ブルクハルトに見ている余裕はないが、パトリックの動きに合わせてギヨームが斧を振り回し魔獣を薙ぎ払っていることだろう。赤龍や青龍に比べて魔法が使える回数の限られる翠龍は、接近戦を主とする。
「すごい連携だね」
【憧れるよな】
パトリックたちのおかげで、ブルクハルトが一度に対峙する魔獣の数が減っている。疲れが出てきているブルクハルトには嬉しすぎる援護だ。空はまだ明るく、結界が再構築される日暮れまでは遠い。
【ジュリアン、大丈夫か?】
「僕はまだまだいけるよ。ブルクハルトはどう?」
【俺も問題ない】
ブルクハルトたちは、お互いに強がりだと分かりながら、指摘せずに目の前の魔獣をただ倒し続けた。
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