第13話 売り込み

 それから数日後、ブルクハルトはジュリアンを乗せて結界の巡回に来ていた。今日もエッカルトたちの当番に同行させてもらう形だ。


「これが竜騎士の普段の仕事なんですね」


「そうだ。王都騎士団は参加しないから、ジュリアンも初めてだろう」


「はい。興味深いです」


 ジュリアンは結界を観察しながら、ガスパールの話を熱心に聞いている。


 ジュリアンは王都騎士団にいくつかある隊のうちの一つで副隊長をしている。そのため、辺境の魔獣との戦いは経験済みだ。しかし騎士団が参加するのは、年に十数回行われている大規模討伐のみなので普段の竜騎士の活動には詳しくない。


 大規模討伐は魔獣が結界の外で増えすぎないように間引きの目的で行われる。魔導師が結界をわざと一区画だけ消滅させて、そこから入り込んできた魔獣を討伐するのだ。竜騎士団も含む各地の騎士団が協力する形で行われ、ブルクハルトも辺境伯騎士団の一員として経験のために参加してきた。


「見回り任務は竜騎士の中心的な仕事だが、参加するのは辺境伯領に住んでいる若手の竜騎士だけだ。父も参加したいようだが、会議や領主の仕事もあるから難しい」


「なるほど……今日も王都で会議がありますもんね。竜騎士団長は毎回出席されていたように思います」


 ジュリアンが言うとおり、王都に各騎士団の代表者が集まり、次の大規模討伐に向けての会議が行われている。竜騎士団からはクリスティーナたちの父、ドリコリン伯爵をはじめ数人が出席しているはずだ。


「さすがに詳しいな」


「王都騎士団の団長に資料の作成を手伝わされていただけですよ」


 ジュリアンは何でもないことのように言って笑ったが、話す内容は機密扱いとなる会議の資料を作っているのだ。団長に信頼されているのだろう。今回の資料を作る時間はなかっただろうが、王都騎士団は大丈夫だろうか。


 ガスパールも同じことを思ったのか質問していたが、ジュリアンは笑顔で躱していた。


【雑談はここまでかな。最初の魔獣みたいだよ】


【了解! 近そうだな】


「ジュリアン、初仕事だ」


「はい!」


 今日はブルクハルトもエッカルトとだけは会話が可能だ。ガスパールとジュリアンには聞こえないが、エッカルトを通じて意思の疎通ができる。緊張に包まれていた前回とは異なり、落ち着いた雰囲気だ。


 もっともそれは会話ができる事だけが理由ではない。ガスパールの雰囲気を比べてみると、やはり彼もクリスティーナに対して過剰に心配していたことが伺える。エッカルトも今回は最初から後方を飛んでおり、戦闘に参加する気は全くなさそうだ。クリスティーナのときにブルクハルトのそばを飛んでいたのは、ガスパールの心情を慮ってのことだったのだろう。


【あれか】


 しばらく飛んでいると熊の魔獣が見えてくる。


「一匹だけですし、僕が仕留めても良いですか? 僕の実力を確認していただきたい」


 ジュリアンの言葉にブルクハルトは小さく頷く。


 ブルクハルトが魔獣に近づいていくと、弓の射程に入ったと同時に、ジュリアンが魔力を這わせた矢を放った。炎をまとった弓矢はぐんぐん速度を上げて魔獣に向かっていく。その勢いのまま、魔獣の前足に突き刺さると爆音と共に魔獣が吹き飛んだ。


「僕は炎系の魔法が得意なんです。大型の魔獣はこの方法で仕留めることが多いですね。ただ、大規模討伐時に上空から使用するのには適さないと思うので、他の方法もお見せします」


 ジュリアンは自分を売り込むように一人で語りだす。竜騎士になったときを想定して、戦闘の構想を練ってきていたようだ。


 その後もジュリアンは狐の魔獣、狼の魔獣と問題なく倒していった。宣言通り、風や雷の魔法を使うなど討伐法を変えてブルクハルトに見せていく。


「食用にする魔獣には雷魔法がおすすめですよ」


「ほぅ、味が違うのか」


「はい。魔獣特有の臭みが軽減されます」


【それ本当? ガスパールって、雷魔法使えたっけ?】


 ジュリアンの豆知識にエッカルトが大袈裟に反応する。ガスパールが雷魔法を使っているところは見ないが、エッカルトの要望で練習することになったようだ。この二人の関係については、ブルクハルトにも解明出来ていないところが多い。


「次は鳥型のようですね。接近戦を試してもよろしいですか?」


 ブルクハルトはジュリアンの言葉に答えるように頷いて、ガスパールの方を見る。


「好きにしろ」


 ガスパールの了承を受けて、ジュリアンは弓を背中におさめて剣を抜く。ジュリアンの剣さばきにはブルクハルトも興味があるが、残念ながら自分の竜騎士の接近戦を肉眼で見ることは難しい。正式に竜騎士契約をすれば、ある程度動きを感じることができるので、その日を楽しみに待つことにした。

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