チョコみたいに甘い笑顔
File4.宮田あずさ(18)
はじめは目立つ人だなと思った。
声が大きくて常にクラスの中心に居るような人だったから特に意識しなくても自然と目にとまることが多かった。
いつも元気で楽しそう。笑顔が似合うそんな人。
ただ皆が言うように騒がしいだけじゃなくて、周りをよく見ていて、誰かが困っていたら迷わず手を差し伸べることができる人。
同じクラスで同じ時間を過ごすうち、そんな彼に少しずつ惹かれていった。明確な理由は覚えていない。たくさん助けられた気がするし、彼からたくさんの元気をもらった。
「宮田さん」
そう私を呼んでくれる声が心地よくて、笑顔が眩しくて。彼の笑った顔を見ると、不思議とこちらまで笑顔になってしまう。いつしか彼の笑顔を守りたいと思うようになった。
◇
今日は待ちに待ったバレンタインデー。
川村さんに手伝ってもらって完成したトリュフチョコをラッピングしたり、色々と準備をしていたら一睡も出来ないまま朝日が昇ってしまっていた。
5限目の体育はサッカーだ。昼休みが終わったあとの1番眠い時間帯。審判係という名の休憩をしながら眠気と戦っている。
ふわぁっと抑えきれなかったあくびをしていると、友人に「ちょっと!」と声をかけられた。
「今日ずっとボーッとしてるけど大丈夫なの?」
「あぁ、うん…」
「あぁ、うんって話聞いてないでしょ」
「うん…」
「はぁ」
眠くてぼーっとしてしまっていたので「ボール当たらないように気をつけなさいよ」と友人が言ったことにも気が付かなかった。
今日はかなり寒い。ついついジャージのポケットに手を突っ込んでしまう。風も冷たくて強いためドライアイの私は細目で男子のサッカーを眺める。
なんでこんな日に外でサッカーなんかしてるんだろう。あ、小野がボール蹴り損ねた。
それにしても、土のついたサッカーボールを細目で見ていると何だかトリュフチョコに見えてきた、、、美味しそうだ。
ちなみに昨日作ったチョコレートは昼休みの間に友人たちに配った。
誰かが「これ本当にお前が作ったの……?」とか「食べてもお腹壊さないよね」とか言ってた気がするけど………その人たちは後でシメる。前者は小野だったかな?絶対に許さん。
違う違う。そんなことはどうでも良くて、重要なのはまだ抹茶トリュフを渡せてないということだ。
どうやって、どのタイミングで渡そうか。脳みそをフル回転して考えようとしても、眠くて何も思いつかない。
このままじゃ、知らぬ間に放課後を迎えて、チョコが鞄の中に眠り続ける未来しか見えないぞ。川村さんにせっかく教わったチョコレート、上手にできたから渡したいのに。
だいたい、先程言ったトリュフチョコを渡した友人とはクラスの皆のことで、つまりクラスの中で彼にだけ渡せていないのだ。あ、昨日一緒にチョコを作った川村さんにも渡してないけれど。
とにかく放課後までに渡す方法を考えないと。
「…〜〜!」
「…さ!!」
なんだか周りが騒がしくなったような気がする。
「あずさ、避けて!!」
「え、」
「宮田さん、危ない!」
突然体に大きな衝撃が走り、誰かに突き飛ばされたのだとわかった。ハッとした瞬間に目に映ったのは周囲の心配気な眼差しと、転がるサッカーボール、そして私の傍に倒れる緑川の姿だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます