第10話


「──どうして二年後だったのかしら……?」


 ふと呟いたミランダにフィリップが同意したようにセシリアを見た。

「それもそうだ。むしろミランダとの挙式当日に目が覚めたと言われた方が、納得がいく」

「えっと、それは……」

 

 それを受け、セシリアは口籠った。

 視線を彷徨わせるも、有無を言わさないフィリップの眼差しに射抜かれ、渋々と口を開く。

「フィリップ様のお父様……ガルシア侯爵が亡くなった為、です」

 その言葉にフィリップははっと息を飲んだ。


 ガルシア侯爵はフィリップが眠り続ける姿に失意を覚え、段々と痩せ衰えていったのだそうだ。

 そしてそのまま二年後、帰らぬ人となった。


 それを受けミランダが葬儀に参加した事。それがフィリップが目覚めるきっかけとなった。


 その場でもミランダはフィリップに会う事は叶わなかった。

 けれど彼の眠る部屋の、開け放たれた窓から、その声が届いたのだ、と──


「……そう、フィリップ様は仰っておりました」

 躊躇いがちに口にしたセシリアにフィリップは口元を抑えた。

「やっぱり僕を起こしたのは、……ミランダ」

「なら、私がフィリップ様に無理矢理にでも会えば……っ」

「ですが……」

 

 異を唱えるのはイーサンだ。

「代理とは言え侯爵家を出し抜くなど……それに、フィリップ様が目を覚ましたのは、単純に二年後に治ったからかもしれません……」

「それは……」

 言いにくそうに口にする彼に、ミランダは視線を彷徨わせる。

「無茶をして侯爵家の不況を買ってしまえば、モリス伯爵家には私の傷より酷い醜聞が待っていそうね」


「大丈夫だ」

 落ち込むミランダの肩に手を置き、フィリップはそっと力付けた。

「そんな未来は僕が覆す。君と結婚するのは僕だ」

 そのままくるりと首を巡らせ、セシリアと目を合わせる。

「大事な事を教えてくれてありがとう。君のおかげで最愛を守れそうだ」

「……っ」

 それを見てセシリアは泣きそうな顔になってしまい、ミランダは慌てた。

「フィリップ……それはちょっと……」

 彼女は彼の為に回帰したと言うのに。

「いいわ!」

 けれど叫ぶセシリアに驚き見れば、彼女は泣き顔を強張らせたままドンと胸を叩いた。

「私に任せなさい!」

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