第480話 それぞれの視点
――――南下しながら ドラゴン達
ドラゴン達が抱えていたのは焦りだった。
瘴気がなければ呼吸が出来ない、瘴気がなければ成長出来ない、そもそも瘴気がなければ産まれることも出来ないドラゴン……モンスター達にとって瘴気を広げることは生きることと等しい行いだ。
生業、営みと言っても良い、それが滞るのは彼らにとって生死に関わる大問題で……そしてその大問題が今、発生しつつあった。
その地を制覇することは南下のために必須と言われている。
そこにある―――があれば―――を制したなら、南下の成功は約束されたようなもの……何度かの攻撃で成果を上げ、これから本格的に攻勢を……という所で、何かが起きて、何かが変化して、ある時から一転して攻撃が成功しなくなってしまった。
そこには大した戦力がないはずなのに、今まで瘴気を阻んでいた邪神は傷つき眠っているはずなのに、何故だか攻撃が成功しない。
戦力が少なかったのかと数を増やしても成功しない、最高戦力を投じても成功しない。
少し前に本能を克服している3体のフレイムドラゴン達でもって、一体南で何が起きているのか、情報を手に入れようとしたが……まさかの3体とも帰還せずという結果。
帰還しなかった以上やられてしまったのだろうが……一体何がどうなったらそんなことになってしまうのか。
ドラゴンの中でも本能を克服した個体は稀にしか現れない。
その個体は本能に逆らっての行動が可能で、殺意を抑えて冷静な判断が可能で、敵を前にしても帰還という選択を取ることが出来て情報収集には最適……なはずだったのだが、その全てが未帰還というのは、常識的に考えてあり得ないことだった。
空を自由に飛び回れるのに、何かがあったなら即座に帰還出来るはずなのに……まさか同時にやられてしまったとでも言うのだろうか?
それこそあり得ない話だった、あの化け物でもそんなことは不可能で……一体何がどうなったらそんなことになってしまうと言うのか。
何かが起きているが、何が起きているのかが分からない、そこに何がいるのかが分からない、どうしたら良いのかが分からない。
焦りに焦ったドラゴン達の出した結論は、より多くの戦力を揃えての一斉攻撃で……それこそが彼らにとっての神の決断だった。
神はある程度、南で何が起きているかを把握しているらしい、フレイムドラゴン3体がどうやってやられたのかも知っているらしい。
だがその詳細を教えてくれることはない。
自らで調べろと突き放すばかりだが……それでも攻略のための作戦は立ててくれる。
敵の本拠を狙ってはいけない、まずは敵の力を削ぐことが肝要、それらが成れば神による精神攻撃でもって、一番厄介な敵を排除してみせる。
神がそう言うのならば……神がそう望まれるのであればと、ドラゴン達は南へと向かって突き進んでいた。
そして気の逸った何体かが先行する形で南に向かっていく。
焦りに突き動かされて必死の形相で南に向かい……他のどの個体もそれを止めることはない。
気持ちは分かる、心中の奥深くで渦巻く営みをしなければという焦りと、神からの期待に応えなければという義務感の強さで、他の誰が暴走したとしても驚くことはないだろう。
そして……ドラゴン達はそれぞれの狙いへと向けて進路を変える、中央を避けて他に向かう……が、焦りのあまりなのか、先行したうちの何体かが中央へと進んでしまう。
神に行くなと言われたのに、それでも進んでしまって、そこで瘴気にまつろわぬ者共を見つけて本能が襲えとの命令を下す。
そうなってしまったらもう止まることはない、ただただそれらに向かって突き進むのみ。
突如足元から風が吹き上がってきても、その風がどうして起きたかなんてことまで考えが至ることはない、その風の中に砕かれた石粒が混じっていたことに気付くこともない。
……その石粒が自分達がよく知る神の石……魔石であることにも気付かない。
砕かれてもそれらには瘴気が込められている、瘴気には特別な力があり、それはまつろわぬ者共が利用する魔法によく似た力となっていて……足元で風を起こした奴らが、風を巻き起こしたまま小さな炎を作り出す。
その炎は巻き起こる風に取り込まれ、風と一体となりながら吹き上がり、風の中に散る魔石の破片に着火し、そして一気に炎が、魔法が魔石から漏れ出た瘴気が燃え上がる。
炎を吐き武器とし、炎の一族と言っても良いドラゴン達だったが、その火力と熱量には圧倒されてしまい、あっという間に体が燃え上がってしまう。
どうにか翼を振るって体をひねり、炎から逃れようとするが、どう動いても風と炎が追いかけてきて……そして熱に耐えられなくなった者達から力を失い落下していく。
炎に特別な耐性があるフレイムドラゴンであってもそれには耐えられなかったようで……そうして神の忠告を無視した一団は、なんともあっさりと討ち取られてしまうのだった。
――――落下するドラゴンを見やりながら マヤ達
「まさかウィンドドラゴンだけでなくフレイムドラゴンまで倒せちゃうとはねぇ……流石に驚いちゃうねぇ」
と、イルク村の広場に円陣を組んで立ったマヤが声を上げると、他の婆さん達からきゃぁきゃぁと歓声が上がる。
「これであたし達もドラゴン殺しだよ!」
「まさかこんなに上手くいくとはねぇ!」
「マヤ様とナルバントさんの案が上手くいってくれたわぁ」
「うふふふ、きっとディアスちゃんも驚いてくれるわねぇ」
と、そんなことを言いながら手を叩き合う。
そんなマヤ達の周囲には婦人会やイルク村の警備を任された者達の姿があり……しばしの間、唖然としたそれらは、ズシンという音と共にイルク村の外れにドラゴン達が落下したことで意識を取り戻し、ちゃんと死んだのかの確認と素材の回収のためにと弾かれたかのように駆け出す。
「……欠点があるとしたら焼きすぎちゃうことかねぇ。
あんなに焼いてしまっても素材として使えるのか、装備になるのか……そこら辺も確認してもらわないとねぇ。
……まぁドラゴン相手に手加減出来るはずもなし、しょうがないってことなのかねぇ」
と、マヤはそう言ってから……ゆっくりと地面に腰を下ろし、そこに用意してあった道具でもって占いを始める。
他の様子はどうなのか、イルク村への襲撃はまだあるのか、ディアスはどうしているのか……などなど、気になることは山程あって、他の婆さん達も声を上げるのを止めて、占いに意識を向ける。
占いによって襲撃を予測し、待ち構え……改良し、練り上げた魔法でもって迎撃する。
そんなマヤの案は大成功と言えて……しかも練り上げた魔法はまだまだ他にも存在していた。
今の魔法は洞人族と共に練り上げたもの、セナイとアイハンと練り上げたものや、エイマと練り上げたもの、フェンディアやパトリック、ベンと練り上げたものもあり……ディアスのなんとなくの発言を元に練り上げたものもある。
それらの魔法全てが強力無比なものとなっていて……そのことを思い出したマヤは占いの途中だと言うのに思わず笑みをこぼしてしまう。
王宮で研究していた時にはこんな方法思いも寄らなかったのに、少し外に出て他と交流しただけで、こんなにも発展してしまうなんて……。
世の中分からないものだと更に笑みを深くしたマヤは、占いの結果を受けて笑みを微笑みへと変えて……そして皆に一言、
「安心して良いよ」
との言葉をかけるのだった。
――――???? ドラゴン達に神と呼ばれる者
その存在はドラゴン達と意識を繋げることが出来る。
その存在はドラゴン達の目を通して遠方で何が起きているかを知ることが出来る。
かなりの数のドラゴンを村の上空で失って、大きな失望を抱いたその存在は、南方各地に散った……単独で動いているドラゴン達へと意識を繋げる。
空を舞い飛ぶドラゴン、大地を踏みしめるドラゴン、次から次へと繋ぎ先を切り替えて情報を集める中で、あるドラゴンに意識を繋いだ瞬間、そのドラゴンの命が絶たれてしまう。
あっという間の出来事で、何が起きたかを認識する間もなく討ち取られてしまったようで……一体何が起きたのだと小さな驚きを抱きながら次のドラゴンに意識を繋げる。
と、またも命が絶たれ繋がりが絶たれる、空を飛んでいようが大地を踏みしめていようが関係なく、ありとあらゆるドラゴン達が命を奪われていく。
一体何が!?
驚きだけでなく焦りを抱いたその存在が次々に意識を繋いでいくが、繋いだ先が次々に討ち取られてしまう。
これはただ事ではない、明らかに大きな力を持った何かが関わっている。
もしかして邪神か? 邪神が動き出したのか? しかしかの邪神であってもここまでの無茶は出来ないはずで、どうにかして何が起きているのか、何者がそれを成しているのかを探ろうとする。
そのために次々に意識を繋いでいく……繋いだドラゴンの命が絶たれる前に、どうにかその主犯の姿を見やろうとする。
そうやって意識を繋いでいって……あるアースドラゴンに意識を繋いだ瞬間、その主犯と思われる何かが視界に入り込む。
金色の鎧を身にまとい、大きな戦斧を振り上げて、黒毛の馬に跨る何者か。
それは凄まじい形相でもってアースドラゴンに迫ってきて……アースドラゴンが吐き出す炎を全く意に介さずに肉薄し、強烈な一撃でもってアースドラゴンの命を断つ。
『あの姿、まさかあの邪王が蘇ったのか!? 建国王を名乗るあの化け物が!?』
そんな声を上げたその存在は悔しげにその身を捩らせ……同時に今回の襲撃の失敗を悟り、全てを諦め興味を失い……そうしてドラゴン達との意識の繋がりを断って眠りにつくのだった。
――――
お読みいただきありがとうございました。
ここからしばらくはディアス以外の視点が続く予定です。
次回は多分、関所関係になります
そしてお知らせです。
コミカライズ12巻の予約が始まっています!
発売日は 1月10日
来年の発売となります!
今回もオマケいっぱいとなっているはずなので、ご期待いただければと思います!
表紙などなど情報が公開となりましたら、またお知らせさせていただきます!
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