第414話 それぞれの朝と話し合い
――――朝食後 モント
前夜の余韻か、賑やかさが残る朝食を終えてモントは、セナイ達の仕事を手伝うために小川近くの洗い場へとやってきていた。
洗濯場の近くにある食器を洗うためのそこにある椅子に腰掛け、セナイ達が洗った食器をメーア布で丁寧に拭いて、食器カゴへとしまっていく。
そうした作業を繰り返し……汚れた食器がなくなるとセナイとアイハンが、
「手伝ってくれてありがとう!」
「ありがとうー!」
と、元気な声を上げてから、カゴを抱えて竈場へと駆けていく。
その後姿をモントが柔らかい笑みで見送っていると、そこにジョーがやってきて、声をかけてくる。
「なんだか良からぬことを企んでるそうですが、どうしたんです? 突然?
獣人国に近所付き合い以上の興味は無いと思っていたんですが……」
「新婚だってのにこんなとこ来てんじゃねぇよ、嫁さんはどうした嫁さんは……。
……まぁ、アレだ、獣人国への興味は今も大してないが、あそこには連中がいるからな……あの方々を追い出した連中、分かるだろ?」
椅子に腰掛けたまま義足の手入れをしながらモントがそう返すと、思い当たることがあったのか目を細めたジョーがモントの側に近寄り、小声で続けてくる。
「……セナイ様とアイハン様とご両親を追い出したっていう森人族ですか?
まさか、獣人国に入り込むついでに連中に報復してやろうってんじゃ……」
「んな訳ねぇだろうが、こんの馬鹿野郎が。
そんなことすりゃぁディアスはもちろん、セナイ様達だって許しちゃくれねぇだろう。
そうじゃぁなくてだな……連中に見せつけてやりたいのさ、俺達のことを。
そして迂闊な手出しをしたらどうなるのかを思い知らせてやる……つまりはまぁ、お互いのためって訳だ。
そうしておけば変なトラブルを起こそうって気もなくなるはずで、連中がディアスを怒らせてしまうような事態にもならねぇはずだしな」
モントが同じく小声で返すと、ジョーは目を丸くしてから納得した顔となって頷き……それ以上は何も言わず、軽く手を振ってからその場を後にし、家族が待っているだろうユルトへと去っていく。
(……ま、それでも連中が行動を起こす可能性がある訳だが、獣人国で暴れて俺達こそがメーアバダルの代表だと見せつけてやれば、ここじゃぁなくて関所の方に意識を向けるはずだ。
そうやって囮になるまでが今の俺に打てる手って訳だ……ま、ディアスが獣人国行きを許すかはまだ分かんねぇんだけどな)
ジョーの背中を見送りながらそんなことを考えたモントが義足の手入れを続けていると、その様子を困っていると見たのか、犬人族達が駆けてきて、モントのことを手伝うと申し出てくる。
それを受けてモントは苦笑しながら礼を言い……そろそろ時間かと、犬人族達の手を借りながらゆっくり立ち上がるのだった。
――――同じ頃 倉庫前で エリー
「イービリスさん、これから私達はあなた達から仕入れた魚を隣領や獣人国に売るつもりだけど、あなた達が彼らに直接売っても良いということを忘れないでちょうだいね。
私達を通さなければその分だけお客様は安く塩魚を手に入れることが出来て、あなた達が手に入れるお金も多くなる……そういう意味では私達を通す意味なんて無いとも言えるの。
あの上質な塩魚をうちでだけ独占した上で高く売りつけるなんて、そんな真っ当ではない商いは、あっという間に破綻してしまうもの……商人としてそんな真似するつもりはないわ」
倉庫で空樽と岩塩を砕いた塩を用意しながらエリーがそう言うと、樽の数などの確認をしていたイービリスが目を丸くしながら言葉を返す。
「それは……良いのか?
樽に塩、ハサミも用意してもらっておいて他所に売るなど……。
東国などで取引のある我らとしては助かるばかりだが……」
「もちろん、良いに決まってるじゃないの。
色んなとこに売って儲けてゴブリン族を豊かにして、その豊かさでもって今よりも良い商いをしてもらればうちとしては文句はないわ。
そうやって儲かるとなったら、漁に精を出す人も増えるはずだし? 活発になった漁の中で更に魚を美味しくする手法が見つかったりするかもしれないじゃない?
いざという時に頼れる隣人が豊かで力を持っているというのは、それだけで利点になる訳だし……変に気を使って萎縮しないよう、お願いするわ」
そもそも良い買い手がいるのに商売を禁止するなんてこと、やろうと思っても中々出来るものではない。
法で禁止したとしても、法をかいくぐってでも売ろうとするのが商人というもので……その辺りのことをよく知っているエリーの言葉にイービリスは、深く感嘆した様子で頷き、喜色に満ちた声を返す。
「つくづくメーアバダルとの縁は我らにとっての宝であると思い知らされる。
言葉の通り萎縮せず、誇り高く……エリー殿の言うところの良い商いをするよう、心がけさせてもらおう。
……そちらの事情を鑑みて、しばらくはメーアバダルとの取引を優先するというのも、良い商いであり誇りに反することではないのでな、恐らくはそういう形となることだろう」
その言葉を受けてエリーもまた感嘆した様子を見せて……表情と声で喜色をにじませ、
「ありがとう、本当に助かるわ」
と、そんな言葉を返すのだった。
――――それから少しの時が経っての集会所で ディアス。
朝食を済ませ、それぞれすべき仕事をこなし……それから獣人国の事態にどう対応すべきかの話し合いが行われることになった。
参加するのは私、アルナー、エイマ、モント、マヤ婆さん、ヒューバート、マスティ氏族長のマーフ、ナルバント、エリー、ゴルディアとなる。
他にもベン伯父さんやフェンディア、マスティ以外の各氏族長や鷹人族のサーヒィも代表者として参加することが出来たのだが……興味が無いなどの様々な理由で参加はしていない。
各氏族長やサーヒィは興味が無いそうで、参加しない以上は話し合いで決まったことには粛々と従うと言っていて……伯父さんやフェンディアは他国との戦争になるかもしれない場には神殿関係者は相応しくないと言っての不参加だ。
聖人ディアが建国王と距離を取ったように、そういった政治的な判断をする場に神殿関係者は関わるべきではないとかで……私の伯父として相談に乗りはするが、それ以上のことはしない……そうだ。
クラウスにも声をかけたのだが、クラウスは東側関所に集中したいと不参加で……エリーとゴルディアはどちらか片方の参加でも良かったのだが、商売が絡みそうということで二人共の参加となる。
「―――という訳で、どう対応するかなんだが……まぁ、他国に侵入したなんてことがバレて色々なとこに広まって変に揉めたりしたくはないから、獣人国に行くのはなしだろうな。
人々が飢えないよう、塩魚などの食料を売っていきたいが……これから冬というのはこちらも変わらないからな、そこまでの量は難しいのだろうな」
集会所の中央にアルナー達が編んだ丸い絨毯を敷き、ナルバント達が作ってくれた丸いテーブルを置き、そこを囲うように座った皆に獣人国で何が起きているのかを話した上でそう言うと……エイマやマヤ婆さんは頷いての同意を示してくれて、そのままの流れになる……かと思いきや、まさかのアルナーから声が上がる。
「私としては獣人国がどうなってもそこまでの興味は無いんだが……ペイジン達には昔から世話になってきたからな、出来ることなら助けてやりたいと思う。
そしてディアスの名誉や評判に関わるという話もよく分かる……訳だが、何をするにしても結局はバレなければ良いのでは? と、思ってしまうな」
そんなアルナーの言葉に驚いた私が何も言えなくなっていると、そんな私の表情を見てか、アルナーが説明を付け足してくれる。
「……ああ、何が言いたいのかというとだな、つまり隠蔽魔法で隠れてしまえばバレることもないだろうし、行ってしまっても構わないのではないか? ということだ。
実際遠征班がそれに近いことをやっているしな……何だったらゾルグに話を聞いてみると良い。
遠征班の仕事で獣人国にも何度か行ったことがあるはずだし、道案内なんかもしてくれるはずだ」
付け足された説明は更に驚かされるもので、それを受けて私や……エイマやヒューバートなんかも大口をあけての驚愕一色の顔をすることになり、しばらくの間……何も言えなくなってしまうのだった。
――――
お読みいただきありがとうございました。
続きは話し合いの続きやら何やらの予定です。
そしてご挨拶です
あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いいたします!
去年もその前からも、領民0シリーズを応援していただき、本当にありがとうごあざいます!
今年もまた皆様に楽しんでいただけるよう頑張っていきますので、ご期待いただければと思います!
そしてそして別作品関係のお知らせです。
現在小説家になろうなどで連載中の
『転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です ~楽園目指して狩猟開拓ときどきサウナ~』
書籍版が1月6日に発売となります!
領民0とはかなりテイストの違う作品となりますが、鬼人族とはまた違う遊牧民を書いたりもしていますので、興味がある方は書店などでチェックして頂ければ幸いです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます