第395話 鉱山
今年は人数が増えたこともあって忙しい冬備えになる……と、思っていたのだが、どうやらそんなことはないようだ。
ジョー達が領民になったことで人手はこれでもかとあるし、地下倉庫や保存壺のおかげで食料の長期保存が可能……各地の畑も順調で、エルダンやペイジンから神殿建立のお祝いと言うことで山程の食料をもらいもした。
そんな訳で今年はかなりの余裕があるとかで……森に出かけるアルナーとセナイ達は、去年程力が入っていないと言うか、なんとも楽しげな様子での行楽気分となっていた。
今年の森の中はセナイ達が丹念に手入れしたことで、かなりの量の木の実やキノコなどの森の恵みが実っているそうだ。
森の恵みが豊富なおかげで動物もかなりの数がいる上に肥えているとかで……採取だけでなく狩りにも期待が出来るらしい。
あの特別美味しいキノコの収穫にも期待が出来るし……森が大好きなセナイ達にとってもアルナーにとっても、待ちに待った一大イベントという訳だ。
私としても森に行くのは楽しみだった……のだが、冬備えの初日の朝食後、私は一人でベイヤースに跨り、森とは反対側の西側関所の方へと足を進めていた。
そうなった理由は二つあり、一つは人手は十分に足りていて、領主である私がわざわざ冬備えをする必要はないということと……もう一つは鉱山がようやく本格始動したとかで、その確認をして欲しいとナルバント達に言われたからだった。
西側関所から北に向かった、山の中腹辺りに作られた鉱山では早速採掘が始まっているとかで、かなりの量の鉄鉱石が手に入っているらしい。
その質は中々良いとかで、洞人族の誰もがごきげんとなっていて……その辺りのことを領主である私に直に見て欲しいんだそうだ。
頑張って作った鉱山を見て欲しい、上質な鉄鉱石を見て欲しい、それでもってこれから作っていくつもりの様々な道具を見て欲しい……その頑張りを評価して欲しい。
それは正当かつ当然の要求だと言えて、それに応えるのは領主としての大事な仕事であり……森に行きたい気持ちをぐっと抑えて足を向けているという訳だ。
ついでに西側関所の周囲に作ったという畑の様子も確認し、どれくらいの収穫量が見込めるかなどの確認もするつもりで……移動も考えると一日がかりの仕事となりそうで、森に行けるのは明日以降になるだろうなぁ。
……まぁ、鉱山がどんな感じになっているのかは興味があるし、これはこれで一つの行楽なんだと思って楽しむとしよう。
ベイヤースも遠出をさせてやると喜んでくれるし……草原の秋の涼しく爽やかに吹く風はなんとも心地がよく……うん、これはこれで悪くはないのだろう。
そんな訳でベイヤースの好きなペースで街道を西へと進み……関所が見えてきた辺りにある分かれ道を北に進む。
その道は鉱山に向かうために作られたものとなっていて……洞人族が作っただけあって、街道と変わらないくらいのしっかりとしたものとなっている。
街道に比べると細くはあるが、馬車一台くらいなら悠々と通ることが出来そうで……その道をまっすぐ進んでいると、道の左右に作られた石造りの塀が視界に入り込む。
それ程の高さではないが、かなり分厚く……城壁のようにも見えるそれは……ああ、モンスター対策のものか。
北の山にはモンスターが多く、そこに鉱山を作るとなれば当然対策が必要で……その辺りのことはナルバント達が任せてくれと、そう言っていたので任せていたが……なるほど、鉱山までの道もしっかり守る必要がある訳か。
地面に生える草が減り、むき出しの地面が見えてくるようになると、その壁は更に分厚くなっていくが……高さだけは変わらず低いままだ。
……何だってあんなに低く……?
……ああ、なるほど、背の低い洞人族が防衛用に使うからあの高さなのか……。
するとあの壁を利用して槍を突き出すとか、そんな攻撃をするつもりなのかな……?
なんてことを考えていると、今度は壁の内側に設置された……バリスタと思われるものが視界に入り込む。
「ば、バリスタでモンスターを迎撃するつもりなのか……。
未完成というかパーツが足りないように見えるのは……作りかけなのかな?」
その光景は異様と言えて思わずそんな独り言が口から漏れる。
すると壁の向こう側にしゃがみこんで作業をしていたらしい洞人族がちょこんと顔を出し、疑問の答えを返してくれる。
「こりゃぁわざとこうしとる。
使うときにはパーツをもってきてはめ込んでつかうんだ、そうじゃねぇと野盗とか、そんな連中に悪用されるかもしれねぇだろ?」
「な、なるほど……。
ちなみにだが随分と厳つい作りだが、威力はどれくらいのものなんだ?」
「そりゃぁアースドラゴンの甲羅を貫通するくらいにはしてあらぁよ。
発射機構としては普通のもんと魔石式のがあって……魔石式のが威力がたけぇな。
……魔石でどうやってバリスタを発射できるのかって? 理屈としちゃぁ魔石炉と変わらねぇんだが……ま、そこらは長に聞いてくれや」
私が言葉を返すと洞人族はそう言って……途中私が抱いた疑問にも先んじて答えを返してくれる。
「そうか……ありがとう、ナルバントに聞いてみるよ」
そう言葉を返したなら、足を止めてくれていたベイヤースに先に進んでくれと合図を出し……バリスタを左右に構えた、砦の歩廊のような道を更に進んでいく。
その道は段々と坂道になり、山を登り始め……岩だらけの岩肌を進んでいると、今度は道の左右に、岩で作った小山のような小規模の砦が見えてくる。
これも石造り……王国の塔や砦、西側関所とは全く別の造りになっていて、なんとも野趣溢れる趣だ。
雑に石を積み上げて小山を造り、中をくり抜いて空洞を作った感じと言ったら良いのか……屋上に設置されたバリスタが無かったら砦と言うか建築物とは思えないような外見となっている。
洞人族が作ったものなのだから、しっかりとしたものなのだろうけど……うぅん、凄まじい外見だなぁ。
そんな砦は道の左右だけでなく、離れた場所にも作られているようで……本気で亀やらを迎撃するつもりのようだ。
たまに上に向けられたバリスタがあるのは……フレイムドラゴンやトンボ対策なのかもしれないなぁ。
そういった砦が増えると同時に、壁の高さが増していって……砦で迎撃するから、壁は高くても平気ということだろうか?
一体いつのまにこれだけのものを作ったのやら……材料の石材はそこら辺に転がっているとは言え、驚くやら感心するやら、洞人族の凄まじさを改めて痛感するなぁ。
そんな一帯を通り過ぎると『この先鉱山、危険につき立ち入り禁止』と書かれた看板があり、その看板の向こうに、先程の砦を大きくしたような岩の山がいくつも並んでいて、そこに作られた煙突からは煙がモクモクと上がり、鉄鉱石の精錬でもしているのか、ガンゴンガンゴン凄まじい音が聞こえてくる。
そんな岩山の中央を貫くように木と鉄で作られた不思議な道があり、その道の向こうには山壁に開けられた大穴があり……ようやく目的地に到着したようだと小さなため息を吐き出した私は、ナルバントから鉱山の主に任命された洞人族の若者を探して視線を周囲に巡らせるのだった。
――――あとがき
お読みいただきありがとうございました。
次回はこの続き、鉱山やら何やらです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます