第373話 積荷を確認し


 世話のために馬が厩舎の方へと連れて行かれ、残った馬車の……そこから降ろされた積荷の周囲に村中の皆が集まってくる。


 アイサとイーライ、犬人族達、洞人族、警備のためにイルク村にやってきていたジョー隊、そして手伝いをするとやってきてくれたゴブリン達も参加しての荷運びが始まる。


 その様子をチラチラと見ながら目録の確認をダレル夫人と……倉庫で積荷の受け入れ準備をしてくれていたらしいヒューバートと共に行う。


 商売ではないので詳細な数の確認は後回し、大体の数と内容を確認していって……複数枚の目録にびっしりと書かれた積荷の名前をざっと見た私は、やっぱり量の多さが気になってしまい、カマロッツに声をかける。


「カマロッツ……神殿のお祝いにしてはその、量が多すぎないか?

 今までで一番の量になっているようなのだが……」


 するとカマロッツは涼しい顔をしたまま、そう言われることは想定済みだとばかりにスラスラと言葉を返してくる。


「以前足を運んだ時とは見違える程に大きくなり領民の数も増えたイルク村に贈り物をするとなれば、当然その規模に見合った量を用意しなければとのエルダン様のお考えでして……加えて現在のマーハティ領内は好景気、無理をして揃えたという訳ではありませんので、どうかお気になさらず。

 それと新たな神殿の建立を喜び、祝いたいというのもわたくし共の本音でございまして……今、王都の方で主流となっている教えを受け入れることは出来ず、かといって古い教えにも問題があり、八方塞がりとも言える状況の中、神が降臨し神殿が建立されたというのは、まさに神々の慈悲であり救いの手なのです。

 わたくし共の一員であるスーリオ達の前にご降臨されたというのも決して偶然ではなく、神々のご意思あってのことに違いなく、そのことに対する感謝を示すことは当然のことでございましょう」


 ニコニコと微笑み、一切の淀みなくそう言ってきて……そこが逆に怪しいというか、何か隠していることがありそうだったが……悪意は感じられないし積荷の側までいって確認をしているアルナーが特に何も言ってこないので、まぁ良いかと素直にその言葉を受け入れ、口を開く。


「そうか……そう言う事ならありがたく受け取らせてもらうよ。

 ところで……目録の最後の方にあるこの家畜についてなんだが、目録にはヤギやら白ギーやらの名前があるが、姿が見えないのは何故なんだ?」


「家畜達につきましては、いきなりこれだけの量を連れてきてしまうのもご迷惑になるかと考えまして、ひとまずは所有権をお譲りするという形にさせていただきました。

 目録にある家畜達は全て大切な預かり物として、エルダン様のお屋敷の方で世話をしておりまして、連れてきて欲しいと連絡があればすぐにでも運搬できるよう支度をしてあります。

 もちろん市場でお売りになっても構いませんし誰かに譲渡しても構いませんし、マーハティ領に来ていただいて肉にし、お食べになって頂くという形でも全く問題ありません。

 いつまでもそのままというのも問題がありますので、今年のうちにどうするかの判断をいただければとおもいます」


「なるほど、そういう感じなのか……。

 ちょうどロバやヤギ、白ギーなんかの家畜を買い足そうと考えていたところだから助かるよ。

 そして食料がずいぶんとあるみたいだなぁ……そう言えばカマロッツ、最近私達はかなりの量の食料をそちらの市場で買い付けているんだが問題はないか?

 領民が増えた分だけ食料消費も増えてしまってなぁ……畑や狩り、森での採取も限界があってそちらに頼り切りって感じなのだが、それで食糧不足やらの負担をかける訳にもいかないし……負担になっていないか気になっていたんだ」


「いえいえ、問題どころかありがたいばかりです。

 戦争が終わり兵糧としての買い付けもなくなり……それでいて働き手が畑に帰ってきたからと各地で豊作となっておりまして、売り先に困っているくらいなのです。

 そんな中、毎回多くの食料を買い付けていただけると商人や農園主は当然として、エルダン様も大変なお喜び様で……買い控えなどされてしまいますとむしろ困ってしまうような状況ですので、今後もご贔屓にしていただければと思います。

 もちろん大量購入への感謝として割引などできる限りの対応をさせていただきますので」


 そう言ってまたも微笑むカマロッツ。

 今度の微笑みは何かを感じることのない、裏のなさそうなものとなっていて……それなら良かったと頷き、積荷の確認を進めていく。


 ある程度の確認と運搬が終わると手が空いた皆や護衛達が休憩を取り始め、そこに婆さん達が茶を淹れてもってきたりして、なんとも緩んだ空気が流れる。


 エルダン達が祈祷を終えて帰ってくるまでは小休憩、誰かがそう言うまでもなく、皆が自己判断で休憩し始め……そんな中、1人のマスティ氏族の若者が両手で抱えるくらいの結構な大きさの……豪華な金の飾りがついた木箱を持ってこちらへとやってくる。


「ディアス様! なんか豪華ですよ! これは倉庫よりディアス様のユルトに運んだ方が良いですか?」


 やってきて思いっきり木箱を持ち上げて私に見やすいようにしてくれながら、そう言ってきて……私はその場に座り込んでから木箱を受け取り、若者にも見えるように木箱の蓋を開ける。


 するといくつかの革袋が入っていて……一つ手にとって口を開いてみると、かなりの量入っているらしい宝石が姿を見せる。


「おぉー! 綺麗ですね、ディアス様!

 こんなのがたくさん入ってるんですねー……すごいなぁー、これならやっぱりディアス様のユルトかな? あそこが一番安全ですもんね!」


 輝く宝石を覗き込み、自分の目も輝かせながら若者がそう言ってきて……私はそんな若者の頭を撫でてやりながら言葉を返す。


「そうだな、私のユルトで保管することになると思うが、宝石の扱いならアルナーに任せるのが一番だからアルナーの所に持っていって、どうするのが良いか確認してくれるか?」


 そんな私の言葉を受けて若者は大きく頷いて、革袋の口を締め木箱の蓋をしっかり閉めると、大事そうに木箱を抱えてアルナーの方へと駆けていく。


 それを見送ったなら立ち上がり……ズボンについた土や草を払っていると、馬車の近くで休憩しながら、こちらの様子を見ていたらしい護衛の1人がスッと立ち上がり、こちらへとやってくる。


 毛皮製のかなり裾の長いローブを身にまとい、靴も毛皮ズボンも毛皮、とにかく毛皮で全身を包んだといった服装で、顔も毛皮に包まれている。


 イノシシそっくりの顔を見るにイノシシの獣人なのだろう、立派な牙もしっかり生えていて……表情や雰囲気からなんとなく同い年か少し年上くらいの男性なんだろうなぁということが分かる。


 そんな獣人は私の側へとやってきて、私のことをじぃっと見やってきて……その表情と態度に覚えがある私は何も言わず……ただただその獣人の目だけを見つめるのだった。



――――あとがき



お読みいただきありがとうございました。


次回は別視点、最後に出てきた彼やら、神殿でのエルダンやらになります。



そしてお知らせです。


本日6月12日はコミカライズ9巻の発売日です!


各書店、電子書籍サイトなどで絶賛発売中ですので、ぜひぜひチェックしてください!


今回もオマケ満載で……ここでは言えませんが色々なあれこれがありますよ!



応援や☆をいただけると、隣領の家畜達の元気さが増すとの噂です。

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