第336話 絨毯についてとか

――――まえがき


登場人物紹介


・クラウス


 人間族の若者で領兵隊長、ディアスの戦友でもあり、東側関所の主。

 妻に犬人族(大型種)のカニスがいて、カニスも関所勤めをしている。

 槍の達人だがディアスには敵わないため、自己評価が少し低い


――――



 怪我やマヤ婆さん達の腰痛などにも効く不思議な絨毯。


 それの使い道を今後どうしていくかを話し合うため、それからすぐに代表者を集めての集会所での会議が行われた。


 参加者は私、アルナー、マヤ婆さん、ヒューバート、ダレル夫人、そしてたまたまイルク村に顔を見せに来たクラウスと犬人族の各氏族長達となる。


 ベン伯父さんはせっかくの客人だからとペイジン達の応対をしてくれていて……ゴルディア達など他の面々もそちらで動いてくれている。


 セナイとアイハンもペイジン達の下へと向かっていて……犬人族達の子供達やドシラドが元気に駆け回る足音や歓声が聞こえてくることから、どうやら出会ってすぐに仲良くなって一緒に遊び回っているようだ。


「……と、言う訳でこちらの絨毯には怪我を治したり痛みを緩和したりする能力が備わっているようです。

 痛みの緩和というよりも見えない部分の怪我を治しているのかもしれませんが……残念ながら自分は医者ではないのでその辺りの判断は出来かねます」


 集会所の中央に絨毯を広げて、それを囲うように車座になっての会議で、ヒューバートがそう説明を終えると……普段はあまり意見を言わない、少なくとも真っ先に意見を言うことのないクラウスが手を挙げて口を開く。


「俺から良いですか? ディアス様はこれをマヤ婆さん達のために使ったそうですけど……それが正解だと思います。

 むしろそういった方法以外での使用は厳禁にすべきだと思います」


「……それはまた、どうしてでしょうか?

 領兵隊長であれば軍事などでの利用を望むとばかり思っていたのですが……」


 ヒューバートがそう返すとクラウスは表情を固くしながら言葉を返す。


「仮にこれを戦争に使ったとしたら、酷いことになりますよ?

 これがあるから無茶をしても平気だ、これがあるからこんな作戦もいけるはず、これがあるからもっともっと戦えるはず……と、無茶苦茶なことをし始めてそれが当たり前だと思うようになって……治るとは言え怪我の繰り返しは心にも負担をかけてしまうことでしょう。

 そんなことになればまず間違いなくおかしなトラブルを招いてしまいますよ。

 モンスターが襲ってきたとか、どこから襲撃を受けたとかで負傷したのを治すのは良いと思いますが、軍事に利用というのは絶対に禁止するべきかと」


 戦争に参加した経験があり、今も最前線でメーアバダル領を守っているクラウスの発言だからこそ、その言葉には特別な重さがあり……便利の道具のように考えていたらしいヒューバートもその意味を理解したらしく固い表情となる。


 そうして皆が考え込み始めて、何も発言をしなくなって……ユルトの外から子供達のはしゃぎ声が聞こえてくる中、マヤ婆さんがいつもよりも少しだけしゃっきりとした様子で口を開く。


「あたし達としては節々の痛みを取ってもらえてありがたいったらなくてねぇ、戦争に使わないでこういった使い方をするというのは賛成だねぇ。

 それに……よく考えてみるとこの、体の外も中も治して痛みを取ってくれるこの絨毯は、戦争に使うよりもうんと良い使い方があるんじゃないかねぇ」


 そう言ってマヤ婆さんは私達のことを見回し……それに釣られる形で私も皆のことを見回し、直後アルナーとダレル夫人がハッとした表情となり、同時に声を上げる。


「出産か!」

「出産ですか!」


 それを受けて満足そうに頷いたマヤ婆さんは、細い手を絨毯に伸ばし撫でながら言葉を続ける。


「出産の際の出血で母親が亡くなったり子供が亡くなったり、そういうことはどうしたって起きてしまうものだからねぇ……。

 安産続きのイルク村でもいずれはそういうことが起きてしまうはずで……その際にこれがあったらどれだけの助けになることか。

 出産の場に坊やを産屋に入れてしまうという問題もあるけど、そこはまぁ……ユルトの外から腕だけ入れて発動させるとか、目隠しをするとか色々手があるからねぇ、問題はないんじゃないかねぇ」


 その言葉にアルナーとダレル夫人は力強くうんうんと頷き……ヒューバートもまた力強く頷き、声を上げる。


「なるほど……出産の成功率が上がるというか、安産が確約されている訳ですから、その分だけ人が増えて、領全体が活気付いて……結果的には軍事利用以上の効果が期待出来そうですね。

 人だけでなく家畜の出産でも使って安定的に数が増やせるのなら……ここには食べきれない程の牧草がありますし例の白い草もありますし……メーアバダル領が家畜の一大生産地となれるかもしれませんね」


 それを受けてクラウスも頷き……犬人族達は何かよく分からないけど、家畜が増えるのは嬉しいと頷き……続いて頷いた私は、家畜が増えたイルク村の光景を想像しながら口を開く。


「家畜が増えて……増えてきたら売ったり肉にしたりしていって……。

 消費しきれなかったら荒野の岩塩で塩漬けにして……場合によっては肉を氷とかで冷やしながら運搬して両側の関所や、エルダンの所や獣人国に売って……。

 馬は高く売れるからそのまま売って……軍馬の教育をコルム達にやってもらって軍馬として売っても良い訳か。

 でも売りすぎると隣領の牧場が困ってしまうだろうから……獣人国に売れば良い、のか?」


 私の言葉を途中までをうんうんと頷き、嬉しそうに聞いていた皆だったが、最後の一言で肩透かしを食らったかのように崩れて頷くのを止めて……それから全員が順番に、私に向かって声を上げてくる。


「ディアス……馬を隣国に売ってどうする」


 と、アルナー。


「ディアス様……公爵様なら軍馬を売る権利はありますが、他国にはちょっと……」


 と、クラウス。


「戦争中ではないとはいえ、他国に軍事物資を売るのは大問題になりますよ……。

 売るにしても王城の許可が必要かと思います」


 と、ヒューバート。


「ディアス様、あとで王国法について勉強し直すとしましょう」


 と、ダレル夫人。


「坊やはあれこれ考えないで、皆に任せておいたら良いんだよ」


 と、マヤ婆さん。


「鬼人族さんのところなら売れるんじゃないですか!」


「隣領が駄目ならこの前来たという貴族達の所はどうですか?」


「遠くまででもしますよ! 護衛!!」


「軍馬の教育ならお任せください」


 シェップ、セドリオ、マーフ、コルムと犬人族の氏族長達がそう続けてきて……私はなんと返したら良いか分からず、皆のことを見やりながら頭を掻く。


「……とりあえずこの絨毯の使い道については、普段は緊急時の備え件、お婆さん達の憩いとして活用し、大怪我や出産の際にも活用。

 これ前提の軍事行動はせず、出兵などがあってもなるべくは使わないようにするということでよろしいでしょうか?」


 そんな私を見てか、ヒューバートがまとめに入り……特に反対の声は上がらず、それで代表者を集めての会議は終了となる。


 会議が終了となるなり、アルナーが絨毯に触れて魔力を流したり、どんな編み方をしているのかと調べたりとし始めて……マヤ婆さんやダレル夫人もそれに参加し、ヒューバートとクラウスは今回の会議を経て気が合ったのか、あれこれと語り合いながらユルトを出ていく。


 そして氏族長達は、ユルトの外から聞こえる賑やかな声が気になって仕方ないのか、そちらの方へと駆けていって……私もそれについていくかと立ち上がり、後を追う。


 するとドシラドと仲良く駆け回るセナイとアイハンの姿があり……その側で嬉しそうにしながら子供達の様子を見守るペイジン・ドの姿がある。


「よかでんよかでん、すっかり元気になって……ここに連れてきて本当に良かったでん」


 セナイとアイハンを預かり、結構な間世話をしていたらしいペイジン・ドとしては自分の子供と元気に、仲良く遊ぶセナイ達の姿には色々と思う所があるらしい。


 あの時のセナイ達はまだまだ心の傷が癒えておらず、色々と不安定だったろうに、それでも世話をし続けたということはまぁ……それなりの情があったのだろうなぁ。


 私はそんなペイジン・ドの側へと近付き声をかけて……改めてそこら辺の話を、感謝の気持ちを込めながらしていくのだった。



――――あとがき


お読みいただきありがとうございました。


次回はこの続きやら……エルダン達やらをやれたらなぁと考えています



そしてお知らせです。

12月12日発売のコミカライズ8巻!

既に入荷している書店などがあるようです! 各電子書籍サイトでも本格的に予約開始したので、ぜひぜひチェックしてみてくださいな!!



応援や☆をいただけると、犬人族達の鼻ツヤが良くなるとの噂です。

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