第310話 洞人族流、関所の作り方


――――まえがき


・登場キャラ、単語紹介


・モール

 鬼人族の族長で女性、老婆。ディアスとアルナーには好意的だが、何か企んでいるような様子も。


・洞人族

 族長ナルバントが率いる、洞の中に住んでいたらしい一族

 身長は低くがっしりした体つき、男女問わず立派なヒゲが生えていて、そのヒゲで鉱山内のガスや毒を無毒化出来る。

 優秀な鍛冶職人であり、大工であり、石工でもあり、最近は街道造り、関所造り、神殿造りと大活躍していて……働いた分だけ酒を飲む。


――――



 あれから数日が経って……鬼人族を領民に勧誘するという話は、村の皆も賛成してくれて、鬼人族の族長モールも賛成してくれて……ひとまずは結婚話を中心に進めていくことになった。


 とは言え結婚はどちらにとっても重大な話であるので急がずゆっくり、本人達の希望もしっかり聞きながら進める必要があり……その話がまとまるまでの間は、鬼人族の若者達を雇い入れて……実際に働いてもらって、うちの領民になったらどんな生活をすることになるかを体験してもらうことにもなった。


 報酬はメーア布や金貨や食料、本人が希望するものを支払い……東西の関所とイルク村に滞在してもらい、治安維持というか警備というか、そんな仕事をしてもらうことになる。


 その取りまとめはアルナーと、自分がやると声を上げてくれたベン伯父さんが担当することになり……報酬の支払いを含め細かなことは二人に任せることになりそうだ。


 鬼人族側の取りまとめはモールとアルナーの実家がやるんだそうで……こちらに派遣しても問題ない人材が見つからないとか、人手が足りない場合は実家の誰か、アルナーの両親やゾルグ、弟妹達が来てくれるそうだ。


 ゾルグ以外の家族とはまだしっかりとした交流を築けていないし、この機会に仲良くなれたら良いなぁと思う。


 と、そんなことを考えながら手綱をしっかりと握り、私を背に乗せて早駆けをしてくれているベイヤースに指示を出す。


 今日は西側の関所予定地の出来上がり具合を確認するための外出だ。

 報告はナルバント達からあれこれと聞いていたのだけど、それだけで済ませてしまうのは問題だろうと考えてのもので……関所が終わったら神殿の方の確認にも行くつもりだ。


 ついでに出来上がったばかりの街道も走りながら確認をしていって……うん、広くてまっすぐで、ベイヤースも走りやすそうにしていて……良い出来上がりとなっているようだ。


 街道を進んで目的の西側関所が見えてきたから、そろそろ速度を緩めてくれとの指示を出し、それにベイヤースは素直に従ってくれて……ゆっくり速度を緩めていって、思っていた以上に形になっている関所の中へと入っていく。


 まず関所の土台はほぼ出来上がっている。

 地面を掘り返し踏み固め、石材を積み上げてがっしりと固定し……その上に土を盛っての土台だ。


 土台の上にまた石材を積み上げて壁とし、縄張りをして柱を建てて木材石材鉄材を、適材適所という感じで使いながら壁の中や、壁に張り付くように小屋や部屋などを作り、四角い広場を覆うような形にし……基本的には以前泊まった隊商宿のような造りとなっている。


 決定的に隊商宿と違うのは規模だろうか、まず獣人国側の壁がでかい、分厚く横に長い。


 どでかい破城槌すら簡単に受け止めてしまうに違いない規模になっていて……恐らく高さも相当なものになるのだろうが……そこまでの高さに石材を積み上げるためには山の一つか二つを切り崩す必要があるかもしれない。


「いくら洞人族が凄いといっても、この規模となると完成までに数十年は必要になるんじゃないか……?」


 なんて言葉が思わず漏れてしまう程に横長で……横長が過ぎて完成度としてはいまいちだ。


 全体で見ればかなりの量の石材を積み上げているのに高さがない、まだまだ人間一人分といった所で……そのくらいの壁が左右に長く、ずぅーっと伸びている感じだ。


 土台の上に作っている関係で、壁の向こう側から見ればもう少し高くなるのかもしれないが……それでも防衛施設としては今ひとつな出来具合となっている。


「まぁ、獣人国が攻めてくるようなことはないと思うがなぁ……」


 更に独り言、そう言いながら視線を逆側に向けてみると、草原側の壁は薄く短いこともあってか、かなりの高さとなっている。


 人間二人かそれ以上か……壁の左右には塔のようなものがあり、その上の見張り台の建造も始まっているようだ。


 そして関所へと向かって続く左右の壁も同じくらいの規模となっていて……改めて見ると関所と言うよりは、大防壁とその管理所、という印象だ。


 その大防壁の門はここだけになるそうで、そういうことなら関所としての役割はこなせるのだろうけど……うぅむ、本当に完成まで何十年かかるんだろうなぁ。


「……というか、石材の運搬はどうしているんだ?」


 まだまだ独り言、戦争中に何度か見かけた城や砦の補修の際には、石材を運び持ち上げるための仕掛けを見かけたものだが……ここにはそういったものが一切見当たらない。


 作業道具はある、作業小屋はある、鍛冶場や炉のようなものも広場にあってモクモクと煙を上げている。


 だが運搬用の仕掛けがない、吊り上げ仕掛けとか運搬用丸太とかそういったものが……。

 

 荷車とかはあるのだけどなぁと、広場を見回していると……何人かの洞人族が、大きな石材を肩に乗せてえっちらおっちらと歩いてくる。


 立方体の石材、体格の良い洞人族の大体半分ほどの大きさ、凄まじい重さとなっているはずのそれをまさかの人力で運んでいて……壁の近くまでいったならそこらに置いて、ベルトから下がっている道具袋からノミとハンマーを取り出し、なんとも荒っぽく石材の表面を削り始める。


 ガンガンガンと削って削って……ある程度削ったらまたそれを持ち上げて、まさかのまさか……軽いメーア布をそうするかのように、石材を壁に向かってホイッと放り投げる。

 

 あんな風に投げるのは私でも無理だぞと唖然としていると、その石材が壁の上にドスンと落ちて……削られた表面がなんとも上手い具合に壁の石材と噛み合って、街道作りの際に見た石材のようにがっちりと組み上がり……その上に別の洞人族が投げた石材が積み上がり、更にその上にも積み上がり……と、なんとも雑な方法で壁が出来上がっていく。


 そして石材を放り投げた洞人族は次の石材を手に入れるためなのかどこかへと向かって歩き出し……それを見ていた私は、大慌てでベイヤースをそちらの方に寄せて、その一人に声をかける。


「か、壁の作り方はあれで問題ないのか? 隙間を埋めるとか膠で接着するとか、そういったことは必要ないのか?」


 するとその洞人族は一瞬きょとんとしてから、カラカラと笑い……存分に笑ってから言葉を返してくる。


「そらぁ問題ねぇよ、石ってのは重いだろ? 重いもんがああやって噛み合うとその重さが接着剤みてぇになるんだよ。

 石の自重が石を支えて、へこみとでっぱりが噛み合うことでズレたりする心配もなく、衝撃と揺れに強い壁の出来上がりってなもんだ。

 ……確かほら、あれだ、村の厩舎も似た造りになってたはずだぞ? 石を置いてその上に、石に噛み合うように削った柱を置いて……あの柱が自重のおかげで倒れねぇのと同じ理屈だな。

 ああ、もちろん外側……獣人国側には攻城兵器を防ぐためのひと手間を加える予定だから安心してくれや。

 荒野で採れる瀝青に砂混ぜて練り上げて……そこに砕いた堅い石材を混ぜてな、壁の表面に分厚く塗りたくって乾燥させ固めたら完成よ、そうなったらもう俺ら洞人でも砕くのは難しくなるだろうなぁ! ダァーッハッハ!」


 そう言ってから洞人族は仲間に追いつくために駆けていって……それを見送った私はベイヤースの上で首を傾げ、頭を悩ませながら傾げに傾げて……。


 よく分からないがとにかくまぁ……洞人族に任せておけば関所の完成はそこまで遠くなさそうだと、そんな確信を得るのだった。





――――あとがき


お読みいただきありがとうございました。


予定していたのとは違う形になって申し訳ないです

近付いて来ている人々についてはまた次回に



そしてお知らせです。

8月18日発売の8巻の表紙が発表となりました!!

こちら近況ノートにて公開させていただきますので、チェックしていただければと思います!


早速予約も始まっており、もう少しで特集サイトも公開になると思いますのでご期待ください!


同時に領民0人スタートの辺境領主様、シリーズ累計100万部達成したことも発表となりました!


小説マンガ、の紙電子累計の数字となります!


ここまでの大台に来れたこと、全て皆様のおかげです! 本当にありがとうございます!!


これからも楽しんでいただけるよう頑張っていきますので、引き続きの応援をしていただければ幸いです!!


100万部記念ページなども追々公開されるそうなので、そちらにもご期待いただければと思います!!

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