第152話 トレント戦
トレント達の方へと駆けていって、もう少しで戦斧が届きそうな距離まで近付いた所で、敵に気付かれても問題無い距離まで近付いたということなのか、ナルバントが大声を上げてくる。
「坊! まずは儂に任せて、そこで様子を見ておれい!
儂等の戦いがどんなものか、長として知っておく必要があるじゃろう!」
そう言ってトレント達の方へと突っ込んでいくナルバントに、私が「分かった!」と声を返すと、ナルバントは猛然と斧を構えながら駆けていく。
私は足を止めて、いつでも助けに入れるようにと戦斧を構えながらナルバントのことを見守ることにして……ナルバントと、迎撃しようと動き始めたトレント達のことをじっと見やる。
トレント達にとって根は脚、枝は腕ということなのか、地面に張っていた根を引っ張り出し、かさかさと蠢かせることで思っていた以上の素早さを見せたトレント達は、その数を活かすことにしたのかナルバントを囲うように動きながらその枝をぐいと振り上げ、思いっきりにしならせてから、まるで鞭のように鋭く振るいナルバントのことを打ち据えようとする。
それに対してナルバントは、放たれた攻撃を受ける訳でも避ける訳でもなく、ただただそのまま、猛然と駆けたままその身体や頭、顔で持って受け止める。
バシィィンッ!!
という激しい音がトレントの枝の数だけ響き渡るが、ナルバントは全く怯まず、僅かも揺らぐこともなく真っ直ぐにトレントの方へと駆けていって……尚もナルバントのことを打ち据える枝を意に介することなく、両手でしっかりと握った柄の短い斧を左から右へと雑に払う。
するとズガムと、木材を斧というよりはハンマーか何かで叩いたような音が響き渡り、その直撃を受けた一匹のトレントがその胴体を粉砕されて力を失いばたりと倒れる。
ナルバントに打撃は効かない。そう判断したらしいトレント達は、魔力でそうしているのか枝の先端を槍のように尖らせて、ナルバントを貫いてやろうと構える。
流石にあれは拙そうだと私が駆け出そうとすると、ナルバントはその目でもって「必要無い」と語りかけてきて……そうしてトレント達の刺突を、その身体で腕で頭で……眉間でもって受け止めて、全く揺るがないどころか瞬きすらせずに、トレント達を睨みつけながら斧を右から左へ、左から右へと力任せに振るう。
2体3体4体とナルバントの斧で胴体を破壊されていって……それで近距離戦では勝てないと悟ったのだろう、トレント達がナルバントから距離を取り、魔法を使おうとしているのかその身を震わせ、枝をなんとも言えない怪しげな動きで振るい始めて……そんなトレント達を殴ってやろうとナルバントが駆け出す。
……が、多脚というかなんというか、その多い脚で素早く、柔軟に駆けて逃げ回るトレント達に追いつくことが出来ず、斧をいくら振るっても攻撃を当てることが出来ず……そうやってナルバントは体力を消耗していく。
直接攻撃されるよりも、そうやって逃げ回られる方が辛いと、体力を消耗してしまうと言わんばかりの苦い表情をしたナルバントは、息を荒げながら大きな声を上げてくる。
「ぼ、坊! 手を貸せ!
奴ら儂の弱点を見抜きおった……!!」
その声を受けて私は、戦斧をしっかりと握り直し……ナルバントの周囲を囲うトレント達目掛けて一気に駆け出す。
駆け出しながら戦斧を振り上げ、力を込めながら振り下ろし……一匹目のトレントを真っ二つにする。
戦斧から伝わってきた感触からすると、トレントは生木というよりも乾燥させた木……
スカスカの木材に適さない木の体をしているようで、思っていた以上に脆いモンスターであるようだ。
素早く動く為なのか、それとも柔軟に動く為なのか……いずれにせよこの脆さならと私は、そこまで力を込めずに戦斧を軽く振るっていく。
ナルバントの脚では追いつけないトレントも、私の脚ならなんとかなるようで……魔法云々はそもそも私では感知出来ないので気にしないことにして、その突きや叩きつけは回避するなり、戦斧で防ぐなりして……そうやってトレント達の数を減らしていく。
ドラゴンに比べてれば雑魚というか、下手をすると黒ギーよりも弱いかもしれないトレント達。
だからこそ、弱いからこそ木に化ける必要があったのだろうかと、そんなことを考えながら戦っていって……残すトレントは一匹、ナルバントが対峙しているそれだけになる。
トレントに顔などがある訳ではないので、あくまで私がそう感じているだけなのだが……最後のトレントは完全に及び腰で、泣き出しそうな程に震えていて、ならば逃げたら良いだろうにと、私が呆れていると……私の表情からそのことを察したらしいナルバントが声をかけてくる。
「こやつらモンスター共は逃げたくとも逃げられんのじゃ。
その身を瘴気に差し出した代償に、瘴気に理性を支配され、本能を支配されて……瘴気を少しでも広めろと、瘴気を持たぬ儂等を殺せと、そう内なる瘴気に命じられておるのじゃ。
戦いに勝つために動き回るのならばともかく、瘴気に汚染されていない……奴らから見れば瘴気以外に汚染されている、この大地を前にして儂等を前にして逃げ出すことなど何があろうと絶対に許されんという訳じゃな。
そこがモンスター最大の弱点であり……哀れな部分でもある。
……であればこそ、さっさと倒してやって瘴気を浄化してやって、その身が自然の巡りに戻れるようにしてやるのが慈悲というものよ。
浄化してやれば巡りに巡って……いつか真っ当な果樹にでも生まれ変わることじゃろう」
ナルバントのその言葉を聞いていたのかどうなのか……半狂乱といった様子で、トレントが私達の方へと駆けてくる。
私とナルバントはそれに対してほぼ同時に手にした武器を振るい……私の戦斧に上半身と、ナルバントの斧に下半身を砕かれたトレントは、力を失ってばたりと倒れ伏すのだった。
戦いを終えてナルバントは、早速とばかりにトレント達の解体を始めた。
まずは魔石を取り出して、枝から葉を落とし、落とした葉を掘った穴に集めて……木くずというか、トレントくずを葉の上に被せて、風変わりな鉄の杭を取り出し、それにナイフを打ち付けて……火打ち石のように火花を起こし、息を吹きかけながら火を起こし、ゆっくりと火を大きくしていく。
「手っ取り早い浄化方法がこうやって燃やしてしまうことになるかのう。
こんな葉っぱでもモンスターの一部じゃ、そこらを歩いている獣共が間違って食ってしまっても可哀想だからのう……しっかりと浄化してやって、その後は土の中に埋めてしまうのが良いじゃろう。
持って帰るのは魔石とこの木材というかなんというか……魔石炉で使うトレント材だけじゃ。
……ほれ、坊もそこらに散った葉っぱを拾い集めんか」
と、そう言われて私は、ナルバントの言葉通りトレント達が散らした木の葉を、小さな欠片も残すことなく拾い集めるのだった。
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