第96話 それぞれのこれから



 ――――帝国、???? ????達



「ああ、全く……あの小娘のせいでとんだ遠回りをさせられてしまった。

 会議を通さないことには僅かな予算すらも引き出せないというのは、やはり問題だと言わざるを得んな」

 

「まぁまぁ、良いではありませんか。結果としてはこうして会議を通り、とりあえずの予算は確保出来たのですから。

 ……あれだけの金があればマイザー達も文句は無いでしょうし、ひとまずは安心できます」


「……本当に全く。

 王位を得ることだけに腐心していれば良いものを、あれこれと余計なことばかりしてくれたものだ。

 挙句の果てにマイザーとその手下が、それぞれの思惑で別々に動き、別々のルートを使ってくるなどと……事が王国側に露呈したらどうするつもりなのだ。

 あの会議では王族の暗殺など不可能だと発言したが……こうなってくるとそちらについても検討の必要がありそうだな」


「まぁまぁ。

 とりあえずは様子を見ようではありませんか。

 ……あるいは我々が手を下さずとも、王国側の誰かがなんとかしてくれるかも知れませんよ?」


「……そんな上手い話がある訳が無いだろうが。

 夢を見るのも程々にしておけ」


「まぁまぁ、まぁまぁ。

 ひとまずは様子見、様子見ということで、ここは一つよろしくお願いしますよ」




 ――――サンセリフェ王国 ???? マイザー

 


「……帝国め、ようやく寄越したと思ったらたったのこれだけか?

 戦時中、あれだけ融通を利かせてやったというのに、あの恩知らず共め……!

 ……まぁ良い、これだけあればとりあえずの動きは取れるだろう。動けるとなれば後は金をある所から奪うだけ……。

 まずはあいつの息子……恩知らずのカスデクスの野郎からだな。 

 あの野郎、王都に来ておいてこの俺に挨拶すらしないとは……ただでは済まさんぞ」




 ――――サンセリフェ王国、リチャード王子のダンスホール ナリウス



「―――と言うような動きが帝国とマイザーにあったようだ。

 そういう訳でナリウス、また依頼だ」


 いつものダンスホールでの、リチャードと二人きりでの立ち話の途中、いきなりそんなことをリチャードから言われてしまって、ナリウスは驚愕し呆然としてしまう。


「え? は? マジッスか?

 リチャード様は帝国の動きまで把握して……? いやいやいや、そんなことよりも、マイザー様って帝国と繋がってるんスか!?

 大事じゃないッスか!? それ!?」


 驚きのあまりにそんな大声を上げるナリウスに対し、リチャードはなんとも煩そうに顔を顰めながら言葉を返す。


「見えない所でやられたなら確かに大事だが、こうして全てを把握している以上は大した問題では無い。

 取ろうと思えば対策を取れる上、こちらの都合の良いように利用することだって出来るからな。

 今回の場合は……後者になる。

 マイザー達が矛先をこちらに向けず西に向けるというのであれば、そのまま西を向き続けて貰おうかと思ってな。

 帝国の金が王国内に流れてくるというのも中々悪くない話だ。

 大きく失敗せず、かといって成功もせず、西に釘付けになったまま帝国の金を浪費し続けて貰う、というのが理想だな。

 そういう訳でナリウス、西方に行ってマイザー達を見張り……状況を見て奴らの邪魔をするなり、手伝うなりして欲しい」


 淡々と何処までも冷静なリチャードのそんな言葉を受けて、ナリウスはわざとらしい揉み手をし、両眉を傾けての困り顔を作り出す。


「いや~、稼げそうな良い話なのはありがたいッスけどね~。

 最近ギルドも忙しいんスよね~。

 なんだか知らないッスけど、ギルドの幹部が何処ぞの辺境領に旅行にいって、そこで支部を作る算段を立てたとかで、人手が足りねぇっつうか、稼ぎ時っつうか~……長時間の仕事ならそれなりの金が欲しいかな~~なんて?」


 そんなナリウスの見え透いた言葉に対し、リチャードは静かに頷いてから言葉を返す。


「ああ、その話なら俺も知っている。

 カスデクス領に新たな支部を作り、新たな商業、物流網を作り出すそうだな?

 新しい支部が出来るというのなら丁度良いではないか。新しい支部に所属しながら俺の仕事もこなしたら良い。

 良かったな、滞在費だなんだと余計な金をかけずに済むぞ。

 そう言えばお前、以前の仕事の際にカスデクス領の食事を大層気に入っていたそうだな? 

 水と食事が合ったというのなら、かなりの長期間の依頼になってしまったとしても問題は無さそうだな」


 澱むこと無く流れ出てくるかのようなリチャードの言葉に、ナリウスは困り顔のまま表情を青くし、硬直してしまう。


 まさかそこまで情報を握られてしまっているとはと戦慄し恐怖し、欲をかき過ぎたかと、今度は心底から困り果てる。


 そうして何も言えなくなってしまったナリウスに対し、リチャードはフッと小さく笑ってみせて、


「そこの椅子の上に置いてある袋だ」


 と、サラリとした態度で端的な言葉を口にする。


 その言葉に促されたナリウスが、椅子の上にある袋の中身を確かめると、そこにはナリウスが欲していた通りと言って良い量の金貨があり……これはこれで恐ろしいと余計に戦慄してしまうナリウス。


 こうしてリチャードの依頼を受けざるを得なくなったナリウスは、仕事に関しての打ち合わせを十分にした上で、金貨が入った袋を両手で抱えあげて逃げるかのようにそそくさとダンスホールを後にするのだった。




 ――――カスデクス領、領主屋敷の政務室 カマロッツ



 この日、カマロッツの主であるエルダンは大理石で作られた座机を前に、凄まじい勢いで山積みとなった書類を読みふけっていた。


 王都滞在中に起きた様々な案件の報告書や、戦後復興に関する計画書、新たな事業に関する立案書に、各所から届いた手紙に。


 そうした様々な書類を読み、必要に応じてサインをし、封蝋印を押してと適切に処理をしていくエルダン。


 そんなエルダンに対し、エルダンの周囲を囲う妻達は働きすぎでは無いかと心配する気持ちを込めての視線を送っているのだが……エルダンはそうした妻達の視線をしっかりと受け止めた上で、それでも尚政務の手を止めようとはしなかった。


 座机の向かいに静かに立つカマロッツもまた、エルダンを心配しエルダンに休んで欲しいとの視線を送っているのだが……エルダンは時たま力強い視線を返してくるだけで、その想いに応えようとはしてくれなかった。


 そうして休憩を取ることすら忘れて懸命に、手早く確実に書類達を処理していったエルダンは、夕刻を過ぎた頃に書類の山の全てを処理し終えてしまう。


「……終わったであるの~~!」


 政務を終えて開口一番そう叫んだエルダンは、深く息を吐いてからぐったりと横たわり、座椅子の脇に並べてあったクッション中に沈む。


 そんなエルダンを見てすぐさまに薬湯入りの水差しを構えたり、エルダンの汗を拭き取ったりと動き始めるエルダンの妻達。


 エルダンの頑張りに応えるかのように、懸命に働こうとする妻達の一人一人の手を取り、一人一人に礼を言って労い……そうしてからエルダンはカマロッツに向けて口を開く。


「予定通り、明日の早朝にディアス殿の下へと向かうであるの。

 支度をよろしく頼むであるの」


 横たわったままそう言ってくるエルダンに対し、カマロッツは無理をせずに休んで欲しいとのそんな想いを表情に滲ませながら言葉を返す。


「そのように急がれなくてもよろしいのでは……?

 一日……いえ、何日かお休みになられてからでも……」


「……そうしたい気持ちはあるけども、今はそうも言っていられないであるの。

 陛下からのお言葉と免税の件と、それと家名と叙爵の件を一刻も早くディアス殿に直接伝えなければならないの。

 数日をこうして政務に使ったことも、実を言えばあまり褒められたことでは無いであるの。

 ……それに僕としてもディアス殿の村を一目みたい気持ちが抑えられないであるの。

 一刻も早くディアス殿の村にお邪魔したいであるの!」


 そう言って……あまり良いとは言えない顔色で笑顔を作り出すエルダンに、カマロッツは少しの間、逡巡してから「了解しました」との一言を返し……恭しく礼をしてから政務室を後にする。


 ……そうして絨毯の敷かれた廊下を、僅かにだが乱れた足取りで進んで行くカマロッツ。


 主人のあの笑顔と顔色を見る度に心が痛むものの、何が出来る訳でも無い無力な自分。

 そんな自分がなんとも情けなくて……その想いが足取りに現れてしまっているのだ。


 そんな風にして廊下を進み、ふと視界に入った窓の向こうの夕日に目を奪われるカマロッツ。

 足を止めてしばしの間夕日を見つめたカマロッツは、


「……神々の山にあるというサンジーバニー。

 あらゆる病を治すというその伝説を、何故神々はエルダン様に与えてくださらないのか……」


 そんな独り言を……恨み節のようにあるいは愚痴のように、心の奥底から吐き出すのだった。




 ――――鬼人族の村 族長のユルト ゾルグ



 ウィンドドラゴンを討伐し、妹であるアルナーに素気無く追い返されて、そうして意気消沈したまま鬼人族の村へと帰還したゾルグは、事情を聞いた族長のモールの命によりモールのユルトへと足を運んでいた。


(よりにもよって族長の下に呼び出されてしまうなんてな……一体これから何が始まるってんだ?)


 意気消沈したままユルトの中に座り込み、そんなことを考えて更に暗い表情となるゾルグ。


 ユルトの奥にある棚の中を漁っていたモールが、その中にあったらしい袋を取り出してからそんなゾルグの下へとやってくる。


「……ウィンドドラゴンを三匹も狩るとはね。

 まぁまぁ、お前にしては良くやったじゃないか。

 これまでの事があるから手放しで褒めてやる訳にはいかないが……それでもまぁ、いくらかは見直したよ。

 ……ほれ、これを受け取りな」


 そう言って棚の中から取り出した袋を差し出してくるモールを見て、ゾルグは一体何なのだろう? と首を傾げながらその袋を受け取る。


 するとシャリンと独特の音が袋の中からしてきて、その音を耳にしたゾルグは慌てて袋の口を閉じていた紐を解き、袋の中身を引っ張り出す。


 青い角にいくつかの穴が開けられていて、その穴に宝石や金属の輪を通して作ったというようなその角細工を一目見るなり、ゾルグは青ざめ硬直する。

 

 その角細工は、今は亡き族長の一族達の角を使って作った……族長候補にのみ渡される、鬼人族の持つ宝の中でも最も尊い宝とされる物だったのだ。


「は……? へ……? お、お、れ、おれ、俺が!? 族長候補!?」


 混乱し、動揺し、どうにかそんな言葉を吐き出したゾルグに対し、モールは鋭く厳しい目を向けながら口を開く。


「……今までの事が無けりゃすぐにでも族長にしたんだけどね。

 今までがあまりにも酷すぎたからとりあえずは候補止まりだよ。

 輪の数を見れば分かる通り、お前は三番目だ」


 そう言って一旦言葉を切ったモールは手にした杖をドンと力強く突き立てて、座り込むゾルグの眼前に顔を突き出し、そうやってゾルグの目をきつく睨みつけながら言葉を続ける。


「……隣人のドラゴン殺し。

 あれを利用するにせよ、抱き込むにせよ、対等に付き合っていくにせよ……こちらにもドラゴン殺しが居るというのは、内にも外にも分かりやすく喧伝できるからね、悪くないんだよ。

 その上アンタはあれの下にやったアルナーの血縁ときたもんだ。

 ……狩りの話を聞く限り、あれとも上手くやれているんだろう?

 後はアンタに相応の自覚と覚悟と経験があれば……悪くない族長になるはずさ。

 とりあえず遠征班の仕事はもう辞めな。しばらくは私の下で族長のなんたるかを学んで貰うよ。

 ……ああ、それと嫁取りは私の方で相手を決めさせて貰うからね……まぁ良い相手を見つけてあげるから安心おし」


 そう言ってゾルグの目を強く睨み続けるモール。


 モールの目と態度とその身に纏う空気は、ゾルグに頷き肯定することしか許してくれず……そうしてゾルグはモールに求められるがままに頷き、全てを受け入れてしまうのだった。




 

 ・第四章リザルト



 領民【95人】 → 【98人】

 内訳 カニス、エリー、ベン。



 ディアスは家畜【ガチョウ】6羽を手に入れた。

   ―――その後ガチョウのヒナ2羽が孵り、合計8羽となった。


 ディアスは家畜【メーア】6頭を手に入れた。


 ディアスは家畜【馬】一頭(アイーシア)を手に入れた。



 イルク村の施設【厠】が増設された。

 イルク村の施設【厩舎】が増設された。


 イルク村に施設【竈場】が建設された。

  ―――それに伴い施設【井戸】が増設された。



 ディアスは【ウィンドドラゴン】を討伐し、その素材を2・5匹分手に入れた。

 ディアスは謎の草【サンジーバニー】の葉3枚と種1つを手に入れた。



 いくらかの金貨を支払い、商人ペイジンから物資や工芸品を購入した。

 アイサとイーライから土産としていくらかの物資を譲り受けた。



 イルク村の食料は少しずつ減り始めている。


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