第2話 領地と出会い
草原での暮らしが始まってしまって……まず私がしなければいけない事は何か。
答えは悩むまでも無く、水と食料を確保しつつ住む場所をなんとかすることだろう。
これからこの草原で何をするにしても、野垂れ死ぬことだけは回避しなければならない。
水場を見つけて、食料を見つけて……洞窟とか、あるいは大木の木陰だとか、そういった住むに適した場所を見つけなければ……。
そう決めたなら早速行動だと私は向かう方角を適当に決めて、歩き始めた。
歩き始めてすぐにサラサラと流れる小川の発見に成功する、川の水は川底が見える程に澄みきっていて……私は思わずに喜びの声を上げてしまう。
戦争中は泥水を啜る毎日だったから、綺麗な水があるというのはそれだけでありがたい。
川があればそこには色々な生き物が居るだろうし、食料確保にも期待が持てる。
川の水を少し飲んで喉を潤してから、しばらく川を眺めて……食料になりそうな生き物が居ないかと探すがすぐには見つからない。
このままここで生き物を探し続けても良いのだが……いや、住む場所を探すのも大事だと私は移動を決断する。
食料確保と住むのに良い場所を求めて、歩いて、歩いて、歩き続けて……そうしてかなりの時間をかけてあっちへ、こっちへと、踏み潰した草を目印にしながら歩いて……うん、よく分かった、理解した。
私の領地、草しか無い。
何処まで歩いても何処までも果てしなく草原は広がり続けて、視界に入ってくるのは草、草、草。
洞窟のような都合の良い存在が無いのは仕方ないにしても、まさか木の一本すらも見当たらないとは思わなかった。
木があればそれで家……とまでは言わないが雨除けでも作ってそこに住むという選択肢もあったのだが……。
日が段々と傾き始めたのを見て私は小川へと戻ることにした。
小川へと戻り水分補給をしてから、草原へと腰を下ろし、ぼーっと風に揺れる草を眺めながら体を休める。
草を眺め、草がこれでもかとあるのだから草を役に立てられないか?なんてことを考えてはみたものの、千切って食べてみれば味は不味いの一言で、膝丈ほどの長さの草の葉は柔らかく、脆く何かに活用するということはまず不可能だろう。
役立たずの草だけが大量にあってもなぁと私は深い溜め息を吐く。
そうこうしているうちに日が暮れ始めて、辺りは暗闇に包まれていってしまう。
数歩先も見えないこの暗闇の中ではこれ以上何か行動するのも不可能だろうと判断して、私は草原に寝転がる。
今日はもう寝てしまって明日になったらまた行動しよう、何が出来るかも分からないが行動するだけしてみて……それでも状況が良くならないのなら、ここから逃げることも考える必要がありそうだ。
色々な人に怒られるかもしれないが、だからといってここで野垂れ死ぬなんてのはごめんだ。
そうだな、後……2日程粘って駄目ならば馬車の車輪の跡を頼りながら移動して、近くの村にでも行って……そこで何か、人の役に立つ仕事を探して生きるとしよう。
そんなことを考え始めたらいくらか気が楽になって……両親の遺言も守れそうだと心が軽くなって……そして瞼が重くなり始める。
そうして私は草の匂いに包まれながら夢の世界へと旅立った。
「―――!―――!」
誰かの声がする。
「―――!―――!」
同じような内容を何度も何度も繰り返すその声は、私のすぐ側で鳴り響いていて……もしかしてこの声の主は私に話しかけているのだろうか?
「―――!―――!」
オキロだとか、オマエハダレダとか……全くもって五月蝿い。
五月蝿い五月蝿いと呻きながら、仕方なく聞こえてくるその言葉の意味を考えて……声の主は起きろと私に言っているのだと寝ぼけた頭で理解する。
今は……もう朝らしい、瞼を閉じながらも太陽の光を感じることが出来る。
声の主はもう朝だから起きろと私に言うのだろうか。
しかし私はまだ眠い、まだ起きたくない。
私は声の主に背を向けるようにして寝返りを打ちながら再度夢の世界へ旅立とうと……今度はどんな夢を見ようかと考えながら微睡んで……そして夢の世界に旅立ち始めたその瞬間に、恐らく背中を蹴飛ばされたのだろう、突然の衝撃を鎧に受けて、その衝撃と音に驚き思わず飛び起きる。
飛び起きて目を見開いた私は、私の背中を蹴飛ばした犯人に抗議をしようと、意識を覚醒させながら犯人の姿を霞む視界で探し始める。
次第にはっきりとしていく視界が犯人の姿を捉えて私の意識にその情報を送ってきて……そして私はその犯人の姿に言葉が出せない程に驚かされてしまう。
犯人は顔に赤い塗料での炎を思わせる模様の化粧をしていて、不思議な柄の布をその身に巻きつけている女性だった。
その格好は中々に露出度が高い格好と言えて、褐色の肌がなんとも目を引く。
が、それらよりも何よりも私の目を引き、私を驚かせるのは……その額に生えた青く輝く角だった。
まさか角が生えた人が存在するだなんて……と、私は驚きのあまりにただただ呆然としてしまうのだった。
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