君と君と俺と俺と思い出を待つ
直井千葉@「頑張ってるで賞」発売中
君と、俺と
無知へ
完璧な朝というものがあると思う。
例えば、子どもの頃のクリスマスの朝。
前日から、あるいはもっと前から待ち遠しくてたまらない。
うちでは子どもが寝相でどこかやることがないようにと靴下を寝室に置かず、リビングのテーブルの上に置くことになっていた。朝起きて自分の布団を抜け出してリビングに向かうときの興奮は今も覚えている。そこに望むお宝があると知って向かう宝箱のようなものだ。
宝箱を開けたとて、そこに宝があることや、あっても望むものであることは稀ということを知った今となっては、二度と得難い冒険だったと分かる。
しかし、あの日の起床はその幸福な冒険にほど近いと思った。
異世界で魔王を倒し、元の平和な世界に戻ってきた朝。
ただ戻ってきただけではない。これからは隣に異世界で俺を支えてくれた大切な人がずっといてくれる。転生というシステムの都合上、一緒に戻ってくることは出来なかったが、そんなことは些細なことだった。寧ろ最後の宝箱を開けに行くような高揚さえあった。
約束をしたためいずれは会えるだろうが、互いにどこで目覚めるか分からない以上、それがいつかは分からなかった。だけど、絶対に会えると信じていた。
俺たちは五年間共に旅をして、幾度の困難を経験し、それを乗り越えてきた。
そして世界を救った。
これからだって、どんな困難もふたり一緒なら乗り越えていけるに違いないと信じていた。
そう思っていた。
彼女にはすぐに出会うことが出来た。
運命であることは疑いようもない。
肌の色は少し記憶よりも白く、現代的な衣服を着ている様子を見るのも久しかったが違いなどそれくらいだった。
変わらない顔で、変わらない声で、変わらない彼女は、変わらない俺に言った。
「魔王……? 異世界……? 大丈夫? お医者さん呼ぶ?」
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