第84話 ラストスパート(11)

(解けた!冷静に考えればこのコースに詰める箇所が他にもある。そのようなこと本当にするの?でも、それが事実なら認めねば勝ち目はない)


「603」はすぐ後ろに迫る恵の姿を脳裏に浮かべていた。映像は鮮明に描かれている。

 スピードを上げて最小限の減速でカーブに入る準備をする。このスピードを保てなければ次はない。これほど気を使うカーブ走行はロードでも体験したことがなかった。


(私の考えに間違いなければ来る!水城恵)


 「603」が内側からカーブにかかる。外側から恵の姿が現れた。


(やはり、そうかあ!)

 

 恵は外側からカーブを曲がる。減速なし。それどころか後輪を空転させながら滑っている。まさにドリフト状態だった。ゆっくりと「603」に覆いかぶさる。カーブを抜けると2人は並んで走る。直線では「603」が前に出る。このまま直線が続けば「603」が勝つのは明らかだ。だが、スピードを上げてもその先はカーブ。スピードを出せば出すほど減速も大きくなる。かたや恵は減速することなくカーブを抜けていく。


 最終カーブの手前、2人は並んで走る。スピードがのりつつある恵はカーブ手前で「603」より前に出た。


「ラストチャンス!」

 

 恵は叫びなが、後輪を滑らせて「603」を抜きにかかる。「603」もカーブを高速で切り抜けるが、恵の背中が次第に視界に入ってくる。


(本当に滑りを味方にするなんて。ロードとは違う。これがMTBか。だが、まだ負けてはない。妃美香様の邪魔はさせない)


「603」は恵の背を追いスピードを上げていった。 




(これは・・・・・・明らかに空気が変わった)


 目の前の有紀を追う「602」は後方の状況変化をいち早く感じ取った。


(後ろの暴れ者が目障り。今は、妃美香を守るが先決。目の前の東第一を抑える)


 「602」は有紀の後ろからジャンプ台に入る。


 恵の目にもジャンプ台が映る。有紀も妃美香もその視界の中に入ってきている。


(なんだろう。もう、前に進むしかない。この気持ち、抑えられない。前も後ろもキチキチなのに)


 恵の足に力が入っていく。こみ上げてくる緊張に思わず笑顔がでてくる。


(やっぱり、いいな。この雰囲気) 

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