第74話 ラストスパート(1)
開会式が始まる。その後は、恵の出場するCクラスのレース開始へとつながる。
「これ食べて」
美樹雄が栄養補給の携帯ゼリーを渡す。恵はそれを受け取ると、素早く口に含んだ。冷たい感触が熱くなった喉を冷やし、マスカットの風味が口に広がっていく。
「Cクラスは短期決戦だから、はじめから全力で行くことになります。スタートから神沢に食らいついてください。出遅れると命取りです。遅いグループに巻き込まれると挽回は絶望的だから」
「うん。分かった。ありがとう」
美樹雄の言葉に頷くと恵は一気にゼリーを吸い込み、パックをクシャッと握った。
開会式が終わり、Cクラスの集合がかかる。
「では、今回も行ってきます」
恵は、昨日と同じように敬礼ポーズをしてヘルメットを被った。フルフェイス型ではなく、芽久美がエイリアンと言っていたスポーツタイプのヘルメットだ。
「水城さん。今回はどうも様子が変です。神沢だけじゃない。取り巻きもいる。それに、有紀もメグも加わる。他にも多くの力ある選手がいます。スラロームは1対1のレースだけど、クロカンは1対多数。周りに気を配らないといけません」
「ありがとう、美樹雄。ワクワクするし、やばい感じもする。なんだろうね。この胸騒ぎ。昨日とは違う何かがありそう。でも、たぶん大丈夫。まあ、どのみち私は全力でいくしかないもん」
恵はガッツポーズをして元気をアピールすると奈美がピョンと飛びついてきた。いつもの奈美にもどり黄色のウェアが似合っていて可愛く笑っている。
「恵ちゃん。私、恵ちゃんと走りたい。このレース見たらきっと、走りたくてたまらなくなる。応援してるから」
「奈美ちゃん、いつもありがとう。元気出るよ。あいつに、一泡吹かせてやる。朝見校なめるなよ!」
ギュッと拳を握りしめ、ニヤリと奈美に笑う。
「なあ、今日は例のやつやらないのか」
瞬がテントを出ようとする恵を呼び止めた。
「あっ、そうだあ。じゃあ、例のやついきましょうか」
円陣を組む。
「朝見校!ファイト!めざせ、ナンバーワン!さらなる高みへ、ゴー!」
奈美、美樹雄、瞬は恵に応援の気持ちを込めてハイタッチをして送りだした。
その気持ちを受け取ったと伝えるように、恵は後ろ手にVサインをしながらテントを出ていった。
まさに強大な帝国の女王に挑む若き新米騎士。美樹雄は恵の後ろ姿にそれを見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます